203. 当社はコンプライアンスを遵守しております
Raging
[形]
1.〈痛みなどが〉ひどい.
2.猛烈な.
3.≪略式≫ものすごい,並はずれた.
Rampage
暴れ回ること,狂暴な行為.
━━[動](自)暴れ回る;〈船が〉流される.
「で、X-CATHEDRAに来たのは良いが、どこに行けばソイツと会えるんだ?」
「言っておきますけど僕もその人がどこにいるのかまではわからないですよ。ただ分かりそうな人がいる場所に行くだけで」
「そうなのか」
「ところでトンプスさん……本気でその格好でいるつもりなんですか?」
歩きながら彼の顔を見る。至って真面目そうな顔をしている。
何故か顔にはちょび髭がついているが。
「おう。変装は必要だからな」
「それ、変装の内に入らないと思いますよ?」
「ちゃんとヒゲ付けてるからへーきへーき」
一応は宇宙の大スターのはずなのに、彼はちょび髭以外に変装はしていない。
大丈夫なのだろうか。
そんな僕の不安はあっという間に的中してしまう。
「ねえ、アレって……」
1階の総合受付を通り過ぎると、まず受付の人達がひそひそと、反応を示す。
すると受付で応対されていた人達がそれに釣られて反応する。
ひそひそ。
ざわざわ。
「あの、やっぱりここは何とかした方が……」
「え? まだいける。エレベーターまでの辛抱だろ?」
ざわざわ。
がやがや。
「……」
これはだめだ。
そう自分の中で結論づけて、遠く離れたエレベーターホールの昇降ボタンを念力魔法で押し、事前に飛び込めるように仕込みをした所で、遂にそれは起きた。
「Oh my god!! It's Temps!!!」
「げっ!」
いや、げっ!じゃねーよ。
思わず自分のキャラがグラつくツッコミが出そうになった所で、トンプスの名を盛大に叫びやがり遊ばした地球人の発言に群衆が一斉に反応した。
「トンプス!?」
「トンプス!!」
「トンプス様!!?!?」
そしてその一寸の刻の内に、視線が此方に寄せられるのを感じる。
それはもはや殺気と言っても差し支えない。
僕とトンプスを含め、全員が息も瞬きも忘れてしまったかのような間が、一瞬。
「ーートンプスだぁーーーーーー!!!」
「ぎゃあああああああああっ!!?!?」
「うおおおおおおおおおっっ!!!」
人ごみが決壊し、さながら津波の様に人が押し寄せ反射的に僕は逃げた。
「エレベーターにトンプ……って居ない!?」
鎖や蔦など、明らかに捕縛しようとしている魔法が幾つか飛来するのを避けながら走っていると、ふとトンプスがそばに居ない事に気づく。
はぐれたかと瞬時に考えを走らせた所でエレベーターホールを見ると、そこにはエレベーターの中で手を振ってるトンプスの姿があった。
「こっちだ!」
「いつの間にっ……【鉄の壁】!」
防御魔法を展開し敵を足止めしながら全力で走る。
目の前に落とし穴の魔法が仕掛けられたのを見抜いて、それを飛び越して風魔法を足に付与し加速。
「飛べ!」
言われるがままに飛び込むようにエレベーターに入り込むと、エレベーターの扉に魔法陣が展開され扉が高速で閉まる。
今、エレベーターの扉が外側からひしゃげた様な……
「す、滑り込みセーフ……」
「危なかったな」
「って言うか、いつの間にエレベーター乗ってたんですか」
起き上がり埃を落としながら疑問をぶつける。
「時間魔法で自分を加速させてその隙にこっちに来た」
「それなら僕も一緒にしてくださいよ……」
「時間魔法でこれ以上君の寿命を元の時間から解離させると帳尻合わせが面倒になるからな」
「トンプスさんはいいんですか……」
「俺は常に記録を取っているからな」
◇
「ソイツは大変だったな」
副総帥室。
ノックをして扉を開けてみたら、そこには三人の伊集院くんがハサミを手に内職をしていた。
