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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第15章〜Raging Rampage〜
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218. 時の終着点

「おっと、部屋を出てから時空跳躍をすべきだったな。悪い悪い」


 トンプスはそう軽く言うが、僕たちの目の前に現れた人達は目が点となっていた。



「す、彗……どうしてここに……それにその人は……」


 中でもソラに至っては口を魚のようにパクパクとさせながら指を指している。

 そんな中、トンプスはゆっくりと僕たちの前へと出ると、ふとため息を付いた。



「久しぶりだな、ゼノ」

「久しぶりね。どっから湧いて来たの?」


 ああそうだ。

 この小柄なシャット星人、確かゼノ博士(ゼノフォビア)だっけ。

 確か、前に巧に突っかかって来た人だ。


「ちょっとここの星野くんと時を辿る旅に出ていてね。それで、そちらのお嬢さんは?」


 一瞬で甘い仮面を装備したトンプスが腕を伸ばしながらソラに向かう。

 突然のキャラ変に内心で動揺していると、ソラはますます動揺した様子で口を開く。



「あっあああっ天野空、ですっ!おおっ、おっお会い出来て本当に光栄ですっ!!」




 誰だお前。

 思わずそう言いそうになったが、もう1人誰だお前と言いたくなる人がソラの言葉にニコリと微笑み、彼女の腕を掴みそのまま握手をした。



「天野空、か。いい名前だな」

「待って……ウチ脳の処理が追い付か……えっこれって夢? 超展開過ぎて何が……えっ!?」


 いつの間にか顔が真っ赤になったソラはその対応に熱に浮かされたかのようにうわ言をブツブツと言い始める。

 それに対してこなは完全にジト目でいるし、ゼノ博士に至っては吐くような仕草をソラの後ろで見せていた。


「何アレ、私と初対面した時と反応違いすぎない? 私一応ギルマスで皇女で世界最強のスーパースターよね?」

「多分だけど、こなは徳が足りてないんだと思うわよ」

「は? 私がトンプスより業が深い? 冗談でしょ」

「……言われてみればこの気色悪いの(キメー元カレ)よりは徳積んでそうね」


 こなが静かにソラからの対応の差を嘆いているとようやくソラが冷静さを取り戻したみたいで、たどたどしく口を開いて見せた。



「とっところでその……ゼノ博士は、トンプスと知り合いなんですか?」

「ああ、このきっしょいの私の元カレなのよ」



 はい?


「えっごめん私こんなこと言いたくないんだけどちょっとトンプス女の趣味悪くない?」

「は?」

「いやだって……ねえ? ゼノと付き合う? むしろよく付き合えたわね……いや、付き合いきれないから別れたってこと?」




 空気が目に見えて冷え込む。


 ゼノ博士は殺意を隠そうともしないし、何故かソラのテンションもあからさまに冷えている。

 トンプスも今のは回答に困る質問だったらしく嫌な沈黙が流れているし、僕としても突然こなが爆弾をぶっ込んだ事実を頭では理解しているが、心が理解を拒んでいる。



「そ、そういえばソラはどうしてここに?」


 空気を変えたい一心でそうソラに声を掛けると、彼女は一瞬動揺した表情を浮かべ、気を取り直したかのように口を開こうとした。

 その一瞬、こなが不気味な笑みを顔に走らせたのを僕は見逃さなかった。



「ちょっと伊集院君を探しててね」

「伊集院くん?」

「うん、ちょっとね」




「俺を探したって?」



 声が聞こえる。

 声はエレベーターから聞こえた。そのエレベーターから現れたのは伊集院君だ。


「えっ……」

「探してたんだって?」


 続いてこなと伊集院君の間に黒いオーラが閃光のように走り抜ける。


 何なんだ、この2人。


「えっと……ほら、昨日武爪を売ってくれたじゃない」

「ああ、あのクロー型のスレイザドラゴンね」

「あれ実は間違えて買取価格を1割安くしちゃってて……き、今日はその差額を。ごめんなさい」



 伊集院君に深々と頭を下げたソラを見て、こういう所はやっぱり客と店員なんだなと感じる。


 ソラは緊張からか、汗をかいている。


「珍しいね」

「差額は、今払うべき?」

「あ~、別にいいよ。チップだと思ってとっておいて」


 伊集院君のとんでもないイケメン発言にホッとしたような表情をソラが浮かべる。

 なんだよチップって。外国じゃあるまいし。


 ……いや外国か。少なくともここは日本じゃないし。


「ごめんなさい、ありがとうございます」

「良いんだよ。えーと、ところでゼノ博士はなんで人殺すオーラ出してるんだ」

「この女がちょっと名誉毀損と精神的苦痛をね」

「こなが失礼なのはいつもの事だろ」

「いつもの事なの……?」


 ゼノ博士がそろそろツッコミに疲れてきている気がする。

 まあでもこなが実はそこそこ失礼なのは確かに言われてみれば今更ではない気もする。と言ってもそれは伊集院くんも同じだが。



「だってー、ゼノがトンプスの元カノって突然言うんだもの。ちょっと女の趣味が悪いと思わない?」


「……!?」


 伊集院くんがめっちゃ素で動揺している。


「は? アンタもシメてやろうか」

「……いやいや、お似合いだと思うぞ。って、別れてるのか」

「ちなみにフッたのは私の方だから」


「……!!?」


 いつも薄っぺらな笑いを貼り付けているだけである伊集院くんの表情筋が、いつもの百倍は仕事をしている。

 ついでに今の発言はソラも目を見開いた。


「あー、取材はこれぐらいにしてくれ。俺パパラッチは嫌いなんだよ」

「お、おう……」


 まだ動揺が収まっていなさそうな伊集院は珍しく『おう』なんて言うと、魔法でパイプ椅子を出現させてそれに座り込む。

 ゼノ博士は目じりが完全に吊り上がっている。ソラはキョロキョロと目が忙しなくこなとゼノ博士の所を往復していた。



「じゃ、俺達もそろそろ帰っていいか?」

「え? ああ、そうね。なんか……色々と削がれた気がするから、今日はもうこれぐらいでいいわ」


「おっ、そうかそうか。では星野くんまたその内に。天野さん……君とも近いうちにまた会いそうだ」


 そう言うと、トンプスはその場で転移して消えた。



「僕達も帰る?」

「そうだね。ウチらもじゃあ、失礼します」

「はーいおつかれさま~」


 こなの気の抜けた返事に見送られた僕たちもまたエレベーターに呑み込まれて行ったのだった。











「トンプスのせいでほんと興が削がれたわ」

「今のはちょっとタイミングが酷いわよね〜」

「ね。まあでも一つだけ分かったのは今回の脱獄事件で動いていたのはブラッディアって事かしら」

「だろうね。アトモスならあんな無茶苦茶な作戦しないし、あんなに大っぴらに活動したりもしないだろうし」

「アトモス、多分あれ内心カンカンだと思うわよ」

「へえ? ならこれを利用して引き剥がす事とか出来るかしら?」



「見物だな」

「見物ね」

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