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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第14章~Rocking Royalties~
198/269

197. アーティの身の上

「凄かったです!あれで本当にリハーサルなんですか!?」


 今日のリハーサルが終わった段階で、思わずトンプスにそう声をかけてしまう。

 ただのリハーサルなのに、トンプスの演出家としての一面に、僕は控えめに言って感動してしまっていた。


「本番は楽しみにしていてくれ」


 あくまでも僕の主観だが、トンプスはとても努力家だ。

 宇宙一の歌手と言うだけはあって、歌唱力は抜群だ。それに魔法を交えたダンスも、地球では絶対に見られない物だ。あれは凄かった。


 しかも、それを鼻に掛けていない。

 音楽に誠意を持って臨んでいると言ったらいいのかな。


「僕まだ魔法使いになって短くて、全然宇宙のこと知らないので、あんなの初めてでした」

「そうか。地球人は進化組が圧倒的に多いからな。そちらのメモリアさんは?」

「アーティで良いですよ。自分はラルリビ生まれラルリビ育ちなんで、よく存じ上げてますよ」

「ほほうそうかそうか。しかしまあ……君たちも揃って不思議な感じのする魔法使いだな」

「と言うと?」


 僕達は今、広場にあった観客席に座り込み、話し合っていた。

 そんな中で、トンプスの目が細められた。


「先ずは、アーティ。君から感じる時間はとても歪だ。年齢の倍は生きているような、そんな感覚かな」

「ほう」

「そして君……星野くんは、まあ、言うまでもないか。俺を『上』から抑え込む、あの女の魔力をどうやって受け継いだのかは知らないが……」


 チラリとアーティさんを見つめて、チラリとコチラにも視線を寄せて。

 トンプスがニヤリと不敵な笑みを浮かべると、アーティさんはそれに合わせてため息をついた。


「……はは、流石は時の守護者だけはありますね。年齢の倍、ですか」

「ああ」

「じゃあ、折角ですから親睦を深める意味合いも込めて、自己紹介でもしましょうか」


 そう言うと、アーティさんは懐のポーチからコップを取り出すと、そこに水が魔法によって注がれて行く。


「ああ、それはいいね」

「では先ずは言い出しっぺの俺から。と言ってもまあ……『転生プログラム事件』と言えば、大体は分かりますかね?」



 その言葉に、トンプスの目が僅かに見開かれる。


「ああ、そういう事か。お前、あの事件の被害者か」

「ええそうです。俺は『転生者』なんですよ」



 転生者。


 ラノベとかをそこまで読む訳では無いので触り程度しか知らないが、要するにそういう事なのだろうか。


「ちなみに元々は?」

「地球人ですよ。それもそこの星野くんと同じ島国の」

「へえ!」

「嫁子供も居たし、一度転生前と区切りを付けるために転生前の故郷に里帰りした事もありますよ」

「……えっ日本人なんですか!?」



 思わず聞き返してしまうと、アーティさんは笑う。


「出張で大宮から新幹線乗って名古屋まで行ってレンタカー借りて走ってたら車が飛び出してきて避けようとしたらガードレールにぶち当たって死んだ」

「結構具体的ですね!?」

「ちなみに転生してから自分の墓参りも済ませてきた」

「どんな気分だったんですか」

「千の風になっての冒頭思い出して笑った」

「自分の死とはいえ死人で笑うとか不謹慎ですね!?」


 かなりドメスティックな話題が出来てしまう事で、本当に転生した人だなあと感じ取れてしまう。



「それであんなに僕に反応してたんですね……」

「まさか日本人と会えるとは思わねえじゃん?」

「その口ぶりだと、君たちは同郷なのか」

「はい。俺の魂は地球人ですよ」

「なるほどねえ」


 トンプスが遠い目で空を見上げる。


「しっかしまあ、『転生プログラム』事件か。アレも酷い事件だったな」

「ええ」

「あいつらは時間を冒涜している。アレは俺としても許せない事件だった」

「えっとごめんなさい、その転生事件って、なんですか?」


 話が全く理解の出来ない方向に向かっていたので説明を求めてみると、トンプスが驚いた様に目を見開く。


「……知らないのか?」

「魔法使いになってから日が浅くて……」

「そういやそんな事言ってたか。ちな、いつ進化したん?」

「まだ進化してから4ヶ月しか経って――」

「――4ヶ月でエペレス陛下にダメージを与えたのか?」

「え、ウッソだろお前!?」


 トンプスが思わず椅子の上で後ずさる様な仕草を見せる。アーティもまた飛び上がるようにしてそういう。


「は、はい」

「おっそろしいなオイ。ある意味『転生プログラム事件』よりもよっぽどやべえわ」


 ……そんなに凄い事、なのだろうか?


「そもそも、よくこな殿下の魔力的なクローンが存在しているよな」

「戦略兵器そのものと言っても過小評価なあの圧倒的な魔力を抑え込んで進化出来るというのがそもそもおかしい」


「……あるいは、か?」


 アーティさんがチラッとそう零すと、トンプスがその言葉に一瞬固まる。



「まさか」

「いや、だってどんな状況かは知らないが貴方の同僚(・・)が絡んで無いなんて事、ありえないでしょう」

「いやいやいやいや、流石にそれは……」

「そう言う人間であると言うことは、貴方が一番良く理解されているはず」


「……」


 えっと、何の話をしているんだ、この人たちは。


「……」

「……ま、星野くんも何の話をしてるか分からないだろうし、ここは一旦この話は辞めよう」

「そうか……じゃあ、説明しよう」


 そう言うとアーティさんはゆっくりと立ち上がり、こちらに歩み始める。


「昔……と言ってもまだつい最近の話だが、この宇宙に『アルキアーマ』と呼ばれる組織があってな。まあ、早い話がそこが転生者を人為的に作り出そうとした事件だ」

「……人為的に?」



 転生者を人為的に作る。

 その言葉を聞いて、一瞬どういう事なのか理解が出来なかった。


「ああ。組織の首魁は科学者でな。人為的に転生者を作ろうとしていた。最終的に自分が永遠に転生して永遠に生き続けられるようにな」

「……不老不死みたいな物ですか」


 はあ? と声が出そうなのを抑えて顔を顰めてみせると、アーティは続ける。



「まあ、死ぬ事(・・・)を除けば転生して蘇るんだし実質不死(・・)みたいなもんだな。最終的にソイツは倒せたからいいけどな」

「……よく倒せましたね」

「転生する前に倒したんだよ。いや、せいかくには一度転生された所をまた転生される前に倒したんだがな」


 感情が消えてしまったかのような声で、淡々とアーティさんは語った。


「あの事件の詳細は俺も伊集院から聞いている。聞いていて実に胸糞悪い事件だった」

「そんなに、酷かったんですか」

「その転生実験のために数え切れない人間が狂い死にしたからな。まあ、俺の身の上はそんなところだなあ」


 話を切るようにアーティさんはそう言う。

 僕もトンプスも、明らかに空気の変わってしまったアーティさんを察し、それ以上彼の身の上を聞くことは、しなかった。

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