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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第17章〜Ripped Relationship〜
248/269

247. 黒き者と黒き者

 そして――予定時刻よりちょっと前、午後4時55分。待ち合わせ場所の廃墟に僕は来た。

 毎度の事ながら嗅ぎ慣れた埃の香りがする。


「……」


 ……そういえば、廃墟でとは書いてあったが廃墟のどこで待つと言う話は書いていなかった。

 とりあえず地下の転移装置周りに行く必要はないと思っても良いのだろうか。


「……はあ」


 居た堪れなくなって床を見ると、埃が全体的に薄くなっていることに気づいた。

 初めて来たときは埃まみれだったのに、最近は僕がここを使っていたからなのか、幾つか埃が薄い箇所があるのだ。


 そう言えば、地下では蠍と戦った事もあった。あの時は神経毒のガスを撒かれて負けたんだっけ。


 アトモスは何をしてくるか分からないから、警戒しなくては。

 簡単な解毒魔法なら最近魔導書を見て会得はしたけれども、それだけでは不安だ。


 思考がこうしてほかの事に逸れているのも、きっと僕が早くこの時間が終わって欲しいと願っているからだ。

 腕時計の音がやけに良く聞こえ、何とも規則正しく木霊する。


 早く始まらないだろうか。早く終わらないだろうか。早く終わらせてほしい。


 この時間が、僕には辛過ぎる。





『……良ク、来タナ』


 音もなく忍び寄って来たそれに反応して振り向けば、純白の仮面を被った黒装束が1人居た。


 ーー始まった。



「……」

『アカラサマニ緊張シテイルナ。ソウ強張ル必要ハナイ』


 加工を重ねた機械的な声。何時聴いても全身の毛が逆立つ音だ。


「……」

『ドウヤラ言ワレタ通リニ、ヤッテ来テクレタ様ダナ』

「当たり前だ」

『ココニハ誰モ来テイナイナ』

「もちろん。僕がそれは確かめている」


 この建物には今、僕以外の人の足跡は無い。

 空を飛んでいれば話は別だが、空を飛ぶのには風魔法や重力魔法を使う。

 つまり痕跡が埃の舞い上がった跡として残る。そしてそういった物もここには無かった。


 だから、最初から僕一人だ。


『ナラバ良イ』

「……で、何?」


 この瞬間が、一分一秒が、苦痛だ。

 しかも、こういう時に限って時間の流れは遅く感じてしまう。早くこのまま、何事もなく終わらないだろうか。


『マアソウ慌テルナ。私タチハオ互イ話シ合イヲシニ来タノダカラナ』

「……」


『オヤ?』



 カツンと。

 足音が聞こえた。


 ーーああ。最悪だ。


『何者ダ』


 僕と話していた黒装束がそう言った。


『オ前コソ何者ダ』


 同じ機械的な声が、新たに現れた黒装束から放たれた。


『私ハアトモス。悪イガ、コレカラ大事ナ取引ガアルノデナ。君ニハ失礼シテ頂キタイ』


 抑揚の無い声が、重苦しい埃まみれの壁に反響する。それに対して、もう片方もまた、声を上げた。


『取引ナンテ、存在シナイダロウ』

『ホウ。何故ソウ思ウ』


 同じ声。同じ装束。

 同じ仮面。同じ武器。



『何故ナラ、コノ私コソガ、指定暗黒組織D.E.A.T.H.ノデザイナー・アトモスナノダカラ』




 ――アトモスが二人いる。



『フザケタ事ヲ。仮面ト変声機ヲ付ケタダケデアトモスヲ名乗ルトハ笑止』

『ハッ、マサカオ前ガ本物トデモ言ウツモリカ』

『モチロンダ。私コソガ本物』

『……デハ、ワタシコソガ本物ノアトモスデアル証左ヲ見セヨウ』


 短い機械音声による応酬の後、後から来た方のアトモスがゆらりと右腕を前方に(かざ)す。

 アトモスの手に柄が現れ、その柄からゆるりと曲線を描く2枚の刃が煌めいた。



 呪剣フルッチ。

 アトモスの固有装備だ。


『私ノ呪剣ハ皮ヲ溶カス……ソレ故ニ私ハ皮手袋ヲ付ケル事ガ出来ナイ……ダガ、オ前ノ付ケテイル物ハ皮手袋。ソレデハ呪剣ハ振ルエナイーーオ前ハ何者ダ』


 アトモスの装備は、触れている者の皮膚をーー皮をーーその呪いで溶かす。

 そしてその呪いによる傷は魔法では治らない回復阻害効果を持っている。

 故に、アトモスの呪剣で切り付けられたら、その傷は魔法では治らない。


 そしてその呪いは両サイドの刃だけだなく、握り手部分の柄の所にも掛かっている。

 だからアトモスはいつも毛糸の手袋を付けている。

 合成皮革でも溶けるからわざと毛糸なのだ。


 そして僕の前に居る方の、武器を持たない方のアトモスの手袋は……皮手袋だ。

 それをアトモスは見抜いていた。



 ーー見抜いてしまったのだ。



『私カ。私ハーー」



 融ける。


 先にいたアトモスが、ドロドロと溶けている。

 ブクブクと泡立ちながら透明な蒸気を上げ、その姿を変えている。


 その背丈が伸びて行き、肩から鋭いパッドが突き上がる。皮の手袋が破け、その中から鋭く巨大な爪が露わとなる。

 全身を包むその黒い装束が膨張し、純白の仮面がカタンと床に落ちると、僅かに埃が舞い上がり、仮面のあった場所に漆黒のベールが現れ代わりにその顔を隠す。



 それはアトモスと良く似たーーそれで居て対極な見た目の黒装束だった。


『ナッ……』

「私は(ヴェイル)(ザント)様に従える、指定暗黒組織AAAA(テトラエー)の幹部が1人」


 いつだったか、チラリと電車でこの人を見かけた時は肝を冷やしたが、その人が今こうして僕と並んで佇んでいる。

 顔をベールで覆い隠し、口元が僅かに見える事で地球人の男性であることは辛うじて分かるが、それ以外はアトモスと同じ様に何も身体的特徴を残さない、そんな人が(ヴェイル)さんだ。


 やけに長い黒装束の袖口から覗いている巨大な3本の白い爪は、曰くそれぞれがクローショットであるらしく、どのようにして左右3本ずつの合計6本もクソデカいクローショットをぶら下げているのは理解できないけれども……その不気味な見た目に違わず、彼はザントさんの所のマフィアの大幹部だ。


 そしてその人の固有スキルは変身スキル。

 潜入工作を得意とする隠者だ。


 そしてその隠者はアトモスに今回成りすましていた。

 このアトモスはフェイクだったのだ。


 そして僕は、そんな目の前の男がアトモスになりすましていた事は最初から把握していた(・・・・・・・・・・)



「僕は君に、来て欲しく無かったよ……アトモス。いや……」




 ――ソラ。





『……何ノツモリダ』

「この、アトモスからの脅迫状、見せたよね。これ書いたの、僕なんだ」


 そう言いながら僕は脅迫状を懐のポケットから取り出して見せた。

 そして、魔法を使ってそれをアトモスの目の前で燃やした。


「母さんは誘拐されるどころか、多分今頃こなと優雅にお茶してると思うよ。それにね」



 僕はこの事、ソラ以外には話してないんだ。そう言ったらアトモスが固まった。




「信じて、いたのに」




 ねえ、どうして着ちゃったの。


 ソラ。

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