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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第14章~Rocking Royalties~
193/269

192. 龍仙皇帝カーゼル

「いやはや、見事であった」



 ぱちぱちと拍手をしながら、皇帝カーゼルがブーレと妻の元へと歩み寄る。


「お見事でした、ミスブーレ。貴方の炎の扱いは熟練していて見る者の目を奪う美しき物でした」

「は、はひぃ……」


 既にクタクタと言った様子のブーレに対し、メタモーフと呼ばれていた従者が回復魔法を掛けていく。

 ……今さっきこの人自分を機械と言っていたような気もするが、機械が魔法を使えるのか?


「では、次はワシじゃのう。ダイ殿、お手合わせ願おう」


 無言でフェイドが頷き、椅子から立ち上がる。

 これに合わせてエペレスとブーレが空いている席にトンプスのエスコートで座ると、フェイドたちは武器を構えて見せた。


 皇帝カーゼルの構えた武器は、不思議な杖。

 杖は床に面した先端がとても鋭く尖っていて、本来グリップの在るべき場所にはMの文字が刻まれた、蒼い水晶質の何かと、楕円形の軌跡でそれを周回する電子のような物が3つ浮いている。


 対してヤーテブ星人のフェイドは赤黒い弓矢だ。弓は赤と黒の螺旋模様であり、その表面は鋭く研ぎ澄まされている。

 ひょっとしなくてもアレはいざと言う時は近接武器として敵に斬り掛かれるようになっている可変型(ギミックド)だろう。


「ではせっかくじゃ、ワシも名乗って見せようかの。ワシこそは『龍仙』カーゼル。お手柔らかに、等とは言わぬ。全力で掛かって来るのじゃ」


「……フェイド・アルタール・ダイ。X-CATHEDRA(エクス・カテドラ)諜報部だ……【スピアストリームF(ラ・ストラ・バーニア)】」


 初手から火炎槍の嵐を巻き起こすフェイドの魔力が凄まじい。観客の僕が勝手に怯んでいる間にも、槍に混ざって矢も飛んで行く。


「……【雷旋障(ラテンヴォ)】」


 その刹那、まるで世界がスローモーションになったかの様な錯覚が僕を襲った。

 無駄の一切無い、滑らかな動きでカーゼルが杖を床に突き刺すと杖から蒼い光が漏れ、無数の雷がカーテンの様に降り注ぎ炎の槍と矢を落として見せた。


 その魔術はまるでフェイドを敢えて避けるかの様に周囲へ落雷して、火焔と矢だけが見事に消失している。


「くっ、【土塊の塔(エレファンゴ)】、【鬼火(ブラキア・イグニス)】!」


 床から岩石のタワーが次々とせり上がると同時に鬼火が数個飛来しカーゼルへと迫る。


「【凍結線(フレジアル)】」


 しかしカーゼルはヒラリとその身を翻して攻撃を躱すと、空中からフェイドに対して一瞬の隙を突いた細い水色の光線を浴びせ攻撃を仕掛ける。

 これを回避し切れなかったフェイドの脚に光線が直撃すると、被弾点を起点に氷が発生しフェイドの脚が氷漬けになってしまった。


「ちっ!」


 フェイドはそれに対して自分の脚に火の玉を詠唱破棄で放ち、氷を叩き割ると矢を放ち攻撃を仕掛ける。

 どうやらカーゼルはエペレスと違って動かないつもりはサラサラ無い模様で、杖の先端から炎のブレスのような物を放ち矢を炭化させると続けざまに呪文を唱えた。


「【龍炎峰(フィアモンタ)】」


 地を這う様に蒼炎の柱が立ち上がると、その火柱がフェイドの元へと向かう。

 これをフェイドは横飛びをし回避しながら矢を射るが、火柱がフェイドの方向へと軌道を曲げて行くと彼は顔を顰め、呪文を唱えた。


「【滝落とし(カタラクト)】、【インスレート(イソーラ・スタティ)】!」

雷旋(ラテン)ーーなるほど。【凍結線(フレジアル)】」


 滝が現れ、部屋の中が今度は水で満たされていく。

 強制的に火柱を遮断するフェイドに対してカーゼルは空中へと飛び上がり宙に浮いた状態ですぐさま雷魔法の詠唱に入るが、そこでフェイドが続け様に唱えた呪文を聞くとそれを中断。

