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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第12章〜Rich Racist〜
159/269

158. 1対4

 珍しく感情を隠そうともせずニヤニヤと笑う伊集院くんを不気味に思いつつ、僕達は闘技場のフィールドに降り立ち身構えた。


 ソラと峰さんは面白そうと言うことで、その後やって来てはくれたが、相手が伊集院くんではないと伝えると2人は頭を傾げてみせていた。

 そしてそのままニヤニヤと笑う伊集院くんに2人は怪訝な反応を見せつつも降り立つと、スカウターに通信が入る。


『時に、君たちはランチェスターの法則って聞いたことがあるかな』


 伊集院くんの声だ。スカウターから発せられた声は生き生きとしていた。とても気味が悪い。


「何それ」

「数学か?」


 ソラと巧がはて、と言った様子で返すと、伊集院くんがクスリと笑う声がした。


『巧が近いね。戦争における戦闘員の減少を数学的に解く法則で、地球ではフレデリック・ランチェスターと言う人が提唱した物だ。剣や弓矢で戦う古い戦闘からマシンガンを使う近代戦を想定する物まで色々と法則立てて考えられるいい定理なんだよ』


 彼の言葉と共に選手入場口のシャッターが開き、その更に奥に1人の兎人が佇んでいた。


 その姿に、悪寒が走る。


『まあ内容自体は人が多い方が有利だよと言う、一見すると誰でも分かるような物なんだけどね。近代戦の場合は人数が多い方が圧倒的に有利になるんだ』

「……何が言いたいの?」


 ソラが警戒した様子でスカウターに舌打ち混じりで返す。

 ゆっくりと闘技場の扉が開ききったところでその人の存在にソラも気付き、露骨に顔を顰めてみせた。


『近代戦での生存人数は戦闘開始時の両軍の人数を自乗した時の差で決まるってなってるんだけどね、これは魔法戦においても通用するんだ』

「魔法戦でも?」

『そうそう。ただこの場合の変数は人数だけではなく、チームの総合魔力って言うものが絡んでくるけれどね』


 その人がゆっくりと、何十メートルも離れた入場口から僕達の元へと歩き始めた。

 大きく黒いサングラスがぎらりと輝き、殺気が辺りに立ち込める。


『彗は潜在魔力は世界最高峰だけど、顕在(・・)魔力はそこそこって所だろう。天野さんは平均的な魔人よりも熟練していると俺は踏んでいる。巧と鳩峰さんはまだ成り立てだから潜在魔力は保証されていても今はそこまで強いとは言い難い。まあ2人で1人分だろう』


