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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第14章~Rocking Royalties~
201/269

200. 複思式神

「伊集院くん」

「ん?」


 翌日。


 宿題をやりたがらない巧を峰さんの元に預け(ぶん投げ)、その足でX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)副総帥室に訪れると彼は居た。


 僕が1人で来たことで珍しいと思ったのか、彼は手に持っていた和紙とハサミをデスクに置くと立ち上がった。


「……それ、何やってるの?」

「ああこれ? 式神作りだよ」

「結構フツーにハサミとか使うんだね」

「魔法で切るのって思いのほか繊細で面倒なんだよ」


 伊集院くんに無言で促され、目の前の応接セットのソファに腰をかける。


「確かに量を作ろうと思ったら面倒くさそうだね」

「だが俺以外に作れる者が居ないからな。これは特別製だから他にもプロセスあるし……」


 伊集院くんの地味な一面を垣間見て内心感心していると、魔法で飲み物が出現する。

 何らかのジュースだ。


「式神ってどうやって作るの?」

「昔は色々と面倒臭いプロセスがあったんだが、現代魔術のお陰でーー早い話がゴーレムを作る魔法を応用してーー和紙に闇魔法を練り込んで作っている」


 そう言うと伊集院くんは試しに和紙を人の形に切り取り、その中心点に黒い魔法陣を描いて見せた。


「ちなみにこれは俺の開発した固有魔法だから俺が死んだらこの技術は失われる」

「マジで?」

「まあ喪失魔法(ロストマジック)になっても誰も困らんだろ」

「でも便利そうじゃん」

「便利だから、だよ。さっきも言ったが、これは普通の式神ではない……いい機会だから、これが具体的にどんな物なのか教えよう」


 伊集院くんはそう言って、僕の前に一枚の人形(ヒトガタ)を置いた。


「黒い魔法陣に指を当てて魔力を込めてみろ」


 言われるがままに、その小さな和紙の極小魔法陣に魔力を指先から送る。


「あとはこれを適当に投げればいい」

「投げる?」

「そう。呪文はない」


 頭を傾げながらもそれを指でつまみ、ポイと投げるとそれがヒラヒラと床に落ちる。


 床に触れると同時に、その人形(ヒトガタ)が独りでに起き上がり、ドス黒い闇が噴き出し、その闇の中から現れたのはーー



「うわっ!?」

「はっ??」


 自分の姿だ。

 これは……


「えっこれどういう事?」

「何これ、なんで僕がもう一人居るの?」

「これが俺の開発した固有魔法ーーいや正確には固有魔道具なんだがーーまあなんせ俺が作った物の一つの『複思式神』だ。簡単に言うと分身を作れる」

「分身か……」

「なるほど……」


 僕と分身が同じ動作で頷いて気持ち悪いなあと内心考えていると、伊集院くんが徐に僕の分身に書類を渡してみせる。


「悪いんだがこれを総帥室にいるこなに渡しに行ってくれないか」

「えっ僕が?」

「式神の説明に必要だし、ついでだ。終わったら続きを説明するから戻ってきてくれ」

「え〜……まあ、良いけどさ……」


 嫌な顔をしつつ分身がその書類を手に取ると、僕の分身が部屋を出る。


「さて、この式神の他とは違う点についてなんだが、まず一つ目に、この分身は完全に自律行動を行い術者とのリンクが無い。自分が分身であるという自覚だけはあるが、それ以外は完全に元の使用者と同じ魔力、魔法、行動パターンを取る事が出来る」

「ふむふむ」


 そう言うと伊集院くんは懐から同じ式神を取り出してそれを投げる。

 するとそこから別の伊集院くんが出現する。


「何だよ」

「今彗に複思式神の効果を説明しているんだよ。悪いがこなの所に行ってその式神を殺して欲しい」

「はん、相変わらず自分使いが荒いな」

「自分のことだからな」

「ごめん伊集院くん今なんて言った?」


 今聞き捨てならない事を言った気がするぞ??