どうやら僕が昨日式神を貰ってから1時間ほどしか時間は経過していないらしく、何事かと怪訝な顔をされた所で僕の後ろからトンプスが現れたために時間を遡って来た事を察したとの事。
「付け髭だけじゃあね……」
「こいつは世間知らずだからな。付け髭程度で見た目誤魔化せるなら変身スキルのドライブや魔法は要らないしうちの諜報部もずっと楽な仕事のはずさ。まあ何にせよ彗もお疲れ様」
「世間知らずとは失礼な。久しぶりに会うというのに相変わらず無愛想だな、兄弟」
「事実だ。それにそもそもこれはどう言う風の吹き回しだ?」
怪訝な顔で3人のうちの1人が言うと、手でシッシッと他の2人に指示を飛ばす。
すると他の2人の伊集院くんは興味を失った様にため息をついたり首を傾げたりしながらまたチョキチョキと式神を切り抜き始めた。
「頼みがあって来たんだよ」
「はあ」
「AAAAの総帥に会いたい」
「君のお師匠様ならハブルーム星にある風烈の森で御隠居されているだろう」
「茶化すな。俺が言ってるのは師匠じゃなくて跡取りの方だとお前も知っているはずだ」
伊集院くんが人差し指でテーブルに丸を描くと、僕たちの目の前に飲み物が現れる。
「知らんな。むしろこちらが教えて欲しいぐらいだ」
それは僕の予想していなかった回答だった。
「お前が知らない? 嘘だろう」
「AAAAの幹部は全員が表の顔を持っていてこの宇宙社会に完全に溶け込んでいる。幹部はコードネームで呼ばれていて情報は高い秘匿性で管理されていてこちらとしても手をこまねいている状態だ」
「だが組織のボスなら流石に分かるだろう」
「俺が君の師匠が先代Zだったのを知っているのは、かつて俺の師匠と同じパーティだったからであり反社会的勢力でありながら世界を救った英雄でもあったからと言う特例だ。その跡取りの事は聞くなら君の師匠に聞くのが筋だろう」
その言葉で、何故伊集院くんが知らないというスタンスで居るのかに気付く。
AAAAはあくまでも『反社会的勢力』なのだ。
「そうか。知らないのか……」
「力になれなくて悪いな。今日この後取会で外取のザントもそろそろファルサー社から来る頃だろうし、そろそろ失礼してもいいか?」
肩を竦めながら伊集院くんは立ち上がると、チラリと僕に視線を送った。
そういう事か。
「その取会……? って言うのはいつからなの?」
「あと30分ぐらいで始まる」
「そうなんだ」
「総帥室は120階。副総帥室はここ100階。外取の部屋は78階。彗はこの先も来ることがあるだろうから覚えておくといい」
「ありがとう」
「じゃあ悪いが取締役会の資料を今のうちに予習したいのでそろそろ出て行ってくれ。申し訳ないが一応機密事項なんでな」
「……お前、そんな神経質な男だったか?」
「神経質ですよ。ただの客に極秘資料見せびらかすほどコンプラは軽視してない」
「そうかよ」
満面の笑みからの拒絶にトンプスは苦笑いする。
「じゃあ、またね」
「えっもう帰るのか?」
「知らないって言うなら、仕方ない」
適当にトンプスを丸めて僕は半場強引に部屋を離れる。
「なあ、俺はAAAAのボスに会いたかったんだが、まさかアイツがそうだったとは言わないよな?」
「まさか。でも場所は分かったから今から会いに行きますよ」
「……は?」
エレベーターを呼んで、それに乗る。
そして78階に着いた所で、彼の顔が青ざめた。
「……おい、冗談だろ? まさかAAAAのボスって……」
「さあ、行きましょう」
エレベーターを降りて、フロアガイドに従って、部屋の前につく。
今更だけど、ザントさんの部屋に来るのは初めてだ。
しっかりと扉を開ける前に3回ノックした、扉を開けた。
「失礼しまーす」
 




