250. 欠けたパーティ
Revulsion
1.(感情・考えなどの)激変,急変,急激な反動
2.(激しい)反感,嫌悪,憎悪
3.引き戻し;回収
4.〔医〕誘導法
Reactivate
[動](他)…を再び活発にする,復活させる
━(自)再び活発になる;復活[再開]する
放課後に、話があるんだ。
思い詰めた様子で俺の親友はそう言うと、足早に去って行く。
最近の彗は、思い詰めている事が増えた。
この間もソラが誘拐された時もこんな顔をしていたが、今回はもっと深刻そうな……ああ、そう言う事か。
「で、どうした彗」
「ああ……巧……」
放課後に適当な空き教室へ峰さんと入ると、彗はぼうっと日の沈みかけている空を眺めていた。
俺たちが来たことに気付くと、勝手に扉が閉まり、鍵が掛かる。
「お前またそう言う顔してるのな。ソラにフラれたか?」
「違うよ。第一ソラは……友達、だし」
心ここに在らずと言った様子で返す彗に、峰さんと顔を見合わせる。
何処か引っ掛かる言い方だ。何か有ったのか。
「でもソラ関係だろ」
「……まあ」
ほら、否定しねぇし。
「何が有った?」
「どうしたの? 彗今朝から調子悪いみたいだよ?」
「……実は、さ」
今日は秋風が気持ちいいのに、彗の周りだけ空気が梅雨みたいに重苦しい。
ただならぬ様子で焦点がぼやけていた彗は目を閉じて息を吐くと、その焦点が此方に定まった。
そして、意を決した様に彼の口から出た言葉は、到底信じられるものではなかった。
「……ソラが、さ」
――指定暗黒組織D.E.A.T.H.の幹部、アトモスだった。
「んん??」
……などと、意味不明な事を供述をしており。
「いやいや意味分かんねえし。だってソラはそのDEATHに誘拐されたじゃん」
「自作自演だと、言っていた」
んなバカな。どうやってあんなのを自演すんだよ。と言うか何の目的でそんな事するんだよ。
「待って、だとしたらソラはなんでDEATHなんかに?」
そうそう。理由がないじゃん。ナイス峰さん。
そうぼんやりと考えていたら、彗はポツポツと、事の顛末を話し始めた。
曰く、こないだのお泊まり会から疑念を持っていた事。
曰く、偽アトモス作戦に加担した事。
曰く、ソラが並々ならぬ憎しみを伊集院に対して抱いていた事。
曰く、伊集院は最初からソラをアトモスと睨んで、今回の件を仕組んでいた事。
そのどれもが、にわかには信じがたい内容で、俺と峰さんはお互いに顔を合わせた。
「う、恨みって……」
峰さんが受け入れがたそうに言うと、彗は首を振った。
「AAAAには、よく分からないけど大切な人を殺されたらしい。X-CATHEDRAは……分かんないけど弟を殺された、と思っていた。伊集院くんはそんな事してないと言っていたけど……」
正直、今回の一件で伊集院くんを何処まで信じたらいいか分からない。
彗はそう言って、再び俯いてしまった。
「……」
「僕は、どっちを信じたらいいか分からない……!」
ーーソラも大切な友達だし、伊集院くんも今まで、僕をここまで導いてくれた恩人だ。
だからどっちも信じたいけど、どっちも信じられない。
そう言って彗はそのまま言葉に詰まった。机の上に置かれていた彗の握りこぶしは、両手とも真っ白になるまでに力を込められていた。
一体、ソラに何があったんだ。
何処をどう間違えたら、テロ組織のナンバー2なんかになっちまうんだ。
「……とりあえず、その事件の真相を調べてみないと、何とも言えないよね」
「そうだな。ソラがそんな事になっていたのはちょっと信じられねえけど……今の状態では判断付かない、よな」
「まずは、調べてみようか。私達も一緒に」
そこでようやく、彗は顔を上げて見せた。
涙こそ流してはいなかったが、眼が若干腫れている気がする。
「ああ。俺たちでも出来ることはあるさ」
「そうだよ。まずは色々調べて、その上でソラちゃんを説得してみようよ」
「……ごめん。ありがとう」
やっと、弱々しくても笑えるようになったようだ。
「お前が謝る必要無いだろ」
だから全部一人で抱え込むなよ。
こいつは最近色々と抱え込み過ぎな気がする。
「そうだよ。そもそも、私たち『4人』友達なんだし、そこは持ちつ持たれつだよ?」
そんな時、チャイムが鳴った。機械を通して、劣化した音だったけれど、俺たちには澄んでいる様に聞こえた。
「行こうぜ。次理科総合だろ」
「……うん」
「とりあえず放課後になったら早速調べないと行けないな」
「そうそう」
俺たちは絶対にソラを助けてみせる。
前回がフェイクだったと言うのなら、今度こそ。




