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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第16章〜Rainy Revealing〜
233/269

232. 木本拓也の事情

「ところでそろそろ教えて欲しいんだけどさ」



 食後の団欒もひと段落し、僕達は来客用の寝室へと案内された。

 まず来客用の寝室があると言うのが理解に苦しむ所だが、曰くエリアさんが空間魔法にモノを言わせてこの家を魔改造しているとの事なのでその辺の細かいことを考える事は辞めた。


 部屋にはダブルサイズのベッドが置かれており、その横には布団が2つ敷かれていた。

 窓の外を眺めれば東京タワーがよく見える。


「なんだ?」

「なんで伊集院くんとキモタクが同棲してるの?」

「それウチもずっと気になってた」

「1番なさそうな組み合わせと言うか……」

「魔法使い……ではなさそうだけど」


 この部屋は本来はあの双子が使っているらしいのだが、今日は僕たちがいるということで2人は別の部屋で寝るらしい。

 伊集院くんは彼らにキモタクの部屋で寝るように指示を出したが、その瞬間に双子が目を見開き身体を寄せ合うと共にキモタクがニチャァ……と下衆極まった笑みを浮かべて見せたのでその命令は撤回され、双子は伊集院くんの部屋で寝る事となった。

 代わりにキモタクの部屋で寝ることになったのは伊集院くんだ。キモタクは大層残念がっていた。

 ちなみにエリアさんは一人部屋である。ナナは……自分のペット用ベッドが伊集院くんの部屋にあるのに何故かエリアさんの部屋へと向かって行った。


「んー、それが俺もよく分からんのよな」

「いや、どういう事?」

「この家に住むようになったのは俺の意向ではなく母上殿のお達しなのでな」

「……そう言えばご家族を見ないね」


 伊集院くんは僕たちを寝室へと案内しながらため息をつく。


「ああ、親父殿と母上殿と俺は皆で別居しているからな……あ、別に離婚してるとかそう言うのじゃないぞ」

「……今一瞬聞いちゃいけない系の話題踏んだかと思ったよ」


 一瞬地雷を踏んだかと冷や汗が出たが、どうやらそんなことは無いらしい。

 良かった。


「親父殿は仕事が忙し過ぎて家に帰る暇が無くてね。母上殿は京都の人間なんだが、京都からはほんとテコでも動かないし俺も京都行く気は無いから仕方なくこうしている」

「……なんか、それはそれで複雑そうな事情ね」


 ソラが苦笑いしながらそう言う。


「拓也はどういう訳か京都で母上殿に巻き込まれたらしくてな。それでうちにある日突然来た」

「ある日突然って……」

「その辺は拓也の事情だから俺は知らん。特に興味もないから聞くこともしてない」

「それはそれでどうかと思うけど……」


 そこで、思わず僕たちの目がキモタクへと集中する。


「な、なんだよ」

「で、実際の所、どうなの?」


 どうしてキモタクはこんな所にさも当然のように居るんだ?


