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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第15章〜Raging Rampage〜
218/269

217. 2人の刑務所長

「……やられたな」

「歴史は繰り返すって言うじゃないか」


 X-CATHEDRA(エクス・カテドラ)本部にて。


 宙に浮いているスクリーンに映し出されたのは見事に大穴が空いた刑務所だった。

 場所はハブルームらしい。



「トンプス、冗談は大概にしておけ」

「トンプスの報酬カットしていい?」


 伊集院くんとこなが珍しく揃って不快そうな表情を浮かべる。

 それもそのはず。


「どの動きも陽動に次ぐ陽動で本命はどこかと思っていたが、まさかこっちに来るとはな」


 地球・中国の龍も、エリアYの侵攻も、全てはスナームを刑務所から引きずり出すための陽動だったのだ。

 しかも向こうは見たことの無い黒い影のような何かを延々と作り出す未知の技術を用いており、ほぼ無血でスナームを獲得している。


 怒らない方が難しい。


「大体スナームがハブルーム送りになったってのは何処から漏れたんだ」

「い、今諜報部で徹底的に洗っているよ……」


 そう言うピーカブーの顔は蒼白だ。



「チッ、クズ共が……セキュア姉妹は揃って役立たずか」

「まあ、正直ちょっと失望したわね……」

「おーい、噂をすれば来たようだぞー」


 トンプスが何とも気の抜けた声を発すると共に、総帥室の扉が開く。

 その奥から現れたのは見知らぬシャット星人2人だ。


「久しぶりね、ココ」

「こな……」

「……この度は申し訳ありませんでした」


 開幕で頭を下げたのは四原色のつなぎを身に付けたシャット星人だった。

 つなぎのボタン部は文字通り牡丹の花であり、左右で色が黄緑と紫色をしていてとても目に悪い彩色であった。


「まさか、まさかハブルーム大刑務所がまた突破されるとはね。しかもまたDEATHに」

「痛恨の極みです」


 そんな彼女に寄り添うのは、やや背の低い真っ赤なワンピースの様な物を身に付けたシャット星人だった。顔立ちも心無しか似ている。


「だから私はうちの刑務所の方がいいって言ったのよ」

「何よカカ。アンタの所はアンタの所で蠍の脱獄を許しているでしょ」

「ぐっ……」



「えーっと、こいつらがあの悪名高いセキュア姉妹なのか?」


 そう言うトンプスは苦笑いをしていた。

 1人だけギルドとは無関係な一般人だからか、何とも場違いな空気を出している。

 なお僕は壁の花と化して完全に空気に溶け込むことに成功しているので、伊集院くん以外は誰も僕と視線を合わせていない。


 ちなみに、ソラと巧と峰さんはひと足早く帰宅している。


「おや、トンプスは初めましてか」

「ああ」


 ハッとした様子で頭を下げていた方が顔を上げる。

 そしておもむろに彼女は自己紹介を行って見せた。


「ハブルーム大刑務所の所長、ココ・セキュアが名前です。何卒宜しくお願いします」

「同じくカカ・セキュア……ミラビリンス刑務所所長よ」

「宜しく。知っての通り俺はタービュラ・トンプス。なんでここに居るのか分かってない一般人だ」

「一般人?」

「少なくとも俺はギルド幹部ではない」


 こなが不快そうな表情でトンプスに向かって威圧する中、彼はヘラりと笑いながら答えて見せた。

 見かねた伊集院くんが口を開く。


「まあ、今回はハブルームも前回以上にやられているみたいだし責めるのは可哀想だ。今鎮圧部隊を送っているが、報告では魔力暴走(ヴァリエ)現象が起きかけていると聞く」

「前にもあの組織には刑務所をグチャグチャにやられたけれど、まさかまた同じ事をされるとはね……」