「分身に分身を殺せと言った」

「なんでそんな事を??」

「後ほど説明する。話の続きだが、この複思式神の特徴2つ目は、この式神は常にHPが1で固定されていて攻撃を受けると即座に魔力が抜けて紙に戻る。もっと言えばこれはスキルにモノを言わせて闇を多分に練り込んでいるから、紙に戻ると更に闇に変化して溶けてなくなる細工がしてある」

「……なんで?」


 伊集院くんの分身が部屋の外に出ていく。

 それを見届けると、伊集院くんは答えてくれた。


「元が紙だから耐久はどうしても盛れなかった。あとは証拠隠滅目的かな」

「物騒だね」

「何かを成し遂げた後に自殺して証拠を完全に消したりするのに使う」

「発想が色々と振り切ってるね?」


 完全に着眼点が悪人のソレじゃないかと暗に言っても伊集院くんは知らぬ顔で続ける。


「この式神はぶっちゃけ俺のスケジュールがパンパンでどうにもならないから多用しているんだよ。分身の魔法だと常時魔力を使うがこれは一度切りだし、基本的に効果は分身が攻撃を受けるまで永続する」

「それは凄いね」

「お陰でこなによくこれを強請(ねだ)られる」


 そう言うと、彼は飲み物に口を付ける。

 それに合わせて自分も飲み物を飲もうと手に取った瞬間、突然の出来事に思わず身体が跳ね、飲み物を落としかけた。



「うわっ!? な、何だこれ!!?」



 頭の中に、突然情報が流れ込んでくる。


 持っていないはずの記憶が脳に流れ込み、見ていないはずの景色が脳裏に焼き付く。


 この風景は、もしやーー



「特徴その3。式神が闇に還る時、その式神の行ってきた内容が全て記憶という形で使用者に還元される」

「つ、つまりこれは、分身の僕がやった事??」


 記憶では、分身の僕はエレベーターを使ってこなに会いに行っていた。

 そこで書類を渡した後、伊集院くんが後ろから現れて首を傾げていたところで伊集院くんが突如襲いかかり、咄嗟に武器を取り出して彼の攻撃を受け止めた所で、闇で出来た触手に腹部を貫かれた所で記憶が終わっていた。


「そうそう。先程リンクが無いと言ったが、分身が体験したことをそのまま追体験することが出来る。これによって複数の場所に同時に存在するということが出来る」

「す、凄いねこれ……」


 これならこなが欲しがるのも分かる気がする。

 というか、効果を知っている人なら誰でも欲しくなるのでは。


「俺がこれをばら撒かない理由は、確実に悪用者が出るからだ。これは証拠を残さない。ダブルブッキングも余裕だし忙しい人ならこれを善用も出来るが、これは暗殺にも使えるしアリバイ作りにも使える」


 これは俺が悪用しているからと言うのもあるが危険過ぎるから世に出すことはしない。と言う伊集院くんは妙な説得力を持っていた。



「でも、どうしてこんな物を作ったの?」

「分身を作って色々な事をさせたくてな。片方の分身は勉強をして、片方はギルドの依頼をして、片方はどこかの要人と会いながら本体は寝る。それが出来るならくっそ便利だろ?」

「それは、まあ……」


 最後だけ伊集院くんらしからぬ俗物さだな……


「分身のコントロールとか五感を共有しようとすると流石に脳が焼き切れるから死ぬ時に記憶を還元する方式を採用した。これは昔『転生プログラム事件』ってのが発生した時に着想を得ーー」



 その言葉で、自分がそもそもここに来た理由を思い出す。


「あ、そうだ伊集院くん」

「なんだ?」


 一瞬キョトンとした顔を見せすぐ元に戻る彼を見て、僕は一瞬深呼吸をした。


 よし。


「僕の魔法使いになった時の事件って、そういえばその後どうなったの?」

「……どうして今の流れでそれを?」

「アーティさんと会って、色々と話を聞いていたらそう言えばあの事件ってその後どうなったのかなと思っててさ」

「ああ、アーティと会ったのか。自己紹介でもしたのか?」

「まあそんな所」


 一瞬の間があり、伊集院くんは口を開く。


「まず、電車襲撃事件の実行犯なら全員死亡した」

「……えっ」



 彼の口から出た言葉は、衝撃的な物だった。

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