190. 双帝
転移した先はやたらと豪華な部屋だった。
ここは一体どこなんだろう。恐らくはどこかの客間と言った所だろうか。
「……こんな易々と1次試験突破してしまって良かったのかなあ」
完全に漁夫の利というか、棚からぼたもちと言うか。
そんなことを考えていると、僕に対して声が掛けられた。
「運も実力の内って事だ。ん? お前、見た顔だな」
鈴の音が鳴る扉を開けて入ってきたメタリック星人を見て、僕は現実へと戻される。
「レッドさん!」
「ああ、こないだのか。通りでこな殿下と同じ魔力の波動を感じた訳だ」
メタリック城の軍人、レッドさんだ。
前にこなに宇宙に蹴り飛ばされた時に一度お世話になった事がある。
……つまりここって。
「ここ、メタリック城ですか?」
「当たり前だろ、陛下のお戯れになる場所なのだからメタリック城に以外に一次予選通過者用の控え室なんて用意するはずがない。さあ着いてこい」
言われるがままに僕はレッドさんについて行くと、そのまま違う控え室へと通された。
そこにはαハブルーム星人と地球人がそれぞれ椅子に座って時間を潰していた。
「お、後一人だな」
「みたいですね。って言うか、また地球人ですか。今回多いですね」
αハブルーム星人の方はもうなんというか人間サイズの梟としか形容しようがないが、地球人の方は金髪の男性だ。
手に抱えているのは銃口が2つ付いた拳銃。
ヨーロッパ系だろうか。
「ん、よく見たら黒髪か。アジア人か?」
「……えーっと、日本人、です」
地球人の方にそう答えると、突然その地球人が飛び上がり僕は思わず一歩後退した。
「日本人だと?」
「あ、はい」
「マジか!マジかマジかマジか!」
突然ずいっと此方にその男が歩み寄ると、僕は手を掴まれて乱雑に振られる。
「俺はアーティ・メモリアだ。ラルリビ星生まれで見ての通り東欧系だが中身はジャパニーズ!宜しく!」
「あっ、えっと、よ、宜しくお願い、します……」
「いやーこの反応いいね!マトモな、正常な神経をした日本人って感じだ!ギルド副総帥とは訳が違うね!」
「あ、はい」
「いいねーいいねー!言葉を発する瞬間にアッアッとか毎回言ってしまう所とか実に日本人的!俺こういうのを求めてたんだよ〜」
思わず視線で助けをもう片方のαハブルーム星人に求めるが、その人もまた困ったように視線を逸らしやがる。
僕を助けてくれる人は居ないのかと絶望していた所で、もう1人の予選通過者がレッドさんによって部屋に通された。
「……ここはメタリック城か」
「お前が最後の一次試験通過者みたいだな」
口振りから言って、彼がメタリック城に来たのもこれが最初じゃないみたいだ。
現れたのは体毛がドギツい緑色をしたヤーテブ星人。
「じゃ、みんな揃った様だし、ついて来い」
そう言うと鈴のような音を出す扉を開くレッドさん。
それにしてもメタリック城の扉って何故かみんなこんな音を出すんだなと思っていると、両開きの自動ドアが目の前に現れて僕達はそこへと案内された。
エレベーターだ。
「これから玉座の間へと向かう、双帝陛下らがお待ちだ。そこで二次試験を行う」
「二次試験の内容は?」
チン、とエレベーターが目的地に到着する音が鳴る。
「着いたぞ」
ゆっくりとエレベーターが開くと、そこには一際大きな広間があった。
前にメタリック城に来た時も巨大な広間はあったけど、ここはその比じゃない。
透明なシャンデリア。
黄金色の天井、壁、そして床。
敷かれた紅い絨毯は何故かキラキラと輝いている。
「謁見の間だ」
広間の遙か彼方に段差が有る。そしてその先には玉座が在った。それも2つ。
「お連れしました」
玉座の前まで歩くと、その場で跪くレッドに声がかかる。
「御苦労。下がりなさい」
「はっ!」
その一言でレッドが跪いたまま燃え上がり、転移して行く。
僕がさらに視線を上げると、そこには先程の女帝が佇んでいた。 僕と女帝の視線が合うと、彼女は何か気づいたかのように目を細める。
