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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第13章〜Remnants Raid〜
182/269

181. 漆黒の砂漠

「【重力累乗帯(グラグランド)】、【鈍化の弾丸(ハルグラビタ)】!」


 エリアさんの聴き慣れない呪文で、辺り一帯の重力が強まりそこへ重力の球が更に投げ込まれていく。


「ぐおっ!……【雷槍(エレスピア)】!」


 分散した追っ手たちの一部がエリアさんの展開した重力の力場に耐えきれず動けなくなり、ジープとの距離が開いていく。

 そんな中でも追っ手たちは、最後っ屁と言わんばかりに重力の影響を受けにくい電気や光の魔法で僕たちに対して追撃を試みるが、エリアさんの見事なハンドル捌きと空間魔術がそれを悉く躱し、僕達は再び誰もいない闇の中を疾走し始めた。


「な、何とか撒けたね……」

「でも敵はいずれウェルドラを捉えているOasis(オアシス)に辿り着くわ」

「……それまでに体勢を整えられれば良いんだけど」


 これは、時間稼ぎでしかない。

 そういう彼女の目は真剣だった。


「私、気が抜けたら吐き気がして来た」

「車酔い? まああれだけの事があれば仕方ないわね」


 テンションも元に戻りつつあるエリアさんを見てホッと胸を撫で下ろすと、やがて目の前にオアシスが現れる。


 満天の星空と、申し訳程度の星灯に照らされ不気味に黒々と煌めくウェルドラの檻、そして巧がそこで待ち構えていた。


「うおっ、何だこれ!?」


 武装し額に切り傷を残した巧が思わず叫ぶのが車の壁越しに聞こえる。

 エリアさんが漸く車を停めてみせると共に僕と峰さんは飛び出し、巧との再会を喜ぶ事にした。



「巧!」

「彗、なんだこの巨大な車」

「巧めっちゃダメージ受けてるじゃん!今私が癒すからーー【回復(サムケア)】!」


 峰さんが杖を巧に向けると、淡い光が杖の先から広がり、巧の額の傷が癒えて行く。


「おお、すげえ!回復魔法じゃねーか!」

「頑張って覚えたんだ」

「すげーじゃん!流石は峰さん」


 えへへ〜と照れながらも笑う峰さんを後目に、僕は辺りを見回した。


「巧、敵の状況は?」

「ああ、何人か怪しい奴らが来たがそいつらは何とか倒せた。倒せたっつーか、あの檻よっぽどキツい呪いが掛かってるのか、アレに敵が触れると皆その場でシールドが砕けるから後半はむしろアイツ(ウェルドラ)に向かって敵を投げてたっつーか……」


Well(まあ),雑兵はあくまでも様子見でしょうね。そろそろBoss(ボス)が現れるんじゃない?」

「うおっ、俺エリアさんの言葉が理解出来てるっ!?」

「あのね、どうもこの人普通に日本語は喋れるみたいなの」


 峰さんに対して何だよソレ!と巧が驚く。

 そして彼女がエリアさんについて説明しようと口を開いた時、異変が起きた。



 ――ジュッ!



「っ!?」


 檻に何かが当たり、それが呪いで焼かれる音。



「だったら何で最初から日本語でーー」

「しっ!……何かがおかしい」




 口元に指を当て、もう片方の手で皆を制止する。


 また音が聞こえる。

 はじめはポツリポツリとだったのが、その音が聞こえてくる感覚がだんだんと短くなっていく。


 目を凝らして檻を見ると、檻の側面から湯気のような物が一瞬立ち上がっていた。

 まるで雨粒が一滴、横から降って熱せられたフライパンの上か何かに落ちてきたような、そんな湯気だ。


 そして気付く。

 それが雨粒ではなく、()粒である事に。


 そこでハッと、意識が答えに辿り着く。


 そもそもウェルドラをわざわざ砂漠に放り出したのは、砂使い(・・・)を誘き出すためであった。


 という事は、この砂の粒はーー



「ーー【砂龍天(アセルサ)】!」



 声高に詠唱が放たれると、地面から砂でできた巨大な龍が地面からブチ上がり、ウェルドラの捉えられている檻を攻撃した。

 そして天に舞った砂の龍は、その推進ベクトルを180°反転させ、再び檻を噛み砕きながら地面に叩きつけ砂を撒き散らす。



「うわっ!?」


 舞い上がり視界を覆う砂が、みるみる内に一点に集まって行き視界が晴れる。

 すると砂が一瞬にして人の姿を象り、その材質を砂から肉へと変化させて見せた。



「……凄まじい呪いだな。身体変化スキルが無ければ壊せなかったぞ」

「遅いぞ、スナーム……!」



 目の前に立ち塞がるのはβハブルーム星人(犬型宇宙人)だ。

 そしてその後ろには、漸く逆さ吊りから解放され地面に四肢を付けるウェルドラの姿があった。


「アレがスナームか」

Oh(あら), D.E.A.T.H.'s() executive(幹部)?」

「そうみたいだね」


 ようやく何とか立ち上がるヴェルドラの表情は暗い。

 それもそのはず。


「有難いと言いたい所だが……スナーム、これは罠だ。貴様はここに来るべきでは無かった」

「何?」


 スナームと呼ばれた男が、ウェルドラの忠告に目を細める。


「奴らは最初から貴様を誘き寄せるために私をこの様な砂漠のど真ん中で監禁していたのだ」

「どういう事だそれは。アトモスからの報告には無かったぞ」


 警戒する様にスナームが喋ると共に、彼の手元に武器が出現する。


 ……杖だ。それもまるで何処ぞのファラオか何かが持っていそうな、長く先がグルリと曲がった杖。


「やはり貴様はアトモスからの連絡で来たのか」

「時間は掛かったが……アトモスの機転を効かした妙案の御陰で漸く此処に辿り着けた。ほれ、お前のドライブと予備の杖だ」


 そう言うとスナームは彼女にドライブと杖を後ろ向きに投げ渡す。

 展開が良くない。僕達はまた幹部2人を相手にしなければならないのか。


 しかも今度は、伊集院くんが居ない。



「そうか、そこまで……アトモスにはお礼を言わなければと言いたい所だが……ダウンロード!」



 武器でもある杖を地面に突き、歩むウェルドラがドライブを展開しシールドを復活させる。

 それと同時に彼女の放つ魔力が見違える様に回復して見せた。


「巧、峰さん……」

「おう」

「うん」


 僕たち3人は互いに目を合わせて頷く。

 そしてエリアさんも。


 一方で、頭に二本の角の様な冠を被ったスナームと、虚弱な状態でありながらも目に力が戻ってきたウェルドラも、互いに目を見合せ、頷いた。



「これは撤退戦だぞ……行けるか?」

「勿論だ。俺はデザイナー・スナーム。世界を、万人を、闇に沈め黒で彩るプロデューサーたるブラッディア様の部下であり、砂の化身。砂漠は俺のホームグラウンド。砂漠に誘き出そうとは舐められた物だ。その行為を後悔しながら死ぬがいい」


 彼はそう宣名をすると、ゆっくりと空中に浮かび上がり、杖が彼の手を離れその周囲を漂い始めた。



「行くぞ」



 その言葉を機に、砂が舞い始める。

 そしてウェルドラの付与魔術の乗せられた砂嵐が、吹き始めた。

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