185. 蘇生作業
「なるほど……スナームがゾンビを召喚……」
総帥室にて。
こながそう言うと、彼女の傍にある半透明なスクリーンに僕たちの言葉がそのまま活字となって投影された。
議事録だ。
「あの詠唱の仕方は、リーグの時と同じような詠唱の仕方だった。ゾンビは1匹毎にはそんなに強くなかったけど、数がね」
ちなみにエリアさんは頭にこなのハルバードを食らってその辺で気絶している。
ハルバードが彼女の脳天に直撃と言っても叩き斬られた訳ではなく、側面がズドンと落ちていたので死んではいない。
いやシールドあるから仮に叩き斬られたとしても死なないらしいけれども。
「殴っても殴っても数が減らなかったから、彼処で水で全部物理的に押し流したのはナイスだったと俺は思う」
「そうね。それにしてもまさかスナームがそんな隠し球を持っていたとは思いもしなかったわ」
そう言うとこなは総帥室デスクに備え付けられていた端末に何かを打ち込むと、一瞬の間を置いて別のスクリーンにゾンビが映し出された。
「あ、これ!」
「ああ、やっぱりね。これはミズラエルと言う名前の天使ね。天使というか権能と言うかなんというか。術者の魔力が続く限り無限増援を続ける嫌な奴よ。最後に見掛けられたのが300年ほど前らしいけれども」
「ああ、なんかそんな詠唱だった気がする」
こなが思案顔を浮かべながらゾンビを見つめていると、不意に彼女の傍にまたスクリーンが現れる。
『此方伊集院、オアシスに着いた』
「早かったわね」
『逃げられたら困るからな』
「スナーム回収出来そう?」
『身体変化使いの扱いは俺がいちばん理解しているつもりだ。この様子ならまだ何とかスナームの身体を作る砂のパーツは見つかりそうだ』
どうやら僕と入れ替わりにあのオアシスに到着したのは伊集院くんらしい。
「身体変化って、どんな魔法なんだ?」
巧がふと気になったのかこなにそう問いかける。
「身体変化? 多分スナームは魔法と言うよりもスキルによるものでしょ。陰キャマンの方は魔法らしいけど」
「あの砂になる奴、スキルなんだ」
「身体変化魔法は凄く難しいし燃費も良くないわ。ましてやそれがひと塊の岩とか金属とかならまだしも、身体を無数の砂粒に変えて自在に動かせるなんて、どれだけの術式を必要とするのか想像したくない」
あのこなをもってしても燃費が悪いと言うだなんて、余程魔力を使うのだろう。
彼女は顔を顰めながらスクリーンを見つめると、スクリーン越しに伊集院くんの視界が共有されており、彼は何やら魔法陣を砂漠のど真ん中に展開し始めていた。
「でもでもー、伊集院くんは魔法で身体を変えてる事が出来るんでしょ?」
「アイツはほら、闇魔法限定で魔力量無限大だから」
「あーね」
「普通なら出来ないこともアイツはやってしまうのよ。世界一の魔力量を持っている私が言うのもなんだけど、あのスキルは控えめに言ってクソ」
『あー、そこの歩く原子炉はうるさいから黙るか死ぬか通信切るかしてくれないか? こっちは砂漠の中から砂粒集めるとかいう拷問染みた事していてそれなりにしんどいんだが?』
少々不機嫌そうな声がモニター越しに聞こえると、こながあからさまに向こうに聞こえるようにやったとしか思えないぐらい大きな舌打ちをかましながら音声を双方向にミュートするボタンを押した。
ミュートする直前になんて下品な……と伊集院くんがため息をつく声が聞こえると、こなは顔を顰めた。
「ここは宮殿じゃないんだし他に誰もいないんだから舌打ちしようが何しようが別にいいじゃないのほんっとうるさいわね……」
最近うちの教育係見たいにウダウダ煩いのよ、と彼女がやれやれと言った様子で言うと、モニターに伊集院くんが闇の魔術で砂を一点に寄せ集めていく様が映し出されている。
魔法陣が展開されると、砂の塊が遠方から持ち上がり魔法陣の上へと運ばれるとそれが魔法陣の上へと落ちる。
魔法陣自体は空中に浮いており、砂が魔法陣を通り抜けて下に落ちるとそのまま魔法陣の下に山のように砂が堆積していく。
「ああそうだ、依頼の報酬なんだけど、一応今回は成功扱いで報酬は振り込んでおくから安心していいわよ」
ふと、思い出したかのようにこなが頬杖を付きながら発言する。
「えっ!? でも今回ウェルドラには逃げられーー」
「あーアレね、まあ今回は不可抗力みたいな所あるみたいだし、それに実を言うとウェルドラに逃げられるのはある程度は想定していたみたいな所もあってね」
ベストではないけどベターな結果で終わったからそれでいいと彼女は言うと、伊集院くんが展開していた魔法陣にはいつの間にか透過せずにいる砂がひと塊ほど出来ていた。
