210. 集合
「行くぞ!」
詠唱を破棄して風の力で跳ぶ。
そのまま剣を振りかぶり、その首筋を狙って剣を振るうと鱗に横一文字が刻まれる。
その一瞬の間に、首から上を見上げ、目当ての物を探す。
「グルルルォォオォオオ!!」
逆鱗を見つける前に、龍が大きく咆哮を上げるとその口を開き此方に噛みつき攻撃を行う。
これをウィンターが銃撃を口の中にねじ込むと、黒龍は堪らず雄叫びを上げながら大きく仰け反り、その隙に僕はまた跳躍し、武器を一瞬拳銃に持ち変える。
「【電光】!」
銃から電撃を帯びたレーザー光線を放つ。
それが龍の目を掠め、その目頭に被弾する。
「ガァァアァアァアア!!」
惜しい。
しかし流石に目を掠めただけあって、龍が怒り狂う様に悶えてみせる。
「グォォアァア!」
龍の声に明らかに怒気が宿ると、龍が空高く舞い上がる。
その状態で龍がグルグルと回転を始めると、その内輪に魔法陣が出現し、僕達は一斉に武器を向けた。
「来るぞ!」
魔法陣が水色に光ると、氷の礫が勢いよく降り注ぐ。
それに乗じて雨も降り始め、天から水と氷が叩きつけるような土砂降りに変化した。
「【光の弾丸】!」
ウィンターが純白の弾を放つ。
これに呼応するように、軽トラに乗っていた人達がそれぞれ飛び道具を使い、天高く鎮座する龍を狙う。
「避けーー」
「ーー【水の壁】!」
河北黒龍はその攻撃に対して正面から氷のブレスを放つ。
これを避けられないと判断し、咄嗟に水の障壁を僕たちの前に展開すると、水がそのブレスを吸収し瞬く間に氷の長城に変化していく。
この氷を僕は横一閃で薙ぎ払い崩すと、ドライバーが砕け散った氷の破片を浮かび上がらせ、龍目掛けて念力で飛ばし始める。
「【暗黒障壁】!」
存在を忘れかけていた敵の戦闘員がこれを黒いバリアのようなもので全て弾くと、龍が雄叫びを上げて此方に迫る。
龍が口を開けて回転しながら突進をし、僕達はダイブするようにして攻撃範囲から逃れると高速道路が揺れ、僕たちのいた場所が大きく抉れてみせた。
「ちっ!」
ウィンターさんは光の槍を生成するとこれを龍の顎に向けて突き刺す。
これを龍は身体を捻り回避すると、捻りに合わせて腕でそのまま薙ぎ払い、ウィンターさんが大きく吹き飛ばされる。
「がはっ!」
「【サンダーネット】!」
電撃の網を生み出し、龍の顔目掛けてそれを放つ。
それと同時に帯電した竜殺しを握り、詠唱を破棄して真空波を飛ばし、更にそれを追いかけるように距離を詰めて剣を振りかぶる。
「ガァアッ!!」
電撃の網が展開された氷の壁によって相殺され、真空波が腕に阻まれる。
しかし腕が塞がった事により僕本体を阻むものが無くなり、剣が龍の顎を撫でると、黒龍が悲鳴の様な雄叫びを上げながら大きく後退して見せた。
「ギャァァアァアアアッッ!!」
龍が暴れると共に、空気中の魔力が乱れ、全員に動揺が走る。
これは、もしや。
「今の場所に、逆鱗が?」
ウィンターさんも同じ事を考えたらしく、彼女も即座に銃を向けて発砲を始める。
しかし黒龍もそれを甘んじて受け入れる程甘くはなく、氷の塊が行く手を遮るとその氷塊が此方へと飛ばされ、軽トラの荷台をそのまま押し潰してみせた。
「畜生、俺のトラックが……」
「敵の動きが早すぎる。【鈍化の呪い】!」
もはや使い物にならないトラックから二人の地球人が降りると、片方が闇魔法で黒龍にデバフを掛ける。
龍がその呪いを受け、僅かにその動きを鈍らせた隙に僕はまた顎を狙って剣を振ると、硬い龍の腕がそれを遮り受け止めてみせた。
「手強いな、マジで」
「ええ、でもまだ負ける訳には行かないわ!」
ウィンターさんはそう言うと地面に魔法陣を描く。
そこから天に向かって勢いよく光の柱が突き上がると、龍の身体が跳ね上げられて高速道路の下に広がる畑に叩きつけられた。
「グルル……」
龍がのそりと起き上がり、此方を睨みつける。
そして龍は口にブレスを溜め込むと、上空に向かって氷のブレスを吐いた。
「な、なんだ!?」
ブレスが雲ひとつ無かった青空に向かって噴き出す事で、日光が遮られる。
