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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第12章〜Rich Racist〜
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167. 事情聴取

「今出た、次浴びなよ」

「うん……」



 巧が部屋に備え付けられたお風呂から出て来たようだ。

 入れ替わりに僕が浴室に入り、早々に水着を脱ぎ捨て蛇口を捻った。


 シャワーがとても気持ちいい。


「……」


 ソラは大丈夫だろうか。


「……」


 僕は結局、何も出来なかった。

 そんな考えがぐるぐると蜷局を巻いている。



「……」


 もっと、力が欲しい。

 仲間を、皆を守れるだけの力が。


 ソラを助けに行ける力が。







「早速で申し訳ないが、D.E.A.T.H.対策会議を開くから3人には日本(地球)時間の午後9時までにX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)本部、80階のB-3会議室に集まって欲しい」


 そう言われたのはシャワーから出て15分ぐらい経った時だ。

 まだ髪の毛も乾いていなかった頃だ。


「B-3会議室ってどこだ?」

「今僕たちは小会議室J-2の前だよ」


 スカウターでマップを確認しつつ、僕達は広大なフロアを歩き進む。


 やがて目の前にB-3会議室の扉が現れる。

 それを3回ノックして、僕は静かに扉を開けた。



「失礼し――えっ!?」


 扉を開けた瞬間、驚愕の光景が飛び込んできた。



「う、ウェルドラ!?」

「ちょっ……何だよこれ……」


 僕が思わず飛び上がった事の方にむしろ驚いていた様子の巧が、ウェルドラを見て引いたような声で言った。


 それもそのはずだ。


 ウェルドラは会議室の中央に置かれている長いテーブルの上で、上下逆さまになって宙に浮かび、眠るように浮かんでいたからだ。



「あら、来たのね」


 少し遅れて、昨日ぶりの、しかしとても久しぶりに感じる声が会議室の奥から聞こえた。


「お、来たか来たか。まあそこら辺に座ってくれ」


 伊集院くんが僕たちに着席を促し、適当な席に腰掛ける。

 向かい側には先程僕たちに声をかけてくれたこなが思いっきりふんぞり返って腕を組んでいた。


「あ、あの、これはーー」

「いいから黙って座ってなさい。此方も色々と聞きたいことは有るのよ」


 有無を言わせないラスボス臭漂う言い方に、思わず閉口する峰さん。

 ジリジリと嫌な静寂が漂うので、仕方なく僕は辺りを見回した。


 会議室の椅子は空席が目立っていて、僕たちの他にはこなと伊集院くんと、空中で逆さ釣りになりながらも微動だにしないウェルドラ。


 資料を展開すると思われるタブレット状の端末は他にも数台置かれているのを見るに、まだ人が来るらしい。



「はあ、遅いわね……」

「確かに遅いな。ザントは兎も角、あの馬鹿は何処で何してるんだ……」

「ほんとに来るの?」

「ああ。と言うより、こながアイツ呼んできてくんない? その間にこっちは軽く事情聴取するからさ」

「あァ? そっちが行きなさいよ。私が聴取するわ」

「あァ? とかお前……ほんと最近のセレブ共は口が汚いな……」


 チラリとウェルドラを見てため息をつくと、伊集院くんはそのまま黒い煙となって消えた。


 すると、こなもまたふう、と息を吐き、目を瞑り深呼吸をしたみせる。

 やがて彼女は目を開くと、僕たちに質問をなげかけた。


「さて。まず来てもらった理由なのだけれども、当然だけど原因は私たちの目の前でぶら下がってるおばちゃん(ウェルドラ)のせいって事は分かってるわよね?」

「ま、まあ……」

「知っているかどうかは知らないけど、その人は界隈ではそれなりに有名なマフィアの幹部で、中でもコイツは付与魔術師として違法なアクセサリー(麻薬的バフアイテム)をばら蒔いたりしていてそのマフィアの重要な資金源の一つなの」


「はあ」

「で、重要なのはここからなんだけど、貴方たちはオフの日(夏休み)を楽しんでいたら突然こいつらがあの海産物扱ってる地球の施設になだれ込んできたって言う認識は間違ってない?」


「ああ」

「うん」

「間違いない」


 僕たち三人で口を揃えて肯定すると、こなは自分の耳に手を当てながらう〜んと唸った。


「何故?」

「え?」

「いや、なんで星野彗と言う地球人は私たちが命令する訳でもないのにこうも裏社会に巻き込まれるのかなって……」

「う〜ん……?」


 それは僕が知りたい事項だ。


 依頼を受ければ罠でしたとか、依頼を受ければそんな依頼は出されてませんでしたとか、今回に至っては依頼すら受けていない。


「ちなみにテンペスとの面識はどこで?」

「あの風の奴は昨日、彗とハブルーム星に行った時に」

「つまり今回コイツ()を沼に引きずり込んだのはこっち()な訳ね……」


 とうとう頭を抱えるように肘を付いた所で、バシュッと転移する音が聞こえた。


「ああ、来たのね」


 音の方向に首を向けると、こながその辺適当に座って、と言う。

 その後にあれ、と小さく言うと、伊集院くんが戻ってきていないことに気付き、眉をひそめるような表情を浮かべた。



「なあ、彗……」


 耳打ちする様な声で、巧が話しかけて来る。


「脚めっちゃなげえな、あの人」


 巧の視線の先にいるのは、先程現れた地球人だった。女性だ。


 その女性は金髪で丸い眼鏡を掛けていて、胸元が大胆な黒のドレスの上に白衣を羽織っていた。

 座った拍子にメガネが少しズレたのか、彼女はメガネをクイッと掛け直すと椅子に深く座り込み、脚を組んでみせた。黒いストッキングに合う、黒のピンヒールだ。


 どうも外国人みたいだ。


「伊集院君まだかな」

「ね、どうして呼んだんだろう」


「……」


 その女の人も、近くの椅子に座り込んでじっとウェルドラを見つめている。


 一言も話してこないので僕達もじっとしていると、再び誰かが空間転移(ワープ)してくる音が聞こえた。


「……チッ、何故この女がここにいる」


 ザントさんだ。

 彼は彼女を見るなり顔を露骨に歪めると、彼女から最も離れた席までわざわざ歩き座ってみせる。

 それに対してその地球人女性はニッコリと笑ってザントさんに緩く手を振って見せた。

 その姿に、僕は少なからず衝撃を受ける。


 宇宙マフィアの首領(ドン)に対して微笑みながら手を振るこの人、一体何者だ。


「ちっ、入れ替わりだった様だな……」


 いつの間にか伊集院くんがーー比喩ではなく本当にーーどこからともなく湧いて来ている。



「貴様がコイツを呼んだのか」

「必要な事だったからな」


 そう言うと伊集院くんもまた、心底疲れたような顔をその白人女性に向けた。


「まあいいわ。最高幹部が揃ってるならとっとと始めましょう」



 そう言うとこなが議事を始める。

 一体これから、何を話すのだろうか。

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