25. 閃光
「あなたは大人しくここで捕まるのよ!」
颯爽と現れたレメディの腕から、ピンク色の閃光のような何かが走りスマートを攻撃する。
すると彼は鞭で弾くと、苦虫をかみつぶした顔で彼女の方に視線を向けた。
「はっ、まさか。貴方のリボンの動きは全て見切っている!」
スマートが鞭で応戦すると、呼応するようにレメディの腕から直接生えてくるように出現したピンク色の薄いリボンが空を切り裂く。
これをスマートが飛び退く様に躱すと、彼は懐から銃のような物を取り出し紫色の弾丸を放つ。
レメディのリボンがこれを払う様にして受け止めると、彼女もまた懐から目にも止まらぬ速さでスマートに向かって何かを投げ付ける。
「なかなかやるわね、でも少し遅いんじゃない?」
スマートがその何かを鞭で叩き割ると、そこから何やら液体がぶちまけられ、その飛沫が鞭に掛かった瞬間、鞭が煙を上げブツリとそこから弾け飛ぶ。
「なっ!?」
次の瞬間、再び彼女の腕からピンク色の閃光が走り、スマートの頬に切り傷が刻まれる。
「まさか元師匠をそう簡単に超えられるとでも思っているわけ?」
もくもくと煙を上げる地面を見れば、そこには割れた注射器が転がっている。
レメディが投げた物だ。……注射器??
「がはっ!」
「――あなたは私が居た時から動き方やその際の癖が変わりませんね?」
注射器に気を取られている内に、光が一筋伸びて僕の視界の端でスマートわ貫く。
新しい声。これにも聞き覚えがある。
「チッ、その声は……」
「グレイス!」
グレイスさんだ。そう言えば、自分が電話を付けっぱなしでいた事を思い出した。
「貴方からの電話が尻切れ蜻蛉でしたので、来て見ました。遅くなって申し訳ありません」
「よ、よかった……」
2人の登場に、思わず地面にへたり込んでしまった。この2人がきたのならもう安心だ。
「くっ、裏切り者め!」
「常にプランAが失敗した時に備えてプランBを用意しておくべきよ」
「所で最近の財政状況はどうなんですか? ひょっとして……私が居なくなってから悪化などしていませんですよね?」
「うるさい!」
スマートの言葉と共に弾丸のような速さで爆弾がグレイスの元へ飛んでいく。
「【光の鏡】」
グレイスの滑らかな詠唱と共に、一瞬彼女の前方に白い膜が表れた。すると飛んできたはずの爆弾は見事に跳ね返され、スマートの元で爆裂した。
爆弾の直撃を食らいよろける彼をしり目に、グレイスは涼しげな眼をしてこう言い放った。
「まあ、今時のルナティックときたら、幹部の果てまで言動が荒くて野蛮ですね。まさか皆そうなのですか?」
何だかついさっきそんなセリフを聞いた気がする。
「ぐっ……黙れっ!」
無詠唱で鞭を修復したスマートが鞭をしならせ、衝撃波を放つ。
グレイスは祈るような仕草で膝を付くと、その衝撃波が四散し、更に二重螺旋を描く光のビームをその祈るように組まれた手から放つ。
「礼儀作法も弁えず、質も低下してしまっているとは嘆かわしい限りですね。これではルナティック崩壊も、時間の問題でしょうか」
グレイスの口から品は良くてもかなり挑発的なトーンで言葉が発せられる。
間一髪でビームを回避したスマートはチラリとレメディの方に視線を向けると、吐き捨てるように喋りだした。
「フン、過去の者が何かをヌカしてるようだが、どうやら我々の新たな目的を知らないらしいな」
「新たな目的ですか?」
「貴様がいた時代はもう既に終わってるんだよ」
何やら不穏な話だ。
「大幹部2人は分が悪い、今日の所は退いてやる。そこの地球人、いつかこのツケは払わせてやる」
そう言うとスマートは何か真っ黒い眼鏡を掛けた。
「逃がさない!」
「さらばだ!」
眩い光が彼の足元から放たれ、反射的に目を覆い守る。
「うあっ!」
「閃光弾……!」
眩い光が消え去ると、もう彼の姿は無くなっていた。レメディのリボンが虚しく空を切る音だけが辺りに響く。
「逃がしたみたいね」
「所でこの焼けた塊は一体?」
グレイスがそう言うとほぼ同時に、黒焦げの塊が崩壊し、中から村人たちが溢れ出した。
「おえっなんだこれ、超くせー」
「ままー、べたべたー」
「あれ俺生きてる?」
村人が化け物の残骸から出て来たみたいだ。すっかり中に村人達が居たのを忘れていた。
思い出していたら、あんな作戦は取らなかったし、完全に負けていただろう。
「うおっ、やったのか!」
「あっ!大丈夫ですか!?」
森から出てきた時に一緒にいた人たちも無事なようだ。とりあえず、全員生存だろうか。
「ああ、大丈夫だ」
よかった……
「これは研究の余地が在るわね……じゃなかった、私はメタリック帝国の医師です。皆様の事をこれよりメタリック病院に集団転移させるのでーー」
「さあ、星野さんも帰りましょう、疲れましたでしょう? それに村人の手当てもしないと……」
レメディが村人たちに向けて声をはりあげながら、地面に魔法陣を描き始める。
グレイスがその最中に僕に声をかけてくれたところで、僕はゆっくりと頷き、彼女の手……ではなくその耳を取ると、直後に空間転移によって辺りが歪み始めたのだった。