そしてその直後に、男性の声が玉座の間の更に置くから聞こえた。
「あー先ずは一次試験通過おめでとう」
「タービュラ・トンプス……!」
朱色の体毛を持つヤーテブ星人。周囲がそれを見間違うはずが無かった。
「ほ、本物だ……」
「第二次試験の前に、そこの皇帝陛下の無理難題を乗り越えたみんなの名前を教えてほしい」
簡潔な申し出に真っ先に飛びついたのはあのハブルーム星人の人だった。
「ぶ、ブーレ・レディアンです、会えて嬉しいです!」
梟のようなαハブルーム星人のブーレは緊張のあまり噛んでしまっている。
「そうか、ブーレ。俺も君に会えてとても嬉しいよ。そして君は……?」
「……フェイド・アルタール・ダイだ」
フェイドは緑の体毛を持つヤーテブ星人の名前だった。
「宜しく、フェイド。君とは仲良くなれそうだ。で……おおっと、君はどこかで見たことあるな?」
「マジですか。アーティ・メモリアだ」
「ははあ思い出したぞ。君は確か、ギルドで職員以外で初めて全ランクAに到達した、あの『暗黒卿』のアーティだな?」
「……その呼び方は嫌いです」
なんつー異名だとか内心思っていると本人も嫌なのか露骨に顔を顰める。
……暗黒卿て。スペースオペラか。どんな事したらそんな変なあだ名が付くのだろう。
「で、最後に君は?」
「星野彗です」
「へえ。君がねえ」
「……えっと、ご存知、なのですか?」
特に有名になって誰かに知られるような活躍は……してるのか?
魔法使いに進化してからそういえばロクでもない事件に巻き込まれまくって実はそうなっていてもおかしくないと言う事実に今ふと気付きながらも、務めて冷静にお伺いしてみると、トンプスの横の皇帝が口を開く。
「あなたの魔力は我が娘と同じ。あなたは『歩く代理戦争』だろう?」
「えっと、こなからまーーこな殿下から魔力を受け取って、魔法使いに進化しました」
「ほほう……それはそれは。楽しみじゃな」
「ですね、陛下」
ニヤリと、トンプスと皇帝が笑う。その様子でなんだか居心地の悪さを感じ始めた所で、トンプスはパン!と手を叩いて見せた。
「さあ、二次試験だ。二次試験の内容について説明しよう」
彼の言葉に玉座の奥からもう一人、メタリック星人が現れて此方へと歩み寄りはじめる。
その裏に別のメタリック星人が一歩下がって音もなく近付いてきた。
「ああ陛下。ご公務は終わったのですか」
「うむ。して、奴らが予選通過者か?」
「ええそうよ」
「そうか」
立派な髭を蓄えたその人は、皇帝の傍に並ぶとそのまま沈黙した。
「二次試験の内容は至って単純だ。どうもこの星の双帝陛下は大層な運動不足に苛まれているらしくてね。そこで、だ……」
「メタリック星双帝たるワシらと手合わせ願おう」
「ーーお手合わせ願えます?」
その突然の申し出に、場にいる4人が全員ギョッとした。
「……ま、待ってください。カーゼル陛下と、エペレス陛下を、殴れと言うのですか?」
「殴らなくても、撃っても斬っても呪っても良いらしいよ」
「そんな畏れ多い事を……」
「なに、我らはかつての大戦争を生き抜いておる。今更頭に風穴が開こうがその程度では死なぬ」
サラッと恐ろしい事を言うエペレス陛下に、思わず口をあんぐりと開いたのはαハブルーム星人のブーレだった。
「そもそもワシらは『メタリック三姫』の親でもあるからのう。生半可な雑魚では返り討ちにできる自信はあるぞい」
「そうそう。そもそも守護者たるトンプスのボディガードになるのであれば、我ら程度は退ける位の実力はないとその様な仕事は任せられないわ」
守護者。
つまり、伊集院くんと同格。
「まあ、そういう事だ。双帝陛下の言うことはごもっともだから、僕も同意した。よって、二次試験はその2人の内どちらかを相手にして戦って欲しい。単純かつ合理的だ」
そう言うと3人がニッコリと笑みを浮かべる。
マヨカ、こな、レメディ。メタリック三姫の親たる皇帝が二人。
面白そうな依頼だと思っていたら何だかとんでもない事になってしまった。