「どうって……おばさんがなんか変なおっさんに襲われてて何事かと思ってたら魔法の撃ち合いになってて残留魔力吸ったんだよ」

「……じゃあ、魔法使いってこと?」

「いや……それが俺、魔法使いになれなかった(・・・・・・)んだよ」


 そう言うキモタクの表情は、少しだけ暗い。


「なれなかった?」

「あれ、じゃあ記憶とか消されないの?」

「それが……」


 俺、対魔法体質なんだよ。


 そう彼が言った瞬間、電撃にも似たような感覚が僕の中を突き抜けた。


「対魔法体質ぅ?」

「魔力を浴びても、魔法使いに進化しない人間。魔法を受けてもその毒性で死ぬことはなく、ただ魔法の効果のみを受ける人間。それが対魔法体質だ」

「拓也の対魔法体質は筋金入りでな。エリアはもちろん、俺の闇魔法にアテられても全くビクともしない」

「そ、それは凄い……」


 何がどう凄いのか僕にはよく分からないけと、ソラはその言葉を聞いて目を見開いていた。


「ちなみにエリアさんはどんな経緯でここに?」

「前に依頼で空間魔法の研究の手伝いをしていたらいつの間にか転がり込んでやがった」


 いつかこの家から蹴り出す、と言う伊集院くんは珍しく決意を込めた表情だった。

 この家に来てから何だか伊集院くんの人間的な側面をよく見る気がする。


 そんな事を考えていると、不意に伊集院くんのスカウターから着信音が鳴る。


「おっと失礼。じゃあ今日の所はこれで解散でいいかな」

「うん、今日は色々とありがとう」

「はいはい。もしもし、此方伊集院……ーー」



 伊集院くんが電話をするためにキモタクと共に客室の外へと出ていく。残された4人でお互い視線を合わせ、僕達は一斉に頷いた。



「さて……誰がベッドで寝るか決めようぜ」

「決めるもなにも、ウチらがベッドに決まってるじゃん」

「そうそう。ここはレディースファーストだよね」

「何言ってんだお前ら。男女平等だろ」

「そうやって都合のいい時だけ女性が権利を主張する時代はもうとっくに過ぎてると思うよ? 男と女の権利は公平(・・)なはずだけど、まさか」


 もう女性が弱者であった時代は存在しない。

 言い換えれば、それは即ちもう僕たち男性が女性に忖度する時代でもないと言う事でもある。


「え、何言ってるの彗」

「サイテー……」

「ぐっ……」

「巧はそんな事言わないよね?」

「全くだ。見損なったぞ彗」

「なっ……!?」


 コイツ僕を売りやがったな。


「分かった、ここは平等に俺たち4人でベッドに入ろう」

「えっ?」

「密着すればイケるだろ」

「2人とも、密着すればと言うか密着したいが巧の本音だから騙されちゃダメだよ」

「きっしょ……」

「おい彗ふざけんな」


 一瞬巧に心が傾きかけていた2人が蜘蛛の子を散らしたかのように散って行き、部屋の端まで後退する。


「きも。近寄らないで」

「変態」

「ケダモノ」

「淫獣」


「おいお前ら、言葉が強いぞ」

「ダメだよ2人とも、そんなに強い言葉使ってたら巧がまた新しい性癖に目覚めるよ」

「彗は擁護してる風な顔で後ろから撃つな。少し黙れ」


 バレたか。

 僕の演技は完璧だったはずだが。


「かくなる上はジャンケンで決めよう」

「じゃあソラちゃんと巧で一本勝負ね」

「巧、頼む」

「任せろ!」


 ……何だか巧とソラだと、ソラが勝ちそうな気がする。


「頑張って!」

「巧なんてウチが捻り潰してやる」

「やっぱソラって言葉が強いよね……」


 2人が腕まくりする姿を眺めていると、ジャッジの峰さんが2人に合図を出し、2人がジャンケンを始める。


「ジャンケンーー」


 ぽん。


「やったー!!」

「うごぉぉぉぉおおおお!!」


 知ってた。

 そんな感想しか出ない。


「ぶっちゃけ巧が負けると思ってた」


 奇遇だな峰さん。

 僕も何となくそんな気はしていた。


 巧がチョキを出していた腕を、厨二病の様に抑えて唸っている所に僕が白い目で刺していると、コンコンと扉を叩く音がした。


「どうぞ」


 峰さんの返事に合わせて入ってきたのは伊集院くんだ。


「……何してんだお前ら」

「ベッドを賭けてジャンケン」

「ああ……察したわ」


 伊集院くんの冷たい目が巧に向けられると、巧は一瞬その身を震わせた。


 ……本当に新しい性癖に目覚めないか心配になってきた。


「で、どうしたの?」

「ああそうだ。悪いがこの後家を出ることになった。今日は帰ってこない」

「そう。何かあったの?」

「ラルリビ星でどうやら小惑星に衝突した宇宙貨物船が墜落したらしいんだが、その貨物船から大量の違法ドライブが見つかったらしくてな。DEATH関係の物である可能性があるから調べにいく」


 その発言で、場の空気が変わった。

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