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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第12章〜Rich Racist〜
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159. 圧倒

「……チッ」


 ソラはしまったと言った様子で再び舌打ちをする。


「貴様の補助魔法もなかなかいい線だ。そこの野郎共も自己流にしてはまあまあの腕前だ」


 武器を失い素手となったザントさんを3人で囲い、峰さんはソラのやや後ろに待機して包囲する。

 武器のないザントさんになら、もしかしたら勝てるかも知れない。


『お、いいねいいね〜。でもザントは伊達に序列が俺の次じゃないぞ』


 スカウターから伊集院くんの声が聞こえる。その声はまた珍しくとても愉快と言った様子で、それが返って不気味に感じた。

 伊集院くんがこういう反応をする時は、大抵の場合ここから良くない事が起きる前兆だ。


 恐らく、ザントさんは伊集院くんに預けた銃、そして今ソラが武装解除させた槍以外にも、何か武器を持っている。


『まさかザントもこんな所で負けたりしないよね? 流石にこれで兄弟子が負けたら失望するよ?』

「ほざけ」


 ……いつもの煽りモードに入った伊集院くんに呆れていると、ザントさんの姿勢が僅かに低くなる。攻撃の合図を僕の第六感が察知する。


「巧!危なーー」


 突然の飛び蹴りが巧の頬にクリーンヒットし、何が起きたのか理解出来ていない巧がそのまま沈む。


「くそっ!」

「【水晶の雨(シャンデセン)】」


 ザントさんが何かを上空に放り投げる様な動作で呪文を唱えると、その何かが空中で砕け散り水晶の礫が雨のように降り注ぎ始める。


 巧が飛び起きて再び殴り掛かろうとすると、ザントさんはその腕を掴みその勢いを利用してそのまま巧を投げてみせる。

 そこに僕とソラがトンファーと剣でザントさんに向けて斬撃を放つと、ザントさんは水晶の雨を避けながら僕達の刃も無駄のない動きで回避する。

 続けざまにソラと僕とで再び斬撃を繰り出し、ザントさんに反撃の機会を作らせないように僕達は猛攻を始めた。


「【炎の波動(炎の波動)】!」


 しかし、そこでザントさんを中心に炎の属性を帯びた衝撃波が走り、僕達全員が吹き飛ばされる。

 倒れた自分の腹に追加の衝撃を受け、血がせり上がり口から鉄の味が噴き出すと、僕を大ジャンプから踏んでいたザントさんが跳躍し、峰さんから放たれた氷の槍を躱した。


 踏まれたお腹から激痛がする。自分が飛び起きるとすかさず峰さんが回復魔法を掛けてくれてダメージは癒えるが、痛みがまだ少し残っている。


 ソラが地面に剣を突き立てて切り上げると、地面が抉れ、抉れた床が宙を舞う。

 そこでソラが舞った床に剣を叩き付けるとそれらがザントさんに向かって飛ばされて行く。


「【ガラス化(スペモルフ)】、【ゴルゴンの眼(アゴルゴン)】、【反復(レペティス)】」


 ザントさんの詠唱で飛来物がガラスに変化した瞬間、彼が掛けていたサングラスを外した。


 直後、彼の顔からレーザーが放たれ、それがガラス化した飛来物を焼き払い、反復魔法によって同じ物が峰さんの肩を貫いた。


「なるほどね……もう一つの武器は、その義眼ってワケ」


 サングラスを外したザントさんの右目は、白目が本来あるべき所は鈍色に輝き、黒目のあるはずの場所は真っ赤に染まっている。

