205. ここ反社関係者しか居ないぞ?
「いやはや、同じ師匠を持つ身としてやはり一度会いたくてな。改めまして俺はタービュラ・トンプス。旧AAAAのZから時の守護者としての権能を正当に継承した、時の守護者だ」
「フン」
改めてトンプスが挨拶をすると、ザントさんは鼻で返事をする。
「ザント・アルティール・エピックだ。株式会社ファルサーの社長でここの社外取締役を務めている」
「ファルサーって言うとアレか。あの製薬会社の」
「フン」
「まさかあそこの社長がなあ……」
「私はザント様の秘書を務めておりますウィンターと申します」
めっちゃ地球ネームだなと一瞬考えをよぎらせていると、トンプスさんが口を開く。
「さっき、Wと呼ばれていたな」
「……愛称の様な物です」
「俺が師匠から力を受け継いだ時は確かWとか言う地球人がWの称号を持っていたはず……」
「チッ、なんの事か分からんな」
何故かイラついた様子で盛大に舌打ちするザントさんに内心ビビって居ると、ホワイトだかウィンターだかが僕に声をかける。
「貴方は?」
「あっ、えっと、星野彗です。トンプスさんは依頼主で、ちょっと今行動を共にしてます。ザントさんとも何回か会ったことがあってこの間もQさんとかと一緒にいたことも……」
「そう。なるほど此方の事情は分かってるのね。それにしても貴方、随分と魔力反応が強いわね」
「フン、コイツは救世主の代理だ。こなの魔力を吸って進化したガキだ」
「……ええっ?」
彼女が目を見開く。
「えっと、なんてお呼びしたら良いですか……?」
「そう言うことなら私はWーー」
「チッ」
「ーーイ……う、ウィンターとお呼びください」
今、明らかにコードネームで呼ばれる事に対してザントさんが拒否を示した。
何故だ。
「Wだろ? AAAAの幹部ならコードネームの方がーー」
「何の話だ。X-CATHEDRAは反社会的勢力とはなんの関連も無いぞ」
「……ああ、そう言う事?」
トンプスさんが呆れた様に言うと肩の力が抜けたのか、ソファにより深く座り込んでみせる。
あくまでもAAAAではなく、ファルサーという体でいるのだ。
「あ、改めまして、ファルサー社役員秘書室のウィンターです。宜しくお願い致します」
「おお、名刺がある……本格的だ……」
彼女の懐からなんと名刺が出てくると、流石にトンプスは唸り、それを受け取る。
「まさかペーパーカンパニーだとでも思ってましたか?」
「あ、いや、そう言う訳では無いんだが……一応、製薬会社でも大手だし……」
吃るトンプス。
僕は何処が大手だとかそう言う情報はよく分からないが、少なくともザントさんがマトモそうな会社を運営しているとは思っていなかった。
いや、マトモそうなのか?
考えてみたらこの人マフィアなんだし堂々と麻薬とか製造してそうな気がしてきたぞ。
「今後Z様とのご面会を所望するなら名刺に私の連絡先がありますのでそちらからアポを取ってください。迷惑です」
「いや、こりゃどーもすいません」
「ごめんなさい」
ウィンターさんが不機嫌そうにそう言いだすので僕とトンプスは素直に頭を下げた。
ウィンターさんがと言うか、ザントさんから殺気が漏れまくってたというのもあるが。
「……ところでZ様、もうあと15分ほどで取会が始まりますが資料等は読み込まれていますか?」
「フン」
「恐らくもうまもなく使いが来ると思いますので、それまで失礼します」
今の、会話成立していたのか……?