彼は何か口を開けているみたいで、しばらくするとこなのスカウターから電子音が鳴った。
「もしもし? あ、そっちの音声も切ってたわ、ちょっと待って」
こなはそう言うとモニターのミュートを切ってみせる。
『こっちの音声まで切る馬鹿があるか』
「うるさいわねー、アンタ最近ダルいのよ」
『お前なあ……』
露骨にため息をつく伊集院くんにコッソリと同情していると、彼はこう続けた。
『とりあえずはある程度身体のパーツであったと思わしき砂粒は集まったから状態変化解除してみるわ』
「早いわね」
『上手く行けばこれでスナームの身体が蘇るが、全部は集めていないだろうしこれ肉に戻した瞬間多分くっそグロい事になるから強い回復魔法を使える人を寄越して欲しいんだが』
「あのね、肉って言い方辞めてくれない? あんまり想像したくないんだけど。というか、貴方たちの中で回復魔法使える人いる?」
話を振られると、おずおずと峰さんが手を挙げる。
「アンタのスクールメイトが回復出来るってよ〜」
「でも私グロいのはちょっと……」
『鳩峰さんの事? 無理無理、これ冗談抜きに相当グロいし多分吐くぞ。困った時のレメディ先生とか困った時のグレイス先生とかはスケジュール空いてないのか』
「ですよねー……」
「仕方ないわねー」
ホッとした様子で手を下げた峰さんを内心で労わっていると、こながスカウターを弄り始める。
「もしもし? もしもーし? 繋がんないわね。私前から思ってるんだけど院長がデスクで執務してないでオペ室にいるの色々と頭おかしいと思うのよね……」
こなは何か今日はやけにため息をついている。
「もしもし? グレッピー?」
『はい、なんでしょうか』
次の電話相手はどうもグレイスだったみたいで、彼女の顔がスクリーンに展開される。
「悪いんだけど今から地球の……えーっとなんだっけあそこ」
「サハラ砂漠」
「そうそうサハラ砂漠! えっとそこの支部にほど近いオアシスにちょっとひとっ走りしてくれない?」
『……何かありましたか?』
「DEATHのスナームが身体変化・砂使った状態でなんか意識を保てなくなるレベルでバラバラにされたみたいで、一応復元の目処は立ったんだけど元に戻すと多分凄惨な光景になるから、回復術師としてスタンバイしていて欲しいのよ」
『一体どんな状態ですかそれ……』
僕が相槌を打ったところでこなが交渉を開始する。
それに対してグレイスがドン引きしつつも分かりましたと短く言うと、こなは謝意を示した上で電話を切断する。
そこでこなはまたまた大きくため息を吐いた。
「一体どんな状態ですかそれって、私が聞きたいんだけど……」
これだから身体変化なんてリスキーな魔法は嫌いなのよとこながまたブツブツと言うと、グレイスが僕たちの目の前に瞬間転移で出現して見せた。
「ああ、またあなたが何かやらかしたんですね……」
「待って、またって僕凄く心外なんだけど」
グレイスはやれやれと言った様子で僕を見るなりため息を付く。まるで僕が能動的に厄介事に首を突っ込んでるみたいな言い方だ。
「オアシスは空間封鎖で中にワープは出来ないけど、そこで死んでるエリアがスキルで閉鎖無視できるから起こして連れてって貰って」
「また都合のいい時にこんな所で気絶してますね。この変な乗り物は?」
「その女がそれに乗ってワープしてきてこの部屋に排気ガス撒き散らしたから私がハルバードの側面でぶん殴った」
「こなさんもなかなかバーバリックですね……いや乗り物ごとここに来るのもかなり頭がおかしいですけどね……」
どこから突っ込んだら良いのか分からないと言った様子で引きつった笑みを浮かべ、グレイスさんは詠唱破棄をしてエリアさんに回復魔法と気付魔法を掛けて見せた。
「うー……」
「目が覚めましたか?」
エリアさんが目を覚まして起き上がると、グレイスが手……ではなくその耳を差し出す。
彼女はそれを握り立ち上がると、白衣についた汚れを手で払い落とし、こなに対してジト目を向けた。
「That was so rude」
「失礼なのはこの部屋をいきなり排気ガスと砂で汚しまくるそっちでしょ。さっさとグレイス連れて砂漠に戻って」
「Sh●t…」
エリアさんが頭を抱えながらもグレイスの手代わりの耳を取って共に転移する。
そして伊集院くんの居る場所にスクリーン越しに現れるのを見ると、スナームの蘇生作業が開始されたのであった。
なお、砂から人の形に戻ったそれの姿は大きなトラウマとして僕たちの心に刻まれたのは言うまでもない。




