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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
別視点〜Reliable Radars〜
172/269

171. 大気の考察

「……」


 ーーカチッ、カチッ。


「……」



 今回の一件は、妙な事が多すぎる。



「伊集院、居る?」

「分体ならいるぞ」

「じゃあ実質居るね」


 時計の音しか無かったこの部屋で、人の声と扉をノックする音が聞こえた。

 振り返ると、そこに居たのは諜報本部の本部長ことピーカブーであった。


「はい、資料」

「ああ、すまん」


 手渡しで渡された紙は今回の事件に関する調書であった。

 地球日本国の都心にある特大アクアレジャー施設マリシムシティで起きた無差別テロ事件の全容だ。


 無論、今回の事件は自分も当事者の一人と言うことで、宇宙警察からそれはそれは丁重にな事情聴取が行われた。


 資料に目を通すと、アレだけの戦闘があったのに最終的な死者数は敵戦闘員を除いたらゼロと言う結果で落ち着いた。

 魔力を浴びて進化に耐えられずに死ぬ地球人が何人出てくるかと不安であったが、そこはレメディの所が踏ん張ってくれたみたいだ。

 臨時賞与を弾まなくては。


「それにしても、テンペスとウェルドラが2人がかりで君が休暇で寄ってたレジャー施設を強襲して来るとは、なんと言うか運がいいのか悪いのか……」

「流石に水着姿で戦闘をしたのは生まれて初めてだったな」


 ピーカブーがふふ、と小さく笑うと彼は最寄りの椅子に腰かけてこちらを見据える。


「これ、データを俺のスカウターに送っておいてくれないか」

「え、今?」

「そろそろ本体(・・)がこなと事情聴取を始めるはずだからな」


 紙をめくりながらそう言うと、ピーカブーはああそうかと小さく言い、自分のスカウターを弄り始める。


「それにしても君のその魔法は本当に興味深いよね。地球独自の体系の魔術だろう?」

「ああ、これは式神の技術を応用しているからな。応用と言うか、魔改造した魔法と言うのが正確だが」

「そのシキガミは元は精霊を使役する魔法だっけ?」

「そうそう」


 資料には現在確認されている敵幹部の顔写真がズラリと並んでいる。

 他にも彼らの身体的特徴、保有ドライブ、得意魔法などなど。

 その中で、1人のデザイナーに目が止まる。


「ところで、君は……現場にアトモスが居たという見立てに、どこまでの自信がある?」


 デザイナー・アトモス。

 その名の通り、全てが謎に包まれた、DEATH(デス)を覆い隠す大気(アトモスフィア)


 名前は偽名、ドライブは不明、どこの出身でどの様な経緯でDEATHに加入したかも不明。


 分かっているのは、地球人または地球人ベースのキメラ人であり、DEATHの首領やレメディと同じく、血操術の使い手であり武器が呪われた両剣であると言うことだけ。


 しかしどんな地球人であるかは、仮面と、全身を覆うクロークでその姿を徹底的に隠蔽しているため誰にも分からない。


 繊維でできた手袋やアンダーアーマーで徹底的に素肌の露出を避けているため、変な話白人か黒人かはおろか、男か女かも不明である。

 更に仮面には音声加工能力があるらしく、声による判別も不可。

 当然透視魔法対策も過剰なまでに完璧であり、クロークとかも装備者の能力を高める効果ではなく破けたりしないようにクローク自体の耐久性に全振りしている徹底振り。


 自分へのダメージよりも正体を隠す事に全てを費やした存在、それがアトモスと呼ばれる幹部であった。


 ぶっちゃけ、地球人かどうかというのも、身長や四肢の長さなどと言った身体的特徴から推察されているだけだ。

 だからまだキメラ人の可能性がまだ捨てきれていない。


「自信はポジティブ(かなり)だ」

「そうか……でも、だとしたら、どこに?」



 自分の読みが正しければ、あそこにはデザイナーが三人いた。


 テンペス、ウェルドラ、そしてアトモス。


 だがそのアトモスが居たという確証は無い。

 まさしく大気(アトモスフィア)と呼ぶのに相応しい隠密能力でその痕跡を残さないためだ。



「……これ言ってもいいのかなあ」

「え、何それ」



 ピーカブーが笑いながらも怪訝そうにそう言う。



「これは何の確証もない、ただのカンなんだが。恐らくリーグが作ったSTARは、アトモスの手に渡っている」

「何?」


 今度こそ怪訝な顔をするピーカブー。

 そこで、自分の勘に対するそれなりの根拠を述べる事にした。


「まず大前提として、STARはルナティックとの最終決戦の場でリーグが使っていた。これは間違いない事だよな?」

「え、うん」

「そしてあの最終決戦の場には俺たちを除いたらルナティックのリーグとファントムしかいなかった。これはルナティックスターズから全部裏はとってあるよな」

「うん」


「所があの兵器はリーグを倒すと同時に忽然と姿を消して見せた。ここで考察なんだが、あんなものを俺たちいる中でルナティック隊員なんぞが持ち去ることなど出来るだろうか?」


 答えは否だ。

 ルナティック隊員にはもちろんこちらの諜報部の様な隠密部隊もいるだろう。

 だがそんな奴らが俺やザント、メタリック帝国三姉妹に蠍を皆出し抜いて持ち去る? そんな事は不可能だ。


 では、逆にこちらの、X-CATHEDRA(エクス・カテドラ)の隊員または幹部がやった? 同じぐらい有り得ない。


 こなが仮に世界征服でも企んでいたとして、世界最強の生物なのにそんなしょーもない破壊兵器を手にしないといけない理由がない。

 ザント? あいつは世界中のありとあらゆる所に自分の工作員を潜り込ませているしそんな物を必要としない。

 その他の連中? 仮にそんな事したらこなや俺に焼かれて(・・・・)終わりだ。

 これはこのギルドの共通認識であると俺は思っている。


 となると、可能性があるのは外部犯だ。

 だが、ルナティックは困ったことにX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)の一部でもあった組織で、良くも悪くもこちらの手札を知っている連中だ。

 リーグが敗れたあの場でそんなことができる奴なんて居ないだろう。


 では完全な部外者でそんなことが出来るやつがいるだろうか?

 ここまで考えて、ようやくDEATHが可能性の一端として上がってきたのだ。


 隠密のアトモスであれば、全員が満身創痍であの場にいた中で、我々の知らないところでいつの間にかSTARを強奪していてもおかしくない。

 メンバーが万全の状態なら気付いただろうが……



「でも、そんなこと、有り得るのか?」


 ここまで説明したところで、ピーカブーが思わずと言った様子で聞き返す。


「敵を侮る事はしない。そして可能性があるなら俺は疑うし、それに対する予防策を置く。何事もなければそれでいい。普通なら労力が無駄になるが俺の場合はこうして特殊な分体も使えるわけだし、本体(・・)側の労力が無駄になる訳でもないからな」


 そこまで言えばもういいだろうと判断し、席を立つ。


「じゃあピーカブー、早速で申し訳ないがうちの地球アフリカ支部のベンタンタに事情を話しておいてくれ」

「ああ、分かった」


 自分の身体に線が入る。


 身体が斜めにスライドして行くと共に、暗転する。


 自分の式神モドキが元の和紙に戻り、ピーカブーが式神モドキが地面に落ちていくのを見つめるのを会議室から検知すると、俺は目の前にいるこなたちと彗たちに改めて向き直った。


「さ、始めようか」

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