表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第15章〜Raging Rampage〜
210/269

209. 勝ち筋

「水属性なら私が光だから多少はマシね……そっちは?」

「僕は無属性だけど虚のを2つ目に使ってるから今は虚」


 巧たちとの通信を終えて、ソラがもたらしてくれた情報を頭の中でゆっくりと咀嚼していく。


「弱点は目か顎の近くにある逆鱗って、両方とも難易度高いわね……」


 目は唯一、ドラゴンの体表で鱗に覆われていない場所だ。そこが弱点……と言うか、相対的(・・・)に他よりも魔法が通じやすいのは、理屈としても理解出来る。



 そして逆鱗。言わずもがなとなる部位だ。

 ここを突くことが出来れば多少は相手もしやすいだろう。突くことが出来れば、だが。


 一つだけある逆さまになっている鱗なんて、果たして分かりやすく目立つ位置に有るだろうか。


 イメージとしては鱗と言えば魚の鱗か、せいぜい捻っても(ワニ)皮みたいな物だ。魚の鱗が一つだけ逆向きですよと言われても、分からないかもしれない。


 属性が分かったのはラッキーだった。

 黒龍なんて言うから、完全に闇属性の先入観を持っていた。

 水と聞いてなかったら今頃闇の弱点になる虚魔法や金魔法の手持ちが少ないなと見当違いな所で頭を抱えていた所だ。

 水なら、雷魔法や光魔法の手持ちは多少ある。ウィンターさんも名前がめっちゃ氷系なのに光なのもラッキーだ。


 ツイている。


「せめて竜にも通用する武器があれば……」


 ウィンターさんが思わず零す。

 それに対して、自然と笑顔になっている自分がいた。


「あるよ」


 懐にしまってあったカプセルに魔力を送り込み、武器を顕現させる。


 竜殺しの剣だ。



「冗談でしょ」

「実を言うと、竜……の一部? となら戦闘経験はあるんだ。後は龍……っぽい魔力の塊、とか」


 考えてみれば、本物の、五体満足のドラゴンとはやり合ったことが無い。


 だが竜の一部なら。

 紛い物なら。


 それならば、戦闘経験はある。



「……嘘ではなさそうね」


 呆れたようにそう言うと、彼女は拳銃を手に取る。

 はるか彼方に龍が見えたからだ。


「この道路を何かが走ってるね」

「クルーマ? って言うのかしら。何かで見た事あるわ」

「車ね」


 目を凝らしてみると、車が何台か走っており、その窓や天井から人が身を乗り出して魔法で攻撃している。


 あるいは、空を飛びながらも龍を抑えようと……いや、違う。


 敵だ。敵が、龍をコントロールしようと必死に龍に何か魔法を出しているが、制御しきれていない。


「人がいるのはいいですけど、思ってたよりも状況は良くなさそうですね……」

「その様ね。行くわよ」

「はい」


 ウィンターさんはそう言うと、拳銃を後ろに対して構える。

 銃は彼女の後ろの地面を向いており、銃口に魔力が集まる。



「【破光衝(ルクシムパルサム)】」



 ドン、と光の銃弾が撃ち出された瞬間、その反動を利用してウィンターさんは黒龍の元へと飛んで行く。

 僕も風の大砲を詠唱破棄しつつ地面に向けて放ち、同じように空を飛んだ。



「【天使の羽根(アンジェル・サラス)】!」


 高速で接近しながら、ウィンターさんの銃から細い光の矢のような物が龍の顔を目掛けて放たれる。


「【帯電付与(ナンブレード)】」


 光の矢が龍の鼻と思われる場所へと着弾すると、龍が僅かに反応を示す。

 そこに僕が竜殺しの剣に電撃を付与し斬り掛かると、鱗に阻まれ僕の剣がバチンと弾かれ、その反動を使って僕もまた軽トラの上に降り立つ。



「援軍か!」

「ええ、状況は!?」


 ウィンターさんの声掛けに地球人が首をだす。


「敵の戦闘員は5人いるみたいだが、内2人は龍の制御に手一杯だ。その戦闘員は狙うな(・・・)

