227. アクセサリー作成
「なるほど……クリスタルの大樹の琥珀、ね」
並べた塊に対して、彼女の目の色が変わって行く。
ケケさんは金で出来ていると思われる天眼鏡を魔法で空中に出現させて手に取ると、慎重に念力魔法を使い一つ一つ原石を浮かび上がらせながらそれを検品して行く。
「こんな状態のいい琥珀なんてあるものなのね……しかも4個も……」
くるりと、空中で原石が4つ一回転する。
横向きに回った次は、縦向きに一回転。
「【暗黒空間】、【紫外線照射】」
ケケさんが呪文を唱えると部屋に闇が充満し、光が失われる。
そこに彼女の指先から紫色の光が放たれると、光に当てられた琥珀が青く発光し始める。
「なるほどなるほど。結構深い所の樹脂から出来てるのね」
「えっと、これは何をーー」
「鑑定中だから黙って」
闇が晴れると今度は詠唱を破棄して光の玉があちこちに浮かび上がる。
一転して一面光の世界と化した部屋の中でその光に照らして改めて彼女は凝視し直すと、満足そうに彼女は頷いて見せた。
「良い……凄く良いわね……こういう物が存在すると分かるだけでも私は幸せね……」
しみじみとした様子で彼女はそう言うと光の玉が消滅し、部屋の光量が元に戻る。
「琥珀としては最高級品ね。これは何処で?」
「大樹で普通に拾いました……」
「クリスタルの大樹内部で?」
「はい」
「豪運ね。色も程よくくすんでて内容物も葉なのが素晴らしい……っていうか1つでも豪運なのにそれを4つも? 前世でどんな徳を積んだらそんな事を……」
ブツブツと何やら呟きつつ、彼女は琥珀の鑑定を続ける。
「サイズも結構大きいわね。どういうアクセサリが良いのかしら? 小さいものだったらタイピンやカフス、ピアスとかもおすすめ出来たんだけど、これちょっとデカすぎるからやるとすれば腕輪やネックレスになると思うけど」
ソラや峰さんもそうだが僕達もつけることを考えれば、腕輪みたいに目立つものだとちょっと学校とかに付けていくのは厳しそうだ。
……ならば。
「ネックレスとかって出来ますか?」
「ネックレス? これ結構デカいわよ?」
「腕輪とかだと使う人の戦闘スタイル的に破損しかねなくて……」
峰さんはともかく、巧は迂闊に腕輪とかにすると自分の炎で焼きかねない。ソラは……どうだろう。
杖使いな割にはこないだの模擬戦ではザントさん相手に剣が様になってたし、河北黒龍の時はライフル銃の持ち方が完全に玄人だったからやはり邪魔にならないネックレススタイルが良さそうだ。
「まあ出来なくは無いけど、琥珀の自己主張が凄まじい事になると思うわよ」
「え、ホントですか」
「あとネックレスにするならチェーンやプレートに使う金属も指定して貰わないと。宝石部だけじゃなくてチェーン部にも付与魔法を付ける感じ?」
金属も選ぶのか……
「チェーンは銀とかだと光魔法を織り込むのに向いているわね。あとは金にしてもいいけど、金の場合K10かK18か純金にするかでもまた変わるわね。また純金にしない場合は混ぜ物の方も銀や銅にバナジウム、ヒヒイロカネあるいはニッケルでそれぞれ付与しやすい魔法とかも変わって来るからそこからオーダーメイドで作る形になるわ」
う……専門用語が突然畳み掛けられて何を言ってるのか分からなくなってきたぞ……
「付与したい魔法の数が多いならそれに合わせてチェーンとプレートで金属を分けるって手もあるわ。本体の琥珀部には火力バフを付与する代わりにチェーンは金にして疲労回復効果を付与して、プレートだけは金メッキの銀にしてシールド耐久増加を付与してみたりとか」
「な、なるほど」
ちょっとそこまで細かく出来る事は想定していなかったぞ。情報量過多だ。
「後は永続して効果を付与させるものにするか、1度きりで壊れる使い切りのものとかにしてしまうとか、再使用可能だけど充填式で魔力を込めると再使用可能みたいな事にするとか、その辺もカスタム出来ーー」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
一度無理やりケケさんの話を切る。
そこまで一気に選択肢を目の前に並べられても、僕には処理ができない。
「ごめんなさい、いいモノを見たせいでちょっとテンション上がって興奮してたわ」
「い、いえ!ただ、僕は全然その辺のことが分からなくて……」
宝石とかはよく分からない。
僕の知識はダイヤモンドが世界一硬いとかその程度なのだ。
アクセサリーも何か色々あるんだな〜と言う程度で、ファンタジー知識でも武器とかは色々とゲームやラノベとかで見てきたが、アクセはそこまで気にしたことはなかった。
「ふむ……それなら、いっそブローチとかは? あるいは目立たないならアンクレットとか……」
「足首はちょっとやらかしそうなのがいるのでパスですね。ブローチ……は、付ける場所が……」
そこで、ふと思いつく。
「ああそうだ、お守りにすることって出来ますか?」
「オマモリ? とは?」
