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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第15章〜Raging Rampage〜
213/269

212. 見えない思惑

「エリアYの状況は?」

『はっ、現在黒い人形(ヒトガタ)による攻撃が依然として続いています。数は加速度的に増加しており、現在おおよそ300体に……』

「300? 多いな。目的もさっぱりだしいっそ出張るべきか?」


 諜報部の司令室でフェイドからの報告を聞いていると、傍で兄弟子でもあるザントが鼻を鳴らす。


「まるで貴様の闇魔法の様に無限に湧いてくるな」

「何がどうなっているんだ、これ」


 敵性勢力の意図している物が見えない。


 エリアYでの攻撃も、中国に湧いた龍も、見ている限りでははっきり言ってまるで驚異ではない(・・・・・・・・・)


 敵の正体は彗たちの連絡でDEATH(デス)である事が分かっている。

 アイツらが犯人であるということは、つまり地球での攻撃は例によって無作為に魔法使いを増やすための物だ。表向きは。

 魔法使いを手っ取り早く増やすなら人口が1番多い中国を狙うのも分かる。とりあえずは。


 でも何故?


 同じ中国でも北京や上海だとか、あるいは深圳(シンセン)だとか、そうした人の密集するエリアに龍を放つならまだ分かる。

 しかし今回龍を放った場所は徳州だ。場所があまりにも微妙過ぎる。


 あるいは、龍をテイムしようとして失敗したか?

 そんな事は無いはずだ。

 暗黒魔法には敵の意識を奪うことなくハッキリと意識を保たせたままで敵の身体のコントロールだけを完全に奪う傀儡化の魔法がある。最悪それを使えばいいはずだ。

 つまり龍は意図して暴走させた物だ。では何故そんな変な事をした?


 混乱を起こすには脅威度が低すぎる。言い換えれば、魔法使いはこれでは増えない。


「……陽動か?」


 エリアYに用があるのだろうか。

 敵は未確認の人型の敵だ。

 黒一色で塗り潰された、知的生命体の輪郭を持つ敵がエリアYで噴き出している。


 その敵が目指しているのは、どうも方角から言って旧ルナティック本部のあった、現X-CATHEDRA(エクス・カテドラ)支部。


 あそこに、何か重要な物があっただろうか?


 あるとすれば、リーグの骸が眠ってはいるが、そこまで価値のあるものか?


「敵の強さ自体はそこまでだが、物量が圧倒的なのは気になるな」

「ザントもやっぱりそう思う?」

「ああ。あと、個体差が激しい」


 そう静かに考察するザントの視線は冷ややかだ。


 エリアYに出てくる、影のような敵は魔物にしては強さがあまりにもバラバラなのだ。最初は幽霊の様なものかと勘ぐったが、攻撃は普通に通る。


 また見た目が人そのものであるばかりか、声まで出すので、呪いや魔法でそれこそ洗脳されたり作り替えられた人の線も辿ってみた。


 しかしそれにしては撃破すると溶けるようにして死体は残らないし、呪いや洗脳の痕跡も見当たらない。

 恐らくは人の形を模倣した何かであると結論づけるに至った。


『此方ブーレ、敵の増援を確認しました。ざっと100体はいると思われます!』


 現場にいるブーレからそんな通信が入る。


『ちっ、こっちも増援が見える。どうなってやがる』


 続いてフェイドからも同じ連絡が入る。

 敵の強さ自体は、弱い。だが物量で攻めてくる。

 これは何処かから湧き出ていると見てよさそうだ。



 妙だ。


 どこかで俺はこの黒い奴らを見かけた気がする。

 それもつい最近の話だ。



「どうもみんな苦戦してるみたいね」


 司令室の扉が開くと、ギルドマスターであるこなが入ってくる。

 目は僅かに細められており、無言で通信記録を文字起こししているモニターを俺が指さすと彼女の視線が其方へと動いた。


「どう思う?」

「どうもこうも、ポップしてる場所はどこなのよ」

「恐らくだが、エリアYのウエストポートエリアに敵将がいてそこから無限に黒いのを出しているのだろう。多少外れた場所からも湧いてはいるが、少数だし多分迂回しているだけだろう」