 まるで充血しているのを表現するかのように時折黄色い光が黒目……もとい、赤目へと伸びていくその見た目は異様なものだった。


 そして、本来左目があるべき場所には、何も無かった。

 要するに、ザントさんは隻眼だ。

 しかも、ただの隻眼ではなく、機械仕掛けの義眼がひとつだけ有る隻眼。

 本来備わっているべきである眼は、両眼とも失われていた。


「丁度いい、行くぞ」


 ザントさんが手を振ると、先程ソラが出現させザントさんの炎魔法によって燃え尽き倒壊していた木と、床に刺さっていた水晶の雨の残骸が宙を舞う。



「【竜銀粉硝(りゅうぎんこしょう)】」


 ガラスと水晶が空中で渦を巻く。

 その渦がグルグルと回り、巨大なガラスの竜が発現する。


「げっ」

「なによアレ……ーーぐふっ!」


 一瞬見とれた隙にザントさんが飛び蹴りをソラに向けて放ち、義眼から赤黒いレーザーが放たれ峰さんの頬を掠める。

 峰さんの回復魔法が遅れ、レーザーがソラの脳天に命中し、ソラがダウンする。


「ソラ!」


 ザントさんがニヤリと笑い、一気に落としていた槍に向かって走り出す。

 そこを巧が両腕から火の玉を乱射し攻撃を仕掛け、僕もまた武器を銃に持ち替え発砲し2人で弾幕を仕掛ける。

 その間に峰さんがソラに対して回復魔法と気付けを行うと、彼女はなんとその状態から跳ね起き(キックアップ)を行い続けざまに剣から無言で衝撃波を放つ。


 すると空中に漂っていた竜を模していたガラスの破片が僕目掛けて突進を仕掛け、堪らず僕は銃撃を中断し鉄の障壁を展開。

 一方のザントさんも土壁を作り出し弾幕を防ぐが、それをも貫通するソラの衝撃波に対してザントさんは掛けていたサングラスを外すとそれを手に取り素早く前方宙返りを行う。


「え、はぁっ!? ちょっーー」


 突如飛来する真空の衝撃波。


 それをソラは咄嗟に側転をする様に回避すると唖然とした様子のまま光の槍を生成しそれを放つ。


「あの変な形サングラスも武器なのかよ!」

『ハサミみたいな形状なのはそう言う事だぞ』


 ケラケラと伊集院くんの耳障りな笑い声が聞こえる。

 そうこうしている内にザントさんが落ちていた武器を拾い上げ、改めてサングラスを掛け直した。


「スカウター兼ねた武器って訳?」

『ちなみにあの義眼もスカウター兼ねてるぞ』


 ソラがイライラした様子で伊集院くんとやり取りをする。

 ソラはその声に一瞬顔を歪ませるが、一息吐いて目を閉じると、気を取り直した様に僕の渡した剣を握り締めた。


「まあ、手の内が知れるのはいい事だな」

「そうね。ウチとしてもこれは思いがけない収穫だわ」

「つーかお前スカート履いてるのにキックアップするなよ。あと、キックアップするならスカートの下に体操着着るなよ。お前マジでツッコミどころ多いな」

「巧みたいな変質者にパンツ見せるわけないでしょ」

「くそー……」


 軽く2人が軽口を叩き合うと、ザントさんの槍から発砲音がすると共に一瞬でザントさんが峰さんの目の前に詰め寄り切り上げを行う。

 横からそれを僕がトンファーで防ぎ左右から薙ぎを放つとそれをザントさんは受け止め、そのまま槍を振り僕は腕をクロスしてその攻撃を防御する。


 左右から槍が振られ、それを必死に防御しているとソラが剣に光をまといザントさんに背後から斬り掛かるが、ガラスの竜がソラ目掛けてダイブをしソラは魔法をキャンセル。魔法陣を足元に展開し飛び退く。