おっと。お守りと言う言葉が通じないか。妙な所で宇宙人だな。
「ええっと、僕の住んでる所では厄除けとかでおまじないをかけて物を布とかの袋に入れて持ち歩いたりするんです」
「なるほど。護符みたいな感じ?」
「そんな所です」
護符と言う単語が通じてお守りが伝わらないのはイマイチ謎だ……まあいいか。
「そういう事ならエンチャントするのはこの琥珀本体だけになるかしら」
「はい」
「どういう効果の物がいい?」
そう言われて暫し考え込む。
僕たち4人の編成を考えると、構成は前衛2人、後衛1人、そして中衛ーー僕ーーが1人だ。
まず巧は前衛だ。武器も篭手とブーツワンセットだし、火球をどんどん撒き散らして敵をぶん殴って行くアタッカー。多分頭のことを考えてもあまり守りのことは気にして無さそうだ。
そしてソラもアタッカーだろう。
一見すると杖使いだし後衛かと思いきや模擬戦の時にゴリゴリのアタッカーだと言う事が判明した。
小手先の補助魔法を使いこなしているのは流石に元から魔女なだけはあるが、守りについては下手したら巧よりも脆い……と言うか、僕の記憶が正しければ守りなんて投げ捨てていたような。見ていて恐ろしい。
峰さんは完全に後衛だろう。
回復魔法補助魔法をどんどん使って僕を含めて全員を補強してくれるとても貴重な要員だ。
あの二人が前に出過ぎているせいで気をつけないと過労死しそうだ。
戦闘の際に守りなんてしている暇があるだろうか? 2人のサポートに回っていたら自分の身を守る暇なんてなさそうな気がする。
僕は……中衛のつもりだけど、補助魔法はそんなに覚えていないし実際は前衛寄りだろう。
……あ、待てよ。考えてみたら炎の壁とか鉄の壁とか、所謂壁系の魔法は頻繁に使っている気がする。そう考えるとちゃんとミッドフィールダーしているか?
「効果としては守りに重きを置きたいです。渡したい人はみんな守りが薄めの人達なので」
「守りね……シールドの耐久性増加とか、特定の属性を軽減とかあるけど、その辺は?」
特定の属性……一人一人に違う効果を付けるならアリだが、お揃いのお守りにするなら統一した性能が欲しいか。
「耐久性アップがいいかもしれないです」
「なるほどなるほど。魔力自動回復速度アップとかは?」
「あると嬉しいですね」
僕は魔力の使いすぎとかは最近全くないが、巧と峰さんはまだ魔法使いになって日が浅い。
魔力の加減とかが分からないかもしれない。ならそうしたものは有った方がいいだろう。
「なら今の意見を元にエンチャントを進めていくわ」
「ありがとうございます!」
そう言うと、ケケさんは大きな紙切れを取り出すとそれをテーブルの上に敷き、手をかざす。
「じゃあ、これから付与魔法を展開するわ」
「はい」
「それにしてもこの琥珀、揃って気泡があまり多くないのは珍しいわね……付与魔法の核は無論葉にするとして……術式の組み方……気泡少ないから気泡に球状魔法陣仕込むって訳にも……ああそうか葉脈を通り道にして……」
ブツブツと呟きながら再び彼女は思考の泉に沈み始める。
「しかし凄い容量ね……効果少しアップしてもまだもうひとつ効果をねじ込む余地が琥珀の方にあるわね……」
宝石を紙の中心に置くと、魔法陣が浮かび上がる。
淡い金色の魔法陣の円周が出来上がると、少しずつ中に模様が書き込まれていく。
「凄いですね」
「そう? まあ錬金術師とか付与魔術師自体はそんなに多くないかもね」
「錬金術師は他にも見たことありますけど、こうやってアクセサリーに付与魔法を実際にかける所を見るのは初めてです」
「あら、私以外に知ってるの?」
脳裏に浮かぶのは、砂漠。
「知ってると言うか、何回か戦ったというか」
「……戦う?」
「DEATHのウェルドラ、なんですけど」
彼女の手が、一瞬止まる。
「……何ですって?」
「あ、知ってますか?」
「まあ、同業者で知らない人は居ないでしょうね。裏の顔まで知ってる人は、そこまで居ないでしょうけど」
有名なのか。
「アクセサリーを大量に付けて能力を補ってました」
「素の能力は大したことないけど、付与魔術師の才能は一級品よね」
「そうなんですか」
「ええ。何処で拗らせたのか、本当に勿体ないわ」
彼女は目を閉じて、一瞬思考を巡らせるような顔をしてみせた。
「……ちょっと私のわがままでひとつこのアクセに付与掛けてもいいかしら」
「え、いいですけど、どんな魔法ですか?」
彼女の目が鋭くなる。
「対暗黒魔法用の付与」
「え?」
「何回か、と貴方は言ったわ。であるなら、貴方はあの組織のターゲットの1人となっていてもおかしくはない」
「あ、はい」
「暗黒魔法はあらゆるものを壊す。あなたが万が一暗黒魔法に被弾するような事が有った際に、その邪術を軽減する魔法を掛けるわ」
物凄い勢いで魔法陣の中身が書き込まれていく。
「【付与】」
眩い光が一瞬部屋を包む。
そして光が止むと、魔法陣が消失し代わりに琥珀が淡い紫色の光を放つようになっていた。