 代わりに部屋中に満たされた水に氷のビームを放つと、今度は瞬く間に水が凍りフェイドの身体がその氷に囚われる。



「この部屋、こんなズタボロにしても良いんです? さっきここ火の海でしたよね」

「今度は銀世界だなんて、レッドに叱られるわねえ……」


 傍では呑気にトンプスがエペレス陛下と談笑中だ。さっきカーゼル陛下が同じような事を言っていた様な気がする。


「しかし龍仙皇帝と言うだけあって、ミドルテーブル(炎水電気草)魔法はお見事ですね」

「あちらが自然的な魔法を使うのに対して私はメカニカルですからね」


 純魔法使いと言った様子の戦い方をする割には身軽でヒョイヒョイ攻撃を躱す皇帝カーゼルは未だに無傷だ。

 対するフェイドは少しずつ消耗し始めており、今も氷に囚われた身体をどうにかしようとしている所にカーゼル陛下の杖から放たれた魔弾に被弾し、ダメージを受けていた。


「くっ、【フレイムリフト(レヴィフレイム)】、【落星(メテロック)】!」


 火炎で氷を砕き、岩石を降らせる魔法で攻撃し、間を入れずに弓を構え矢を放つ。

 その矢は何か付加されていたのか、カーゼルの展開する障壁に直撃すると爆発を起こし、フェイドは更に矢を放つ事で追撃を試みた。



「この人は別ベクトルに激しいね」

「ええ。派手なのは見ていて好きですわ。それに対してカーゼルは地味で何だか……」


 エペレス陛下がトンプスとの会話で小さく、しかしハッキリとそう言うと夫がニヤリと笑う。


 そして詠唱を開始した。



「【Δシークエンス(デルタシンセク)】、【積乱掃撃(キュムロンペスト)】」


 杖に魔力が集まると雷の嵐と炎の津波、そして凍結の光線が同時に放たれ、3属性の攻撃が一度に襲い掛かる。


鉄のか(リペイア)―――」


 フェイドは反射的にこれを鋼鉄の壁を展開することで受け止めようとするが、上からも横からも迫る攻撃を受けきれずに雷に被弾する。

 そしてそのまま杖から蒼い光が天井付近に放たれると室内だと言うのに巨大な雲が出現し、(ひょう)の槍が稲光と共に降り注ぎ部屋中を襲う。


「おお、派手ですね」

「そうそうこういうの。龍仙皇帝ならこれくらいはやってくれないと」

「すげえなこれ……俺勝てるかな……」


 雲が散ると、そこには声を伴わない悲鳴と共にシールドが砕け散り、ボロボロになったフェイドが立ち尽くしていた。


「ま、参りました……」

「いやはや、お見事でしたな。ワシも妻にあんな風に言われてつい張り切ってしもうた」


 エペレスは満足そうに夫を見ると、チラリとこちらに視線を寄越した。


 やべえ。めっちゃ怖いんですけど。

 次僕じゃん。皇帝陛下に勝てるビジョンが見えないんですけど。

 重力魔法とかはまともに対処したことがないから、どうすればいいか分からないぞ!?


「エペレス、次はお前じゃ」

「そうですね。では、ミスター星野」

「は、はい……」


 完全に萎縮してしまう自分にそんな死刑宣告が下されると共に、カーゼルが再び席に戻った。


「エペレス陛下。こちらポーションで御座います」

「あら、気が利くわね。でもそれは貴方の仕事ではなくてよ」

「今この場にメイドやバトラーはおりません故」

「まあそういうことにしておいてあげるわ」


 メタモーフがどす黒い色の液体を渡すと、エペレス陛下がそれを飲み干し身体を震わせる。

 なんて余計な事を……


「さあミスター星野……そなたが我が娘の代理(プロキシ)足るのか……そして、そなたにかの旧き者の力があるか……見極めさせてもらう」



 足踏みをし、エペレスがビットを展開する。


 やるしかない。

 そう覚悟を決めて、僕はゆっくりと深呼吸をして銃を構えた。


 そして双帝とトンプスが目を鋭くさせると共に、僕は駆け出した。

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