「くっ、なんて力だ……!」


 槍のリーチに勝てず、防戦を強いられる。

 呪文を唱える暇もない位激しくトンファーに叩き付けられる槍は、遠心力とテコの原理で凄まじい威力で腕が痺れてくる程だ。


「くそっ!【竜舌(ラディフランマ)】!」

「【増幅魔法(エクステンション)】!」


 巧の手甲からの火炎放射が峰さんの魔法で増強され、ソラの行く手を遮るガラスを溶かして行く。


「【円月斬(えんげつざん)】」


 視界の開けたソラの剣に、槍が叩きつけられる。

 360度をぐるりと回転斬りで薙ぎ払った衝撃で、僕もソラも2人して防御していたというのに大きく後ろに後ずさりしてしまう。



「ーー貰った!」



 僅かにバランスを崩した所で、腹部に焼けるような痛みが走る。

 せり上がった鉄が、口からこぼれると共に腹部からも溢れる。


「彗!」


 腹部を1本刺しされた衝撃で闘技場の壁に叩きつけられ、戦線から離れてしまった。

 傷こそシールドのお陰ですぐに癒えるが、峰さんの回復魔法の射程からも外れているせいで回復も見込めない。


 ザントさんが大きく跳躍すると、僕に向かって槍を振り下ろす。

 間一髪でそれを起き上がる間もなく転がるようにして回避し、地面に向けて風の大砲を無詠唱で唱え自らを吹っ飛ばすようにして起き上がると目の前を突き攻撃が掠める。


「ちょっ、【瞬間剛力(モメンタ・ヘラクリス)】!」


 ソラが慌てて此方に飛びザントさんを切り付けるが槍で防がれる。

 むしろ筋力強化で大きく吹き飛ばした分距離を取られてしまい、ザントさんの槍が変形しライフルの様な形状から発砲音が響く。


「ぶっ!」


 ソラの眉間に弾丸がヒットし、大きく仰け反る。


「【ストームグラス(グレストブレク)】」


 再びダウンしたソラに対して峰さんが駆け寄るが、そこでガラスの竜が分解され、無数の破片が吹雪のように僕達三人に襲いかかる。


「うあっ……!」


 ーーパキッ。


「くっ!」


 巧のシールドが砕ける。

 後を追うように峰さんのも破壊され、その瞬間安全装置が作動し2人が観客席でふんぞり返った伊集院くんの側へと転送される。


『おっ、負け確かな』


 辛うじて回復の間に合っていたソラの元に駆け寄ると、彼女は今度は普通に起き上がってみせた。


「大丈夫!?」

「ち、ちょっと目を休ませていただけ……」

「ヒーラーが抜けたのは痛いね」

「……【スーパーアーマー(アネスタ・スタティ)】、【死線(モルレクタ)】」

「ソラ?」


 一瞬彼女の身体が紫色に光り、続けざまに黒い光が彼女の身体を蝕む様に包む。すると、彼女は姿勢を下げ突撃する体制を取った。


 完全に目が据わっている。それに今使っていた魔法のエフェクトが見るからに良くない。もしかしなくても、次の一手に賭けるつもりだ。


「ま、待ってソラ!ここは一旦体制をーー」

「ーー【光閃(アミコ)】!」


 ビカッと白い光が発生すると、甲高い金属のかち合う音が鳴り響き、槍と剣で鍔迫り合いが始まーーいや、違う。


「【ゴルゴンの目(アゴルゴン)】」


 鍔迫り合いが始まる瞬間、ザントさんの義眼からレーザーが放たれ、至近距離でソラの顔面を貫く。

 その衝撃で完全にシールドが破壊された彼女はそのまま伊集院くんの傍に気絶した状態で現れ、残されたのは僕とザントさんだけになってしまった。


「あー……」


 思わず頭を抱える。

 そうこうしている内にザントさんが槍を手に至近距離まで近づき、連続突きを放つ。

 必死に避けるが、薙ぎを受け止めて後ろによろめいた瞬間にガラスの破片が再び持ち上がり、僕を切り刻む。


「ぐっ!」

「終わりだ」


 槍が地面に突き刺さる。


「【破邪の光(セラフィックデシーズ)】」


 眩い光が全方向に放たれる。

 咄嗟に鉄の壁を展開すると共に、頭から文字通り割れる様な痛みが走り、僕は気を失った。

アメコミとかでは身体欠損ってほぼサイボーグ化強化フラグですよねー。

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