 彼が腕を伸ばすと真っ黒い槍が出現し、彼の歩みが早まる。

 僕は剣を握り、ソラと峰さんが杖を手に取り、巧が篭手を構えた。


『アイツはトリプルドライバーで君たちよりも遥かに強い。戦力差で言えば少なくとも単体では君たちの100倍強いと思って差し支えない』


 対戦相手が緩やかに走り出す。

 それに合わせて僕達は頷くと、峰さんが魔法陣を作り僕達に身体能力向上の魔法をかけて見せた。


『だが君たちが人数優位でいる限り、君たちにも勝算はある。なんせ君たちの潜在魔力は全員少なくともアイツ並で、4人居れば魔力差は16倍』

「【増幅魔法(エクステンション)】」


 僕の魔法で峰さんの補助魔法に増幅を掛けて、更に自分たちのステータスを上げる。


『魔力の指数だけでいえば、経験を差し引いても理論的には勝てる。でもアイツは経験では君たちよりもはるかにあるから、言い換えれば、君たちの内1人でも欠ければーー』


 彼が素早く槍を振るい、巧を切り付ける。


『ーーその瞬間負けは決まる』



「【炎の拳(マノ・フィアマ)】!」


 怯まずに拳に火炎を纏うと、巧は槍の二撃目を手甲で受け止め、もう片方の腕でザントさんに殴り掛かる。

 しかし巧が振りかぶる間に槍は巧の手を離れ三撃目の斬撃が巧の腹を切り裂き、続け様に四撃目がもう飛ぼうとしていた。



「【破岩突き(スピンタソット)】」


 その槍による凪が巧に当たる前に、僕は飛び上がり下突きで急降下し奇襲を掛ける。

 すると槍を振るうのを止めてザントが飛び退き、僕の下突きで地面が抉れ岩石が噴石の様に吹き上がった。


「【蔓の鞭(フラゲロウ)】」


 ソラが杖の先端からツタを出現させるとそれを勢いよく振るい、僕目掛けて槍を突き出そうとザントを牽制する。

 身を屈めてソラのムチを躱すと、ザントさんはそのまま低い姿勢で巧と距離を詰めて足払いを放ち、巧が転倒する。

 そこを串刺しにしようと槍が振るわれようとした時、氷の槍が峰さんの杖から出現し飛来する。

 そこでザントさんは急遽それを槍の側面で受け止めるとソラによって僕が先程噴き上がらせた岩石を重力魔法でザントさんへと差し向け巧が体勢を立て直す時間を作った。


「ナイスだソーー」

「ーー余所見しないで!!」

「【真空波(リソニック)】!」


 剣を振り真空の衝撃波を剣から飛ばすと、ザントさんはそれを横に跳び回避した。

 その隙を逃さず、巧が炎の槍を上段に振るい、ソラが杖から出たムチで下段を薙ぐ。



「【硝子の円盤(スペクシクルス)】!」


 同時に迫るその攻撃に対して、まるで体操競技の選手の様に僕はひねりを入れながら跳ぶ事でふたつの攻撃の間をすり抜けるように回避する。

 僕の着地と同時にザントさんはガラスで出来たカッターを飛ばしソラを攻撃すると、ザントさんはそのまま槍を真っ直ぐ巧に向かって投げつけた。


「がはっ!」


 投げる瞬間に発砲音がしたと思うと、ザントさんの槍は有り得ない速度で急加速し巧の腹部にクリーンヒットする。

 するとシールドで巧の腹部が護られた反動で槍が真上に跳ね上がると、跳んでいたザントさんはそれを掴みながら急降下突きを放ち更に追撃を仕掛けた。

 頭上目掛けて落ちてくる彼に対し、峰さんが辛うじて突風を起こし巧を吹き飛ばすと再び発砲音が響き、いつのにか槍が峰さんにヒットして再び跳ね返っていた。


「くっ、あの槍はショットガンとの可変型(ギミックド)……!」


 目の色を変えたソラが地面に魔法陣を出現させると、そこから巨大な木が突き上がり恐ろしい勢いで成長し始めた。

 足下から出現した木を前方に飛ぶ事でザントさんは躱し、僕は武器を銃に持ち替えて発砲する。


「ぐっ!」

「【回復(サムケア)】!」


 僕の銃弾を、槍を高速回転させて跳ね返すとザントさんはそのまま僕に急接近して槍を振るう。

 そこで僕も武器をトンファーに持ち替えてその槍を受け止めるとザントさんが下から僕の顎を蹴り上げ、僕は大きく吹き飛んだ。

 すかさず峰さんが回復魔法をかけてくれるが、顎がまだジンジンする。


「うおおおおお!!!」


 小さな爆発音が聴こえると、巧がザントさんの至近距離まで吹き飛ぶ様に接近し拳を突き出す。

 ザントさんは最小限の動きでこれを避けると、反対側の拳が突き出され、同じようにザントさんは顔を僅かに反らせてまた回避する。

 次々とパンチを放ち、蹴りを出しながら火の玉を発砲しラッシュを彼が仕掛ける間に、僕もまたそこに加勢しトンファーによる突きを幾つも放つ。


「【ブロッキング(シェドレート)】」


 ザントさんが巧の拳を槍で受け止めた瞬間、詠唱で拳がまるてパリィでもされたかのように反発し、巧がバランスを崩す。

 槍による薙ぎが僕と巧を2人とも吹き飛ばし、更に彼は切り上げを放ち巧に追撃した。


「くそっ!」


 空中で斬られた巧は、その衝撃を利用してくるりと空中で回転し着地すると拳を突き出し火の玉を篭手から放つ。

 ザントさんはそれに対して器用にバク転しながら攻撃を回避し、極め付きはバク転からのバク宙を放ちながら同時に槍を振るい、火の玉を打ち返し巧を攻撃した。


「埒が明かない……剣寄越して!」


 チッ、と明らかに女子高生のそれとは思えない舌打ちをすると、ソラがそんな事を言った。

 そこで僕はトンファーから真空波を飛ばしザントさんを牽制しつつ、竜殺しの剣の入ったカプセルを投げ渡した。


「【破壊車輪(はかいしゃりん)】!」


 杖を収めると早々にソラは闇属性を帯びた縦回転斬りでザントさんに攻撃を仕掛けた。

 それをやはり彼は槍で受け止めるが、その勢いまでは殺しきれず吹き飛び、受身をとりながら着地する。


「【瞬間剛力(モメンタ・ヘラクリス)】ーー」

「ーー【セラフアーク(エクソロウ)】!!」


 一瞬力が増す補助魔法に掛けられ、ソラが剣に聖なる光を纏わせ思い切り切り上げる。

 その衝撃にザントさんは槍を手放し、その槍は遥か彼方の壁に刺さって沈黙した。

 それを見てザントさんは手の感覚を確かめるように拳を握っては開き、ソラに向かって呟いた。


「貴様、どうやら杖は飾りで本業(・・)は剣だな?」

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