228. お守り
「今日はちょっとみんなにサプライズがあるんだ」
「え、なにそれ」
僕が唐突にそんな事を言い出して空き教室に巧、峰さん、そしてソラを集めたのは翌日の放課後の事だ。
「マリシム行った日のこと覚えてる?」
「うん」
「あの時僕と巧の男子組と女子組で別れて夜行動してたじゃん? その時に僕達ちょっと拾い物をしてさ」
「拾い物?」
ソラが訝しむ様に眉を顰め、首を傾げる。
対照的に巧は僕が何をしようとしているのか気付き、咄嗟に立ち上がってみせる。
「あ、アレか!」
「そうそうアレ。出来上がったから皆に渡そうと思ってね」
出来上がったお守りを鞄の中から取り出して、皆に配る。
「……お守り? にしてはなんか大きくない?」
「魔力を感じるけど」
「あれ? お守りにしたのか??」
「うん。色々悩んだんだけど、サイズがデカいし皆が身に付けることを考えたら下手に加工しても使えなさそうだったからこうした」
高校生で指輪とか作ってもイカついし、何より琥珀のサイズが大きすぎてそもそもそう言う装備品には出来なかったから仕方ない。
「え、これ中身何? 結構重量あるけど……」
「あー、まあこれ一応お守りだけど、開けちまってもいいよな?」
「うーん」
中身が何かを知っている巧は兎も角、女性陣は何か知らないから中身が気になるのも無理はない。
バチあたりな気はするけれど、考えてみたらこのお守りに特別神通力みたいな物を通わせている訳では無いし、問題ない……のか?
「まあ、大丈夫……だと思う。袋の方には何も細工してないしね」
「えっほんと?」
そう言うと峰さんは何故か一度机にお守りを置くと、お守りに向かって手を合わせ拝むように軽くお辞儀をしてからお守りを開けてみせる。
いやお守りと言っても外袋は普通に原宿の雑貨店で買ってきたものだからそこまで気にしなくてもいいのに……
「えっ凄い宝石!?」
「えっマジで?」
中身を取り出して驚愕のあまりに琥珀を落としかける峰さんを見て、ソラも目を見開き慎重に琥珀を取り出す。
「改めてこうして見るとデケーな」
「ほんとそれ」
「付与魔法掛けてる? かなり色々と掛けられてる感じがするけど……」
ソラは目を細めると、チラリと教室の扉が閉まっているのを確認して右耳付近に手をかけ、スカウターを起動する。
「……何してんだ?」
「鑑定。ほらウチって武器屋でしょ? お客様から武器を売られる事も有るし目利きに使うから、一応鑑定ソフトはインストールしてある」
「マジかお前」
「ソラちゃんって変なところプロいよね……」
「あのね峰さん、ウチはプロいんじゃなくて少なくとも武器はガチプロだからね?」
えへへ、と小さく笑う峰さんを他所に、ソラはますます目を細める。
「これまた凄腕の付与魔術師の仕事っぽいね……」
「伊集院くんから紹介してもらった錬金術師にお願いしたんだ。なんかメタリック皇室の親戚筋とか言ってた」
「アイツのコネってだけでなんかヤバそうだな」
「いや、むしろ凄いマトモだったよ」
アレでギルド関係者とか奇跡かってレベルで普通の人だった。
僕はこの繋がりを大切にしようと思う。
「ちなみに付与内容は?」
「防御力アップと魔力自然回復速度アップと、暗黒魔術耐性を付けてる」
「おー」
「……待って、効果多くない? それに暗黒魔術耐性??」
巧と峰さんは素直に……と言うよりかは、よく分からないと言った様子で声を上げるが、ガチプロだけはやはり反応が違う。
「あー……ほら、僕達結構DEATH絡みの事件に巻き込まれてるじゃない? これだけ絡みがある状態だと、また絡まれてもおかしくないからさ」
「なるほどなー」
「……」
絡まれてもおかしくない、と言われたし実際今こうして言ってみたが、まず間違いなくまた接触があるだろう。
これは勘だ。
幹部の大半と接触して撃破している以上、恐らくはどこかのタイミングで御礼参りに来るだろう。
その時の備えは多くて損は無い。
「見ての通りサイズがサイズだし、ほんとはアクセでも良かったんだけどバッグの中とかに放り込める様にお守りしたんだ」
「めっちゃ嬉しい!」
「……ありがとう」
女子組に揃ってお礼を言われ、僅かに顔に血が上るのを感じる。
「持ってきた甲斐があったな」
「だね」
「巧もこれ、ありがとうね」
「お、おう」
「ちなみにこれ、伊集院くんの分はあるの?」
「実はない」
「ちょ、ほんとに?」
「もうひとついい感じのものは見つからなかったし、アイツなら多分こう言うの持ってなくてもどうにでもなるだろって事で俺たちで逆忖度したわ」
「ぷっ……ま、まあ、そりゃそうだろうけど」
峰さんが苦笑いし、ソラが思わず吹き出していると、ガラッと教室の扉が開く音。
扉に視線をやれば、そこに居たのはーー
「うぉっ!?」
「ひっ!!」
伊集院くん、なんというタイミングで……
「……なんだお前ら、揃ってまるで幽霊でも見たみたいな顔して」
「あ、いや、その、これは、ええっと」
「いきなり扉を開けるから、ビックリして」
慌ててみんなでお守りを隠すようにしまう。
「そんなあからさまな反応されると流石に反応しづらいんだが……」
「所でどうしたの?」
話題を変える。直ちに。
「ああそうだ。ほら、以前マリシムで俺ん家に来たいとか言ってただろ。同居人説き伏せて準備が出来たから来るかなと思ってさ」
……ああ、そう言えばそんな話をしていた。
「え、良いのか!?」
伊集院君の唐突な提案に、やはり巧が大声を張り上げる。
「良くなかったら初めから言わない」
「え、行く!絶対行く!ね、ソラ!」
「う、うん!」
普段は落ち着いてるソラも若干興奮気味だ。
……話題逸らしに成功してホッとした顔をしている。
「で、いつ来る? 何なら今日でもいいんだが」
「え、マジで」
「許可は取ったからな」
僕達四人は顔を見合わせる。
今日か。何も無ければ魔法界にいつものように行くつもりだったけれど、そう言うことならいいか。
と言うか伊集院家ってほぼ魔法界みたいなものな気もするし。
僕たち4人で一斉に首を縦に振ると、シンクロしていたせいか伊集院くんが思わずと言った具合でクスリと笑った。
「じゃあ、今から空間転移するから、みんなで手をつないでくれ」
そう言われるがままに手を繋ぐと、そのまま空間がグシャグシャに曲がっていく。
「さあ着いた。家の中に直接行くのもアレかと思うから人気のない場所に敢えて出てきたがそこは許してくれ」
黄緑色に染まっていた空間が元に戻ると、風が吹いて木々が揺れる音が耳に入る。
ここは……
「ん? どこだこーーんん?」
「え、待ってここ……」
キョロキョロと辺りを見回す。
目の前には橋のような物があり、その橋の上から眺めると目の前には赤い鉄塔。
そして僕たちのほぼ正面にはテレビ局と、言わずと知れた商業施設。
「伊集院くん、まさかの!?」
ここ、六本木ヒルズじゃないか。
 