 そう言ってココさんは力なく肩を下ろす。

 カカさんはそんな彼女に寄り添うが、その目はとても冷たい。


「刑務所の様子は今モニターに出せるか、ピーカブー」

「無理だよ!暗黒魔術で残留魔力が滅茶苦茶に乱れている」


 どうやら状況は好ましくないみたいだ。

 曰く、ハブルームの刑務所は昔DEATHの襲撃に遭った事があるらしく、今回再び襲撃に遭ったとの事。

 その理由は、密かに収監されていたスナームの奪還。その時に暗黒魔術が乱用されたせいで魔力濃度がめっちゃ上がってて危険な状態らしい。


「早くあの魔力を除去しないと、魔龍ヴァリエが生まれてしまうね」

「ピーカブーさあ、分かってる事をわざわざ口にするの辞めてくれない?」


 そう言うこなは完全に不機嫌だ。半ば当たる様にしてピーカブーを恫喝すら彼女は、力なく息を吐くとカカさんに向き直る。


「カカ、申し訳ないけど依頼を出すからハブルームの魔力除去をお願いできるかしら」

「元よりやるつもりよ」


 そう言ってカカは手のひらに鏡を出現させて見せた。


「僕のサポートは必要かい」

「要らないわ。貴方のナビゲーションって(つんざ)く様な声が不愉快過ぎて幹部時代から大っ嫌いなのよ」

「リタイアしてからも相変わらず失礼な奴だな!」

「事実よ」


 その言葉で、ふと母さんの言葉が脳裏によぎる。


 カカ・セキュア。

 あの悪趣味なミラビリンス刑務所のトップ。


 母さんの魔法の師だ。


「そうやって一々突っかかって来るカミツキガメな所も変わらないのね」

「うるさいなあ!大体君はーー」



「ピーカブー、うるさいのは貴方よ。減給」



 ピーカブーは沈黙した。

 カカさんの思惑は最初から減給への誘導に有ったのか、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるとココはため息を付いてこなに向き直った。



「こな……此度は本当に申し訳有りませんでした」

「仕方ないわね。起きた事をいつまでもウダウダ言っても始まらないもの。ただ、貴方も元幹部なのだから顛末書ぐらいは出してもらうわよ」

「勿論よ。正式に所長として提出します」





「さあ、そろそろ帰ろうか星野くん」


 神妙な空気が漂い始めたところで、突然トンプスがそんな事を言う。


「えっ!?」

「あれ、彗? アンタまだ居たの」

「帰ろうって……ああ、そう言えばお前ら時間軸が違ってたな……」


 思い出したかのように伊集院くんが呟く。


「俺たちはバック・トゥ・ザ・フューチャーしないと行けなくてね」

「その言い方辞めてくれ」

「経過時間を考えたら、まあ元の時間からプラス4時間だな」


 体内の年齢と、本来の時間軸で過ぎた年齢を合わせるために、僕達は未来に戻る。


 ココさんとカカさんはようやく僕の存在に気付いたらしく怪訝な表情を浮かべたが、トンプスが僕の手を掴むと僕の意識が姉妹から逸れ、トンプスに焦点を合わせた。



「行くぞ」


 見覚えのある紫の魔法陣が開かれて行く。それを見て僕は慌てて上に移動した。


「よし揃ったな。じゃあまたな、伊集院。そして……ザント。【時空跳躍(マジゲド)】」


 こなが文句を言いたそうな口の開け方をしたのを見届けて、世界が混沌とした紫のうねりへと変貌する。


 時空超越中に風景をよく見ると、紫の中にも濃淡がある。それは川の流れみたいに刻一刻と流動し形を変えている。

 そして様々な紫を映し出す風景に、時折ピンク色の筋が現れては消えていく。


 やがて紫が融解しはじめた。




「……あれ、ソラ?」


 そうして数時間後の総帥室に現れた僕らの目に入ったのは、ソラとこなといつの日か巧を挑発していた小柄なシャット星人だった。

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