思わず首を傾げたくなる様なザントさんのタイドに心の中でツッコミを入れている中で、ウィンターさんは部屋を退出する。
「で、だ。貴様の本当の用事はなんだ」
ウィンターさんが外れると同時に、ザントさんが脅すような口調でトンプスを問い詰めた。
それに対して彼はゆっくりと息を吐くと、目線をザントさんの目に定めて口を開く。
「幾つかあったんだが、会うこと自体で達成された物もあるからとりあえず一つだけ。『狭間の宝玉』については何処まで知っている?」
よく分からない名称が出てきたなと考えていると、ザントさんは言葉を選ぶかのように、慎重に口を開く。
「……『四人目』へと至る鍵、だ」
「その情報は誰から?」
「先だ……貴様の師匠からだ」
「ああ、やっぱりそうだよな。やはり師匠はアンタにはアンタで動いてもらう様に指示を出していたか」
あくまでもマフィアじゃないですと言う設定を貫くか。
「何が言いたい」
「結論から言うと半工惑星クラフトの軍部でそれを保有している軍人と遭遇した」
次の瞬間、ガタッ! と大きな音とともにザントさんが立ち上がる。
そのあまりの唐突さに思わずソファで身を引くと、トンプスはチラリと見上げて笑って見せた。
「その信憑性を裏付ける物はあるのか」
「俺の記憶を提供しよう。【記憶抽出】」
トンプスが自分のこめかみに指先を当てて呪文を唱えると、彼の側頭部から半透明な黄緑色の箱が出現する。
その半透明な箱が彼の指を押すように出てきた所で彼はそれを掴み、ザントさんに手渡して見せた。
「い、今のは?」
「記憶抽出魔法さ。自分の記憶にある内容を、映像と音声のデータとして出力して人に見せることが出来る」
そんな魔法があるのか。
「情報提供、感謝する」
「アンタと同じように、俺も師匠から同じような内容で指示を受けているからな」
「この事はこの後の取会にそのまま掛けさせてもらうぞ」
「どうぞどうぞ。伊集院に恩を売ったんだからできるだけ圧をかけてくれ」
「フン」
「あの……指示、とは?」
最近妙に蚊帳の外になることが多いなと危惧していると、トンプスが答えてくれた。
「Z師匠から狭間の宝玉と言う魔導具を集めるように言われているんだよ。世界に6つ存在しているんだが、あまりに莫大な量の魔力を秘めているから見つけ次第回収する様に言われている」
「その魔道具の効果は?」
「純粋な魔力炉としてエネルギーと魔力を供給する他、全て集めるとかつて世界を滅ぼそうとした魔人が封じられている異界への扉が開くとされている」
魔人。魔法使いのことでは無い……よね?
世界を滅ぼそうとしたとか、散々耳にする大戦以外にもこの世界って滅亡の危機に瀕していた事があったのか。
「聞いてる限りではヤバそうな臭いしかしないですね」
「だろ? 世界を壊しかねない代物だから俺たちのような、この世界を守る守護者が動く案件なのさ」
通常使用であればただの魔力ブースト装置であり無害だが、6つ集まると昔世界を滅ぼしかけた魔人が封じられている異界への扉が開く。
どこかの創作物で聞いたことのある設定だ。
「俺は無関係だがな」
「実質関係者だろう。名前を聞いて思い出したが、ザント・エピックと言えばかつての闇の守護者グレビステックの子孫。どんな因果か先代の時の守護者とも関わりがあり、あまつさえ宝玉の話も聞かされている。貴方の過ごして来た時間は、守護者たちの因縁がこびり付いている」
「チッ」
盛大な舌打ちをザントさんがした所で、ウィンターさんが飲み物を持ってきてくれた。
……アルコールの臭いがする。未成年だけど、僕はこれ飲んでしまっても良いのか?
そう密かに頭を抱えていた所で、突然部屋の扉がガチャりと開いて見せた。
「お兄様、居ますか? 今日の取締役会ですがちょっと緊急事ーーおや?」
扉を開けて入ってきたのはグレイスだった。
慌てて入ってきたようで、息が上がっている。
「ほ、星野さん? それにこの人は」
「おや、これはもしかして聖女グレイスかな。初めまして、俺はーー」
「お兄様。地球およびエリアYが何者かに襲われ魔法による火災が発生しています。直ちに総帥室へ」
グレイスが入ってきた事でなんとも言えない微妙な空気感が無くなったが、代わりに入ってきた情報で皆の身が引き締まるのを感じた。
マフィアのボスとその秘書、マフィアのボスに育てられた芸能人、元テロ組織幹部とそうそうたるメンバーが集まっていてさっきのコンプラとやらはどこに行ったのか頭を傾げたくなるが、生憎今はそんな状況ではない。
「分かった」
「星野さん、貴方もぜひ来てください。今は戦力が欲しいです」
「えっ俺無視? マジで?」
エリアYと言えば、かつてルナティックがあった場所。
そして地球。地球では魔法を使うことは基本的には禁じられているはずだ。そんな所に魔法使いが強襲などしたら水族館の二の舞だ。
「総帥室に直接ワープします。捕まって!」
グレイスの言葉に、咄嗟に僕達は手を繋ぐ。
そして腕を強く引っ張られる感触と共に部屋がぐるぐると回ると、瞬きの間に僕たちの目の前でモニター越しに各地に指示を飛ばすこなが出現した。
 




