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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第14章~Rocking Royalties~
202/269

201. テロリストの思惑

「実行犯が……死んだ……?」

「当たり前だろ。魔法界の鉄則については水族館でも言ったはずだが」


 鉄則。

 魔法使いは非常時以外、魔法を地球で行使してはならないと言うルール。


「それは、まあ」

「テロリスト共については非魔法開拓地区保護法違反の現行犯であの場で俺とこなが処分させてもらった」


 さも『当たり前』のように『処分』したと言う伊集院くんに、思わず返す言葉を迷っていると、彼はこうつけ加える。


「魔法使いは生物学的に人ではない。人ではない故に、地球人の考える人権もまた、適用されない」


 無論人権と言う概念はあるが、それは地球人の考える物とは違う。

 そう締めくくると、彼は飲み物に口をつけた。



「実行犯は、って言ったよね? 実行犯以外が居るの?」

「鋭いな。首謀者はまだ逮捕できてない」


 話題を変えるためにそう言うと、彼は目を細めた。


 なるほど。

 つまりあの事件は事前に察知されていて、それで伊集院くんはこなとその鎮圧のために電車に乗っていたのだ。


「ちなみにその首謀者は?」

「君もあった事のある人物だよ」


 伊集院くんのスカウターから目の前に半透明なスクリーンが投影される。

 そこに映し出されたのは、ついこの間見た顔。

 いや、顔は隠していたので姿と言うべきか。



「アトモス……」


「あの事件の主犯はDEATH(デス)だ。目的は、とにかく混乱を巻き起こして地球上の魔法使いを増やすためさ」

「魔法使いを……増やす?」


 その意図が見えない。

 なぜそんな事をする必要があるんだ。


「魔法使いに進化した者は、当然ながら魔法世界に関しては無知。そこに付け込んで、進化したての魔法使いを暗黒魔法漬けにするんだよ」


 ほら、未成年に麻薬売るのとノリは同じだよ、と続けた伊集院くんの発言に、背筋に悪寒が走った。


「暗黒魔法は依存性が強い上にお手軽でパワーが高い。ファンタジー世界、それも特にチートに憧れる人々に取ってはうってつけの餌だ」

「やってる事が最低だね」

「俺もそう思う。ちなみにあのテロの被害者は総勢300名。死者3名、進化者187名。内、魔力拒絶症状の発症者は98名だ。残りは軽傷者で全員に記憶消去実施済みだ」



 2人に1人以上が魔法使いになった。

 これが多いのか少ないのかは、僕には分からない。


「でも、どうしてあいつらはそんな事を?」

「奴らは違法なドライブを売ることで利益を上げている組織だ。強力な魔法使いを使って強力な魔法使いを生み出し、その犠牲者とも言える新米魔法使いに違法なドライブを売りつけるマッチポンプさ」

「その違法ドライブって言うのは、一体?」

「普通のドライブのように見せかけて、暗黒魔法を使うように思考を誘導させその効果を増幅させる機構が備わっている。じわじわと脳みそを書き換えていくから発見も遅れるんだよ」



 聞いている分にはまるで麻薬と麻薬の掛け算だ。

 そんな僕の考えを読んだのか、彼はこう続けた。


「麻薬は所詮現物が無いと使えないが、暗黒魔法は簡単な呪文ひとつでお手軽に、しかも魔力の続く限り何度でもトリップする事が出来る。故にこの魔法は禁術に指定されるし、これをよりにもよって最適化させる様なドライブは、この世にはあってはならない物なのさ」