「非戦闘員も居る諜報部員では荷が重いわね。私が行く」


 そう言うとこなの身体が眩く光り、鎧に包まれる。


「珍しいね」

「その方が早いからよ。ポートってことは文字通り端っこでしょ? なら私がビームぶっぱなしても宇宙空間に伸びていくだけだから被害は大きくならない」

「なるほど」


 こなは普段、こうしたことには首を出したりしない。それは彼女が自分自身の力を正しく理解しているためであり、また彼女よりも別の人間が出た方が効率的であることを理解しているためだ。


「そういう事なら撤退命令を出そう」

「そうして貰えると嬉しいわね」


 こなの使う魔法は、往々にして火力が高すぎる。

 いや、無論火力の低い魔法だって当然使えるのだが、単純に彼女の魔力が桁違いなあまりに調整が効かない状況なのだ。

 単純に1の魔力を消費する(消費MPが1の)魔法ですら、彼女は100とか1000単位の魔力を込めて使ってしまう。


 こなは生まれながらにして大魔法使いであり、容量も出力も振り切っている。だから彼女は動かなくて済む時はあまり動かない。

 味方を巻き込んだり、不要な被害が出るのを自身で理解しているからだ。


 言い換えれば、巻き込む心配や被害が出ない状況なら、彼女はサッサと出撃して事を終わらせてしまう。

 今回はそういう状況なのだ。


「座標は?」

「今転送する」


 司令室の端末を借りて、こなのスカウターに目標地点と転送座標を送る。


「……本当に端っこね」

「人員の退避が終わったら連絡するから、それまでは極力待機していてくれ」

「私はそれでもいいけれど、せっかくだからアレを出してもいい?」

「アレ?」

「あの子よ。最近出すことが無いから、ストレス溜めてるのよ」

「うーん……」


 ……まあ、大丈夫か?

 こなと比べたら、まだ常識的な強さではあるし。いざと言う時には、また修復魔法を街中にかけて回ればいいか……


「分かった。だがフルパワーはダメだぞ」

「そこは弁えてるわよ」


 とは言え、私のテリトリーを踏み荒らすとどうなるかはちゃんと教えてあげないといけないけどね。

 ……と、彼女は言うと、最後に竜の顎を象ったヘルムを被り、武器のハルバードを出現させた。


「じゃ、ちょっとひとっ走りして来るわね」

「作戦の成功を祈る」


 軽く言うが、彼女の目は笑ってない。笑ってないというか、結構怒っている目だ。

 大丈夫だろうか。


 そんな俺の心配を他所に、彼女の姿が消えるとモニター越しにこなの声が聞こえる。


『こちらこな、現場に着いたわ』

「こちら伊集院、了解した」


 一呼吸整え、通信回線をこなとのプライベート通信から、隊員全体への広域通信に切り替える。


「こちら伊集院、これよりこな総帥による戦略的破壊を行う。こなを除く全ての隊員は即刻安全地帯までの撤退を命ずる。従わない者は死体も残らないと思え」



 我ながら何とも物騒な司令だが、実際取り残された奴が出たとしてそいつの死体が残るとも思えないので、ありのまま伝える。


 モニターに展開されているマップに友軍を示す青いランプが無数に光っていたのが、その司令を元に一斉に撤退を開始し、ものの一分と掛からずにこな以外のマーカーが全て消え去る。



「オールクリアだ」

『はいはい〜』


 何とも気の抜けた返事が帰ってきた所で、安全地帯とされる場所に青いマークがいくつか増えた事にふと気付く。



「ほう……」



 衛生写真を呼び寄せて該当の場所を拡大してみると、そこにいたのはなんと彗と愉快な仲間たち仲間たちであった。

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