「え? 何故?」


 トラックが揺れ、慌てて荷台を掴みながら僕は聞き返す。


「あの龍、様子がおかしい。見てみろ」



 言われて、その龍を改めて見てみる。

 サービスエリアでぼんやりと眺めていた時は気付かなかったが、よく見るとその龍は目が血走っていて、涎を垂らしながら飛行をしていた。


「何よ、これ。これじゃあまるで……」

「ああ、あの龍はどう見ても正気を失ってる。暗黒魔法に呑まれているのを、敵が辛うじて抑えつけている状況だ」


 暗黒魔法。


 ここでも、その言葉を聞くことになるとは。


「元に戻すことは!?」

「無理だ。人ですら根気のいる作業だ、魔物では不可能と思え」

「……」


 暗黒魔法による侵食は、不可逆的なのだ。

 一度使ったら、二度と元には戻らない。


 ……僕の身体もそうなのだろうか。


「ーー来るぞ!」


 龍の口に魔力が集う。

 これをいち早く察知したドライバーがハンドルを切ると、氷のブレスが吹き出し、氷の(つぶて)が高速道路を破壊する。

 そしてそれを躱し切れなかった僕たちの軽トラのタイヤに、礫が突き刺さりガクンと軽トラが揺れた。


「ぐおっ、タイヤがやられた!」

「【物体修復(レノベート)】!」


 ガクガク揺れていた車体が急に安定し、タイヤが一気に膨らむ。


 これに合わせてウィンターさんは荷台の上で詠唱を行うと、その呪文に合わせて自らも再び黒龍に向けて飛び出した。



「【多重螺旋光(ラグラインド・リーヴ)】」


 光の螺旋が無数に放たれ、大きく彼女は跳躍すると銃口から光の弾丸が放たれる。

 龍は空高く舞い上がることでこれを回避しようとするが、何発かは回避しきれずに被弾している。

 そして敵の戦闘員もまた何人か被弾し、遥か彼方へと吹き飛ばされた様だ。

 これに合わせて僕もまたトラックの荷台から飛び上がり、狂っている黒龍に対して斬撃を与える。



「グオオオオオオッ!」



 龍が咆哮を上げ、その声量に剣が押し返される。

 黒龍の両手に黒紫の氷が出現するとそれが勢いよく射出され、トラックの行く手を阻む。


「クソっ」


 切りつけた事で鱗に縦線が入っていく。

 冗談の様な硬さだが、剣は間違いなく通っている。

 これが竜殺しの剣でなかったらと思うと恐ろしい。


 だがやはり僕やウィンターさんの攻撃では大したダメージになっていない。

 やはり有効打を与えるには、目か逆鱗だろう。


「【雷刃衝(ヴォルソニア)】!」


 帯電した竜殺しから、眼を目掛けて雷を纏った剣波を飛ばす。

 これを龍は身体を回転させながら回避を試みたが、それを躱しきれずに龍の髭が僅かに切断される。



「グルルルルォオオオ!!」

「髭ね……」


 髭が切れた瞬間、僅かに黒龍の軸がブレて、慌てるようにして龍は体勢を整え直して氷のブレスを再び吐く。


 ……バランスを崩したという事は、髭は感覚器なのか?

 そう思考を巡らせていると、龍の両手に再び魔力が集まっていくのを感知したウィンターさんが叫ぶ。



「ーーブレーキよ!」



 禍々しい魔力の波動が龍の掌に集まり、黒い太陽が撃ち出される。

 その黒陽は急ブレーキで倒れた僕たちの頭上を掠め、軽トラの屋根だけを破壊し僕たちの前方に着弾すると轟音と地響きが僕たちを襲った。



「うわっ!」

「きゃあっ!」


 荷台に居たウィンターがその衝撃に耐えきれず荷台から投げ飛ばされる。


 ブレーキが踏まれていなければ、危なかった。


「くそっ……道が……!」


 あの魔法は見た事がある。

 前にこなと伊集院くんが模擬戦をしていた時に伊集院くんが使った魔法だ。


 あれは暗黒魔法だったはずだ。


 その魔法が高速道路に着弾した事で、僕たちの前にあったはずの道は木っ端微塵になって消えてしまい、僕達は黒龍に追い込まれたのだ。


「まだだ。まだ終わりじゃない!」


 そう言って僕は気合いを入れて剣を握る。


 まだ終わりじゃない。ここからだ。

 僕はこれよりもキツい場面を、もう何度も経験しているはずだ。

 それに比べたら、これはまだまだ序の口のはずだ。


「グルル……」


 黒龍が静かに唸ると、辺りの気温が急速に低下していくのを肌で感じる。心無しか、雲が出てきたような気もする。

 龍もまだまだやる気だ。


 それに対して、半分無意識に僕は笑い、剣を握り締め再び剣を帯電させる。


 その帯電した竜殺しを持って、僕はまた走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