 それに、この宇宙は一度暗黒魔法で滅びかけたし。


 そう言う伊集院くんはため息をついてみせた。


「キメラ戦争……だっけ?」

「そうそう。違法性や使用者が身を滅ぼす危険性なんてのは正直どうでもいいんだが、この魔法は宇宙を壊す。それは守護者として見過ごす訳には行かなくてね」


 そういう彼の表情は珍しく真剣だった。


「守護者も大変だね」

「暗黒魔法は無くならないが、それを流布している場所を潰して無くす事なら出来る。だから我々はまずあの信じられないレベルでダサい名前の組織を潰すのさ」


 口にするのも恥ずかしいと言ったように伊集院くんはそう締めくくる。


「……出来るのかな」

「ルナティック相手の時よりも簡単さ。ルナティックはこちらの手の内を知っていたから搦手を使ったが、コイツらはそんな事は知らないから好き勝手に出来る。現に君はウェルドラやスナームの捕縛に貢献してくれた」

「それはまあ……そう、だけど……」

「だが今まで上手く行っていたからって、次も上手く行くとは限らない。そこで、今から君にこれをプレゼントしよう」

「えっ?」


 彼のテーブルから、3枚の和紙が独りでに浮かび上がり僕の眼前へと運ばれる。

 これは……


「攻撃を受けると消滅するということは、言い換えれば攻撃を受けない限りは消滅しない。消滅しない限り、君はこれを使ってる間は人数優位を保つことも出来るだろう」

「でも、これって」

「または人数不利ならこれを使えばそれを緩和することもできる」



 暗に、非常時以外は使うなよと釘をさしてくる。


「いいの?」

「もちろん」

「……ありがとう」

「式神自慢に付き合わせてしまったからね」

「そう言えばその式神作りなんだけど……」

「うん?」


「それで分身を出して、分身と一緒に作業した方が早いんじゃない?」


 またハサミを手に取りチョキチョキ始めようとしていたその時に指摘してみると、彼はそのまま固まってしまった。


「……その発想は無かった」


 そう言って、瞬きを1回。


「2人でやれば作業効率は2倍だし、3人なら3倍だよね」

「確かに。俺も何故今まで気づかなかったかな?」


 そう言うと彼はハサミを手に置き、和紙を投げて分身を生み出す。

 僕の目の前には伊集院くんが今3人いる。


「老化か?」

「俺まだピチピチの男子高校生だよな?」

「自分で自分の事ピチピチと形容するのは加齢臭しないか?」


「何か伊集院くんが3人になると凄いね……」

「我ながらめんどくさいな」

「だが三人寄れば文殊の知恵と言うだろ?」

「同じ人が寄っても同じ意見しか出ないのでは?」

「むしろ視界がますます偏りそうだな」

「闇の魔族なのに視野が凝り固まるってそれもう魔王では?」

「どうでもいいけどお前魔族って巧に言われたの地味に気に入ってる節あるよな」

「でも俺ってお前じゃん」

「それな」


「ねえ伊集院くんたち、僕が突っ込む隙が無いんだけどそろそろ一人漫才辞めない?」


 不毛な会話をし始める伊集院くんたちを止めると、そのうちの一人がそれもそうだなと席に着くとハサミを手にとる。


「悪い、ついついな」

「まあなんせ有効活用してくれ。ただしそれを売ったり譲ったりはするなよ」

「分かったよ」


 こんな危険な代物、人に渡したりなんて出来るはずもない。


「じゃあ、また来るね」

「おう、アーティに宜しく」

「うん」


「この部屋ハサミひとつしか無くないか?」

「言われてみればそうだな。想定してないとかお前馬鹿だろ」

「でも俺はお前じゃん」

「いや買えばいいだろ」

「ならオリジナルが行けよ」

「俺、俺使い荒くないか」


 そこで僕は伊集院くんの私室から退出した。

 またしょーもないやり取りに巻き込まれそうな気配がしたので、事前に離脱だ。


 とりあえず、僕の巻き込まれた事件については一定の説明を得られたので今回はヨシとする。

 それに、思わぬ収穫も得た事だし。



 ……そう言えば、何故電車に乗っていたのは伊集院くんとこなだったのだろう。

 いくら数が居たからとはいえ、それこそたかがテロリスト集団に世界最強格の2人が応じる必要なんてあったのだろうか?


 ついでにこのことについても聞いておくべきだったろうけど、もう部屋を出てしまったし、またにするか。

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