そしてその凄まじい冷気が空気を冷やし、空気中の水を凍らせ、それが雪となり降り始めた。
「さ、さむっ」
堪らず誰かが言う傍から、パキパキと地面から音が鳴り始める。
足元に目をやると、地面が凍結し始めていた。
「不味いわね……」
「この状態で足場が変わるのは、ちょっとキツイかも」
それだけでは無い。
気温があからさまに下がった分だけ、皆の体力が奪われる様になる。長期戦になると此方がどんどん不利になりそうだ。
それに、一気にブレスが日光を遮り上空に展開された事で、真夏であるにも関わらず雪を降らしている雲のようなものが出来上がっている。
水を司るドラゴンなのだから、今度は上からの攻撃にも注意が必要になる。
「ウィンターさん、あの雲って散らせられます?」
「私の光魔法ではちょっとキツいわ。最大火力で私の固有魔法を上に放てばそれもできるとは思うけど、それをすると魔力が無くなるわ」
「魔力か……」
僕はまだまだ魔力に余裕はある。
しかし長期戦になれば他の人達が持たない。
「援軍を呼ぶべきだね」
「そうね。部が元々良い戦いでは無かったし、私もそれに賛成よ」
下の畑に落ちていた黒龍がまた浮かび上がり、高速道路の上に戻ってくる。
怒りに満ちた瞳で、その龍が両手に魔力を集め始めた所で、突然呪文が聞こえた。
「ーー【光の杭】!」
地響きと共に、龍の身体を貫通する様に天から光の槍が降り、黒龍の身体を高速道路に縫いつける。
「ギャァァアァアアァアアアアッッ!!」
河北黒龍の悲鳴が周囲に轟き、龍がもがき苦しむ。
龍の身体からは紅い煙が立ち上がり、光の杭によって血が瞬く間に焼き固められ蒸発していく。
「なっ、何が……」
魔龍を操る敵が明らかに動揺しながら周囲を見回すと、やがてその片割れが何かに気づいたかのように、僕たちの後方を指さし叫んだ。
「くそっ、敵の援軍か!」
「うおお行くぜ!【ダイヤの雷】ォ!」
僕たちが振り返ると共に大声で詠唱が行われると、長菱形の黄色い衝撃波が放たれ、敵の龍を吹き飛ばす。
その衝撃で縫い止めていたはずの杭も吹き飛び、龍の身体に巨大な裂傷が刻まれた。
「俺、見参!」
「巧……!?」
僕がその攻撃を放った主に唖然としていると、巧が電撃を纏いながら一気に龍へと接近し槍で鱗を切り裂き剥がしていく。
そして巧が槍を大きく振りかぶり投げ付けると、その雷槍が一直線に逆鱗を貫き、龍が悲鳴を上げながら高速道路の端に崩れ落ちる。
「やったか!?」
「ちょっ、巧それフラグー!」
凍結した道路をスケートの要領で滑って来たのは峰さんだ。彼女はくるっとスピンすると共に短杖から水の雫を出現させると、僕たちの身体をがその雫によって癒されて行く。
その間にも龍が起き上がろうとすると、タン!と乾いた音が響き、龍の眼から血が吹き出した。
龍が何度目か分からない悲鳴を上げていると、空中に足場代わりに魔法陣を展開しながらジャンプして来たのは、ライフル銃を構えたソラだった。
「ちょっ、ソラ!? それに峰さんまで……!?」
「きちゃった!」
「きちゃった、って……」
峰さんがちょっと照れた様にその言葉を口にすると、また上空から乾いた発砲音が鳴った。
龍をコントロールしていた二人の戦闘員の頭を的確に光の弾丸で撃ち抜き気絶させると、ソラが空中の魔法陣の上でスコープを覗きながらも言い放つ。
「龍の眼は時間と共に再生する、叩くなら今よ!」
「わ、分かった!」
僕は一瞬ウィンターさんと目を合わせる。
「行けると思う?」
「私は回復魔法でだいぶ身体が楽だわ。あの地球人たちの魔法も効いているみたいだし、この人数なら河北黒龍も倒せるかもしれない」
倒せるのか。
時間が掛けられないなら、やるべき事は一つだ。
「峰さん、僕と巧とウィンターさんに補助魔法を。ソラ、ソラはその調子で龍の眼を狙い続けて欲しい。巧、ドライバーさんを巻き込まないように位置取りに注意して僕の攻撃した跡をなぞる様に攻撃して!」
「分かった」
「任せろ!」
「了解ーー【瞬間剛力】!」
峰さんの補助魔法で、身体に力が漲る。
この五人でなら。
短期決戦に持ち込めるはずだ。




