27. 敗走のスマート
Soak
[動](他)1.…をびしょぬれにする
2.…を(水などに浸して)落す,抜く,消す
Septum
〔生〕隔壁,隔膜.
「くそっ! グレイスめ!」
吐き捨てる様な怒鳴り声が聴こえてきたと思いきや、扉が背後で乱暴に開かれた音がした。
スマートか。
「仕方ない、既に過ぎた事だろう」
「いつまでも悔しがってないで次に進もうよ〜」
「うるさい!」
呑気なことを言う異形に対して、スマートが唾をスプレーしながら怒鳴り散らす。
どんだけ悔しかったんだ、コイツ。
と言うか、スマートってここまで取り乱す様な人だったか?
「そんな事より彼女とは別に思わぬ伏兵が居たと聴いたぞ?」
「それは僕も知りたい所だね~」
先程スマートから唾シャワーをもらった2対の羽の様な仲間がスマートの周りに纏わりつくと、彼らはそれぞれ対照的な声でスマートに話し掛けた。
「伏兵なんて物じゃない。化け物だ」
「ほう、それは詳しく知りたいな」
あのスマートは基本的に常に冷静なのだ。それがここまで荒れているのは本当に珍しい事である。
スマートをここまでキレさせたというその伏兵に興味を持って自分も振り返ると、眉間にシワの寄ったスマートが視界に入った。
「私の芸術品を破壊されたのだそ!」
「あの悪趣味な融合体を?」
「あー、アレは破壊されて正解なような……」
俺も悪趣味だとは思う。
人間の血を啜る樹木の化け物の一体何処が芸術なのだろうか。
そりゃあ今回の計画の過程でできた副産物を再利用して兵器開発するのは一向に構わないが、スマートの場合基本的にその兵器は悪趣味なのだ。
誰に似たのだろうか。
かつてレメディがこいつに薬学の手ほどきをしたらしいが、もしかしてそれが理由だろうか?
「悪趣味とは失礼な。あの芸術品を素人同然の地球人に破壊されたんだぞ」
「お前それはただのバカだろ」
つい反射的に言ってしまう。どうせ高いプライドとキザさが災いしたに違いない。
「うるさいな。まだ話は終わってないぞ。魔力反応を調べたらあのこなの物と酷似していた事が分かったんだぞ! あの噂が、真実だったと言う裏付けだぞ!?」
どうやらスマートが戦ったのは、この間ファントム様が独断でブラックリストに投入したあの訳の分からないガキらしい。
「ほう……こなか」
「ハハハ、確かに伏兵だな」
こなとよく似た……いや、同じ魔力を持つ地球人の少年が出現したというのは、此方から潜入させているスパイからは耳にしていた。
X-CATHEDRAには巨大な諜報部が存在しているため、その真偽はなかなか測りきれない所もあったが、スマートがそいつと交戦したのならばそれは間違いなく事実なのだろう。
「警戒する必要があるな」
X-CATHEDRAに関する情報は、基本的にスパイを持ってしてもなかなか落ちてくる事は少ない。
情報が落ちてくる時は、大抵は嘘であるか事実を都合のいいように切り取った物であるか。あるいは、情報を意図的に流しているか。
そんなケースも少なくないので、情報についてはかなりの力を割かないと手に入らないのだ。
なんせあそこはギルドとしての役目を果たす依頼部も巨大だが、実は諜報部も同じぐらい規模がデカい。
情報の収集に情報統制。この2つには命をかけていると言っても差支えのない組織なのだ。
「確か今もブラックリストに載って居ましたよね?」
「そうだ……」
情報を仕入れてきたのはファントム様だ。
ファントム様は一体どこからああ言う情報を仕入れるのか。
こちらのスパイですら知らないような情報を簡単に仕入れてくるファントム様は、良く分からない御方だ。
「さて、そろそろ見回りに行かないと……」
そろそろ任務の時間だ。
「――――にか?」
「ああ、ではまた」
俺もこうしては居られない。
X-CATHEDRAはあっと言う間に敵を追いつめる。そしてその手段はそれこそ我がルナティックよりも邪悪だ。
「あいつも真面目だな」
「幹部昇進して日が浅いからな」
「我々が昇格した時は、もっと図々しかったな。なあスマート」
「……だな」




