26. 元スターズ
「面白い種ねー」
「パラフェリス汚染種子って言うらしいです」
「汚染種子?」
僕は今、メタリック中央病院に居る。あれからX-CATHEDRAと提携しているこの病院へと村人は皆かつぎ込まれ、治療を受けている。
「スマートがなんか言ってました。黒の魔法だかを吸着するとかしないとか、それを応用して血液をなんとかかんとかするとか」
「黒の魔法? 何かしら。血液中の特定の物質を吸着するなら、その技術をちょっと応用すれば血球じゃなくて細菌を養分にして……とか色々対応出来るわね」
僕はと言うと特に異常はなかったらしい。肋骨が痛いって言ったら『気のせい』とレメディに言われた。なんだよそれ。くやしい。
「村人たちは?」
「実質的に薬品漬けだったし、白血球の減少率が致死的な子も居たけどまあ無事よ。今輸血中」
「良かった……」
「しかし面白い薬品ねぇ……流石はスマートね……」
スパイダルートの死骸から抽出できた粘液を瓶詰したものに対してレメディがそれを光に当てて観察していると、院長室の扉がコンコンと鳴った。
「どうぞー」
「失礼します。大丈夫でしたか?」
入って来たのはグレイスさんだ。
「うん、肋骨は、き、気のせいだって」
「そうでしたか。無事で何よりです」
「そう言えばグレイス、さっきの話はなーにー? 裏切りとか聞いてないんだけど」
「それは……」
確かに気になる。明らかに顔見知りであるかのような発言だ。そう思っていたらグレイスから飛び出したのは爆弾発言だった。
「私は、元ルナティックなのです。ルナティックが生まれてから、ルナティックにスカウトされて直接あの組織に所属し、ルナティック・スターズを従える大幹部だったことがあります……」
……何だって!?
「まあ、それも昔の話ですが」
「グレイスどう言う事よ?」
「早い話が、寝返ったのですよ。こなさんに直接説き伏せられまして。何でも今は後任がいるとか……」
グレイスいわく、彼女は昔あのこなの命を狙って単身であのギルドに突撃し、こなとガチンコで殺りあった仲である、とのこと。
スマートの所属していた組織の幹部であったらしいというのも訳の分からない話だが、レメディはその話を聞いて顔を青くした。
「姉上と殺り合う……正気か……?」
「勿論ですわ」
「しかも正面から……?」
「ええ」
「正気か……?」
「ですからそうだと言ってるではありませんか」
コイツよく生きてるわね、とレメディがドン引いた様子で呟く。
心外だと言わんばかりにグレイスはふん!と鼻を鳴らした。
「とにかくそう言った事情で、ルナティックの面々は私のことを快く思っていません」
「……」
「でも、今はこっちの人間なら別に良いじゃないですか」
「ありがとうございます」
僕がそう言うとグレイスは微笑んでくれた。
「まあ、それはそうなんだけど……いや、やっぱ正気じゃないわね……」
「そこ、まだ擦ります?」
「いや、だって姉上って文句無しで世界最強の生物よ? 無理筋過ぎる」
「こなさんも人の子なのですから勝ち筋はちゃんと有りますよ。常人には見つからないだけで」
「で、アンタはそれを見つけたの?」
「そ、それは……」
「ほらー、やっぱ正気じゃーー」
「と、ところでグレイスはどうしてここに?」
永遠に続きそうなので話に割り込むと、彼女ははっと気を取り直したかのように姿勢を正した。
「あ、はい、その事なのですが……彗さん、席を外して頂けると幸いなのですが」
「あー、分かりました」
慌てて席を立ち病室を出ると、直後に扉が何やら薄い膜で覆われた。
防音魔法だろうか。何やら機密事項についての話らしい。
……僕の魔力はどうやら自分の思っているよりも相当特殊な物であるらしい。
まあ、今しがたレメディが言っていたように、僕の魔力は世界最強のこなの魔力を受け継いだ結果の賜物だ。僕の体内には今世界最強と言われる物と同等の物が走っている。
ブラックリストに載るには十分だと、言われた。
それはどういうことなのだろう。世界最強の魔力を持っているから危ないということなのだろうか。
僕以外にもあの事件に巻き込まれた人は大勢いたはずだ。彼らも皆そうなったのだろうか。
疑問は尽きない。
それから約15分後、僕は地球人に変身したグレイスと一緒に地球にいた。
「ではまた」
「お疲れ様でした!」
あの後少ししてからグレイスが外に出てきたと思った瞬間、グレイスは素早く僕を転移させてくれたのだった。
空間転移魔法、めっちゃ便利だ。これ、どこかで覚えられないだろうか。
そんなことを考えながら何気なくスマホの時計を見てみると、もう時刻は完全に朝になっていた。普通なら20分後には目覚めてる時間だ。
「ただいま」
「おかえり。依頼どうだった?」
帰宅してみれば、母さんはもう起きていた。早起きだ。
「散々だった……怪しい組織出て来るしさ」
家についたら疲れがどっと出てきた。
「あら、気になるわね。大丈夫だったの?」
「まあ、うん。その話はちょっと後でいい? 今日は疲れた……」
母さんにお休みも言わずに自室に戻ると、眠気のダムが途端に決壊した。辛うじて睡眠圧縮剤を口に放り込んでベッドに倒れ込む。
「疲れ……」
意識が闇に沈んでいく快感……




