165. ウェルドラ
「【翡翠の槍】!」
先手を仕掛けたのはウェルドラ。
深緑の槍が生成されるとそれが伊集院くん目掛けて放たれる。
それに合わせて、ソラにガラスの破片を向けたままに、テンペスから風の刃と追い風が放たれ、翡翠の槍がその勢いを増しつつ伊集院くんへと迫る。
「ふむ。【ホワイトリジェクト】」
冷静な声と共に繰り出された詠唱によって白い渦のような障壁が出現し、風の刃と槍を弾き飛ばす。
弾かれた槍が天井に突き刺さると、天井がジュゥゥ……と音を立てて溶けていく。
そのまま流れるようにテンペスが強風を吹かせると槍が天井から抜け、再度伊集院くんに目掛けて飛来し彼の頬を掠め、壁に突き刺さってみせた。
「ほう。呪い付加か」
翡翠の槍を感心したように見つめながら伊集院くんは呟くと、腕の一振で氷の棘を無数に生み出し乱雑に攻撃を仕掛けた。
風で無理矢理逸らされた氷の破片が突き立てられた箇所が全く同じ様に溶けていくと、ウェルドラが眉間にシワを寄せて見せた。
「模倣か」
「何分私は呪いについてはある種の専門なもので」
「ほざけ。【緑柱斧】!」
「【ウインドブーマー】!!」
次に生成された緑柱石の斧が同じ魔法によって弾かれると、横から風の大砲が放たれ伊集院くんに命中する。
すると伊集院くんの身体がガラスのように粉々に砕け散り、次の瞬間ウェルドラが叫び声を上げ吹き飛んでいた。
「おや、手応えはあったんだけどな」
「【翡翠の槍】!!」
「おっと」
至近距離で翡翠の槍が伊集院くんの顔面目掛けて放たれると、彼は身体を一瞬闇に変化させて攻撃を躱す。
そこにテンペスが強風で先程放たれ床に突き立てられてた緑柱の斧を浮かばせ伊集院くんの方向に投げ付けると、彼の目の前に剣が出現しそれを粉々に砕いて見せた。
「【ダークスパイク】」
闇で出来た巨大な棘が床から突き立てられ、ウェルドラがすんでのところで飛び退きながら回避するとオニキスのダガーが無数に出現し伊集院くん目掛けて飛来する。
これを伊集院くんはモデルWdで鞭を出現させるとこれを素早く振るい自分に当たるものだけを払い除け、続けざまに闇で出来た棘を天井から突き出させてウェルドラを床に叩き付けた。
「ちっ」
「おや、舌打ちとはなんて下品な……」
伊集院くんのいつもの煽りが始まると共にウェルドラがチラリと此方を向く。
あ、不味い。
「【雀石扇】!!」
孔雀石の扇が振るわれ、テンペスと共に嵐がこちらに襲い掛かる。
「うおっ!?」
「ーー【鉄の障壁】!!」
とっさに鉄の壁を展開し攻撃を回避すると、ウェルドラが此方に急接近し持っていた杖でこちらに殴り掛かってみせる。
そこに戦闘態勢に入った巧が篭手で杖を受け止めると、空いている手から炎の弾丸が放たれ、ウェルドラが被弾し数歩下がる。
「【身体強化】!」
後方から峰さんのバフ魔法が飛んでくると、ふわりと身体が軽くなるような感覚が身を包む。
これに呼応するかのように巧は両腕を突き出すと、篭手から螺旋状に炎が吹き、ウェルドラを焼いていく。
「どうやらアトモスが懸念してた事態になったようだな……」
「えっ?」
テンペスがボソリと呟くと、トルマリンで出来た矢を生成していたウェルドラが攻撃を中断した。
「私はまだやれます」
「だが猶予は無い。俺は先に行くぞ」
「何?」
テンペスの言葉が余程想定していなかったのか、ウェルドラはテンペスの方向に振り返った。
そのテンペスは風で拘束しているソラの元に飛んでいくと、彼女とその風の亜人の足元に魔法陣が展開されていく。
「ちょっ、テンペス!」
「あばよ。こいつは置き土産だ」
散乱していた宝石で出来た武器たちが一斉に舞い上がり、僕達の横にあった巨大水槽に突き刺さっていく。
「え、ちょっーー」
「まずい、【バブルラップ】、【反復】、【反復】!」
とっさに巧の身体が巨大な泡に包まれると、僕と峰さんの身体にも反復魔法によって泡が展開された。
その瞬間、魚たちと僕達を分けていた分厚いガラスにヒビが入る音がし、テンペスとソラの身体が白く染まる。
そこで気付く。
テンペスとソラの足元にあるのは、空間転移の魔法陣だ。
「なっ、ソラ!」
「ソラーーっ!」
2人がバシュッ!と音を立てながら消えていくと同時に、亀裂が深まり、水が零れ出す。
「空間閉鎖を無視して転移した……?」
「はは、私を誰だと思っている。私は錬金術師だぞ」
ウェルドラは笑ってみせると共に、彼女の首にかけられたいくつものネックレスがジャラリと音を立てた。
その時、ふと彼女の杖に立派な宝玉が付いている事に気付く。そしてその杖を握っている手も、指先にいくつ物リングやブレスレットがつけられて居ることにも気付く。
それだけではない。
被っている帽子にも宝玉がある。
銀色のローブもやけにキラキラ輝いていると思っていたら、非常に細かい、ダストのような宝石が織り込まれている。
そしてそこでウェルドラと言う魔導師の本質を察する。
こいつは、ありとあらゆる装備品に付与魔法の掛かっている宝石を付けており、とにかく本人の性能を盛りまくっているのだ。
そして、彼女の放つ宝石魔法もまた、別の付与魔法が掛かっているのだと理解した。
「さあ、醜い劣等種共よ。第2ラウンドの始まりです!」
詠唱を破棄して、彼女の周囲から水柱が展開し噴き上がり、僕達の足元が瞬く間に水浸しになって行く。
それと同時に、巨大水槽が決壊し、夥しい水が僕達に襲いかかってきたのだった。




