22. 不穏な種
「……」
ようやく到着したピンキーたちは、怪我人たちを搬送すると僕に伝えてきた。
「……全員無事だ」
「よ、良かった」
「応急処置をしてくれたお陰だ、感謝する」
「……」
連絡をすると同時にその辺にあった長い草で止血とかをしたお陰で、何とか大事には至らなかったらしい。
マヨカさんが倒れていた所を目撃した時、さすがにピンキーさんも青ざめたが、とりあえずはどうにかなったとの事。
ピンキーさん曰く、マヨカさんはああ見えて本当はかなり強力な魔女であるらしく、そんなマヨカさんが倒れているのは異常な事であり油断は出来ないらしい。
あの光景が、目に焼き付いて離れない。緑色であるべきハズが真っ赤に染まっていたあの異常な風景。
「……記憶緩和魔法、要るか? ……強烈な記憶を弱める魔法だ」
「いや、いいです……」
記憶何とか魔法が何なのかよく分からないけど、こういった記憶は、しっかりと覚えて置くべきだ。
「行かなきゃ、依頼の途中だし」
「……」
僕はピンキーさんを置いて森の奥へと進んだ。マヨカさんの倒れる程の物なら、放っておくわけには行かないだろう。
とりあえず、魔導書を眺めるなら回復魔法みたいな物も覚えておかないといけないなと頭にインプットしつつ、僕は再び森の奥へと進み始めた。
「あの切り傷……」
負傷者は全員切り傷を負っていたのを僕は確認している。切り傷なら刃物に血が付着しているはず。
そうならある程度までは刃物から垂れた血がこの辺にあって当然だ。特にこの辺は草が長い。痕跡が近くにあるはず。
「これだ」
血液の点線が、至る所にある。
「これを辿れば元凶を、叩ける……」
そう思っていた矢先のことだ。
「そう、ぁ……行かない……」
「!?」
叩く前にどうやら自らお出ましの様だ。
「ぅ……ぁ……」
涎を垂らし、目は焦点が定まらない犬人間がやや俯きながら、ゆっくりと僕のもとへとにじり寄り始めていた。
「だ、誰だ!」
がさがさと音が聞こえたと思うと、ほかに二人、同じような犬人間が虚ろな目でこちらをとらえた。
全員何だか様子がおかしい。
言葉にも力がなく、まるで捻り出すような声だ。みんな傷だらけだけど刃物を持っている。
「はっ!?」
三人から少しずつ後退していると、後頭部に弱い痛みが走る。
何事かと思って振り返ると、そこには太い木の幹が聳えていた。どうやら僕は知らぬ間に囲まれて木の幹へと追いつめられたらしい。
さて、どうしよう。いきなりこんな事態は想定していないぞ。
「来るな!」
僕は気がつくと無意識に銃を構えていた。この異様な空気、何かがおかしい。
一番近かった犬人間が緩慢な動作で刃物を振り上げると、それを見て僕は回避を試みた。しかし続けざまにもう二人が刃物をふるい、回避しきれずに一筋の傷が僕の腕に着いた。
「うあっ!」
ドライブを起動しているお陰か、腕に傷は付いたものの、あまり血は出ていない。どうやらドライブがオーラを強化し身を守るのは本当らしい。
「くっ……」
だが痛みはそのまま伝わるみたいだ。
傷はすぐに塞がったが、幻影の様な痛みがまだ傷つけられた場所を走っている。
「……ハァァ!」
ひとりが、徐に持っていた剣を構える。
「くっ!どうなっても知らないぞ!」
それに対して、僕は2発の銃弾を浴びせた。うち1発が命中すると、それを受けたその一人がバランスを崩して倒れる。
「うっ……がぁ……!」
「……ううっ!」
しかし僕の発砲と同時に、残りの2人が呼吸を合わせて再び襲いかかってくる。
片方は上段から、もう片方は横から刃を振るう。
「ちょっ、【ファイアリフト】!」
炎の玉を撃ち出し抗戦するが、人数分の相手をするには些か火力も数量も足りていない。
「【バブルボム】!」
相手に爆発する泡を浴びせると、そのまま怯んだ相手に風を送り、相手のバランスを奪い取る。
「行けー!」
その隙に背後を取り一際強い思念を込めると、銃からあの時みたいに強力な力が放たれ、敵を貫いた。
「あぐっ!」
ガラスの割れる音と共に相手の輪郭の形をしたシールドが砕け散っていく。先ずは一人だ。
「【電気ショック】!」
「うわっ!」
一瞬の隙をつかれて電撃を受けて、僕は思わず仰け反った。
「【グラスブレード】!」
「【風の爪】!」
降りかかる草の刃を間一髪で避け、僕は手に風を纏い、鋭い爪の様なひっかき攻撃を至近距離で突き出した。するとカウンターは成功し、一人のシールドがガラスの割れる音とともに砕け散った。残るは一人だ。
「【皮剥ぎの刃】!」
「ぐあっ……!」
更にそこでシールドを割っていた一瞬の隙に、僕は後ろから斬られた。血が少しずつ滴り落ちるのを感じる。
「ぐっ……!」
「消えろ……」
刃を振り下ろす時の一瞬の隙。ここだ。
「とどめ!」
再三のチャージショットが最後のを貫く。シールドが割られた相手が木の幹まで吹き飛ばされ衝突するのを見て、安堵した。
なんとか、倒せたのだ。
まさか初めての対人戦が1対3になるとは、予想していなかったけれども。
「なぜ、僕を狙うんだ」
「……」
みんなシールドを破ってから、糸が切れた人形のようにずっと沈黙している。何かがおかしい。
「……ん?」
彼らの傷口をよくよく見ると、何だか変な種が傷口に根を張り巡らせていた。とても不気味だ。そして怪しい。
ジュクジュクと根が泡立ちながら、脈動しているのだ。まるで何かを吸い取るような動作で根から種へと何かが送られており、種が紫色に発行している。
「……」
ひょっとしたらこの怪しい種子が悪さをしているのだろうか。
そう思い、僕はその種を思い切って彼らから引きはがすことにしてみた。




