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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第13章〜Remnants Raid〜
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177. 救出のはずが

 ソラの捕らえられているアジトは、パッと見ではただの民家だった。

 郊外にある長閑(のどか)な住宅街の、何の変哲もない民家。

 そんな所で、かつては盗賊の根城があったとされてはいるものの、僕はイマイチその事実を信用しきれずにいた。


 こんな民家に、本当にアジトがあるのか?


 俺は民家を囲う塀の裏に一人で隠れて、民家の様子を伺った。


 レンガ造りの家っぽい雰囲気を出している、本当にごく普通の民家だ。

 塀があり、庭があり、玄関があり、インターホンがある。これだけを見たらまるで地球の一軒家だ。


「ふむ。よもや御主と共にここの制圧をする事になるとは、な」

「ほんとほんと、昨日の敵は今日の味方とは言うけどさ〜」


「……それは僕も同じことを考えていたよ」



 声を掛けてきたのは、セルヴォLとRだ。

 かつてルナティック幹部として、アクアン星の刑務所で刃を交えた、竜の羽。


 今回の追加依頼は、この三人(二人?)だけで行われる隠密任務であった。

 ツーヘッドドラゴンが果たして一人と呼ぶべきか二人と呼ぶべきか、はたまた『人』ではなく『匹』で呼ぶべきかはさておき、少なくとも伊集院くんは彼らを別人格として尊重しているらしい。


「この民家は空間魔法で内部を拡張されているとの事だ」


 そう言うのは自称左側の羽。


「人質が居なければこんな家焼き払って終わりなんだけどね〜」


 これは自称右側の羽の言い分だ。


 最近知った……と言うか、最近見分け方を教えてくれたのはなんと巧であった。


 曰く、『理知的で古臭い話し方をするのは左の、なんか緩くて適当な話し方なのは右の』であるとの事。


 その根拠を聞いた時の答えは『左が左脳、右が右脳っぽいだろ』と言う何とも巧らしからぬ理知的な回答で、目を丸くしたのはこないだの話だ。

 ちなみにその時はオアシスにデュセルヴォが来ていた。


「どう行く?」

「僕達は隠密能力とか無いんだよね〜」

「力を失った今がむしろ隠密状態とも言えよう」

「確かに〜!元々僕達がマトモな身体を持ってた時は守護者共にも引けを取らなかったからね〜」

「それを今ではこなの代理(プロキシ)たる貴様にすら勝てぬと言うのだから、業が深い物よな……」



 勝手に盛り上がって、勝手に落ち込む。

 なんだコイツら。僕の質問は完全にスルーですか。


「貴様とて、大戦争で全てを業火で焼き払った伝説のツーヘッドドラゴンの話くらいは耳にしておろう」

「いや別に」


「んなっ!?」

「馬鹿なっ!?」



 そんな事言われても、知らない物は知らないのだ。

 ヒュドラとかはなんか魔法の世界には居そうだなーとか思っていたが、双頭竜は有りそうでなかった(・・・・・・・・・)なと言う感想くらいしかない。


 と言うかこいつらに至っては双頭ではなく双()だし。頭じゃないし。しかも双羽って、それ普通だし。そこまで感慨が湧かないのが現実だった。


「それより、あそこどう攻略するの?」


「おお……何と言う事だ……」

「歴史は……戦争の記憶は風化させては行けない……僕達で語り継いで行かないと……」


「……」


 ダメだこいつら。

 敵では厄介だったのに、味方に回った途端コレだ。


 色々と諦めてどう見ても民家なそれの前に立ち、インターホンを鳴らす。

 インターホンのボタンを押して暫くすると、半透明なモニターが出現しαラルリビ星人の顔が現れた。


「すみません、お届け物です!」


 適当な事を言って、強行突破だ。

 しばらくすると、扉が開き中からその人が現れた。

 そこに僕は剣の柄で喉元を殴り、怯んだ隙に背後に周りもう一撃。

 気道を塞いで声を出せなくした上で気絶させることに成功すると、後ろから羽たちがフラフラと現れた。


「御主……思っていたよりも大胆だな」

「君たちがまるで役に立たないからだよ」



 そして僕は玄関に足を踏み入れる。


 なるほど、この民家は見た目よりもかなり広い。

 見た目は普通の家だったが、中身はどう考えても外壁の広さと内壁の広さがマッチしていない。空間魔法だかで内部が拡張されているようだった。


「こんなアジトがこんな場所にあるとはな……」



 左側の羽が警戒したように言う。

 二枚の羽はクルクルと僕の周りを周回する様に警戒行動を取っていて、僕も彼らに合わせるようにゆっくりと足を進める。


 ところが、広大な玄関を抜けたところで予期せぬ出来事が起きた。



 ーーバタン!


「手を挙げーーおっ?」

「えっ?」


「彗……?」



 どこかへと続く扉が勢いよく開かれると、そこから見知った顔が、満身創痍の状態で飛び出てきたのだ。


「ソラ……!?」


 一瞬、僕達はまるで時が凍ったかのように見つめ合った。

 長くも短い、一瞬。


「ど、どうしてここに!?」

「そっちこそ!僕達はソラを助けにここに来たんだ!」

「た、助け……!?」


 ソラの手には見慣れない武器が携えられていた。

 真っ黒に塗りつぶされた、小さめの(シックル)だ。


 そして、その手は痣だらけで、よく見ると指が何本か有り得ない方向に曲がっている。

 手首にも縛られていたと思われる痕が残っていて、彼女はボロ雑巾の様な茶色い服を着させられていた。

 無論色んな所が裂けていて、その下の肌もズタボロに裂けて血が流れた痕が伺えた。


「嘘……本当に!?」


 しかし彼女は全くそんなことを気にしていない様子だった。

 まるで、痛みなんて感じていないような、そんな姿だ。



「そう!早くここから逃げーー」

「ーー急いで!この建物爆弾が仕掛けられていてもうすぐ爆発するの!!」


「えっ!?」



 すると、何かを察知した羽の片割れが天井に向かって飛んでいくと、天井にある玄関ホールの灯りを見つめて苦々しく呟いた。


「……あ〜、これヤバいね〜。入口まで間に合うかな?」

「【疾風脚(ヴェロガンバー)】、【反復(レペティス)】!」



 脚元から風が吹き上がり、身体が軽くなる。

 高速移動の補助魔法をセルヴォLに掛けられると、Rが叫ぶ。



「走れ!!」



 ソラの手を掴み、今来た道を全速力で駆け抜け、玄関へと向かう。

 風の力に後押しされ、彼女を引っ張る様にして玄関の外に出る。


 ソラには悪いけれど、彼女をそのまま放り投げる様に前に突き出し、僕はその場でクルリと反転し呪文を唱えた。



「【斥力場(エパナフォラー)】!!」


 デュセルヴォが窓を突き破って外に脱出し、自分を中心に斥力の力場を展開した瞬間。



 鼓膜が破れる。

 世界から音が喪われる。


 次に目の前の建物が一瞬で解け落ちるように消えてなくなり、代わりに巨大な火柱が立ち上がる。


 衝撃波が続けざまに放たれ、それが近隣の家を薙ぎ倒し、色々なものを吹き飛ばした。

 その瓦礫は僕と、僕の背後にいるソラを避けるように弾丸のような速さで弾け飛び、辺りを更に破壊していく。

 もちろん吹っ飛ぶのは自分も例外ではなく、腹から持ち上げられるように自分の身体が吹っ飛ぶのを自覚すると、そのまま僕は頭から地面に叩きつけられ、視界が暗く沈んでいくのであった。


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