155. 風の暴力
「くっ、凄い風だな……」
「属性では俺が有利だ!【プロミネンス】!」
手始めに巧が炎のアーチを繰り出し攻撃を仕掛ける。しかしそのアーチは風に煽られあらぬ方向に落ちていきまるでテンペスにはかすりもしない。
「ゴミが。純水が通電を許さぬように、そんなチンケな火が俺の嵐に太刀打ち出来ると思うか」
「ふ、吹き飛ばされそうだっ!」
紫に変色したテンペスの放つ強風が、僕たち三人に襲い掛かる。
「【スタンカース】」
次にQが紫色のビームを放つ。強風で軌道が逸れていくが、テンペスが風の力で作り上げた水晶の葉で出来た巨大な腕に命中し、美しい木の葉が舞い散る。
「甘いな。俺の風を何だと思っている」
巨大な拳が振り下ろされると、僕達は散り散りに回避行動を取ってみせた。
クリスタルの大樹の木の葉で形成されたその拳が、足場と共に砕け散ると奈落への風穴が開き、僕達の移動可能域が狭まる。
これは良くない。
短期で終わらせないと、僕達はいずれ全員地上までそのまま落ちてしまう。
「【機関掃射】!」
銃に魔力を込め、拳銃から機関銃の様に弾丸が溢れる。
その弾丸が水晶の掌で受け止められ弾かれると、再び拳が作られ襲い掛かる。
巧がこれに対して呪文を唱えて炎の壁を展開すると、突風が吹き荒れ炎の壁が鎮火してしまい、僕達は再び回避を余儀なくされた。
「【食虫呪歌】」
Qの呪文と共に、一筋のビームが放たれる。
再びそれをクリスタルの葉を集めた手でテンペスが受け止めようとすると、そのビームが突如4つに割れてその手を包み込み葉を粉砕していく。
片手が無効化された隙に巧が手甲から次々と火の弾丸を撃ち、別方向から僕もまた銃撃を継続。
これに対してテンペスが上昇して銃弾を回避し、もう片方の手で火の弾丸を受け止めていると拳が炎上し墜落。
すかさず炎のアークがテンペス目掛けて放たれるが、強風でその弾道が逸れて床が炎上しはじめる。
「ちょっ、巧!」
「しまった」
風の刃が襲いかかり、回避行動を余儀なくされる。
床にいくつもの穴が開いており、炎で炭化した部分をうっかり踏むと床が抜け、バランスを崩して転倒してしまう。
「ちょっ、マジか」
「【ウインドブーマー】」
そんな隙を見逃すはずも無く、テンペスが風の大砲を僕目掛けて放つ。
「【茨の壁】!」
「【吹氷】!」
咄嗟に壁を展開し大砲を受け止めると、その隙に巧が体制を立て直す。
テンペスが吹雪を展開し僕達の視界を塞ぐと、彼は続けざまに真空の刃を放ちたまらず僕達は壁の裏へと隠れて見せた。
「ああ分かった。足場が悪いなら治せばいいのか。【物体修復】」
「【水柱】!」
「【食虫呪歌】」
「アマチュア共が!」
Qが、ふと呪文を唱えると床に開いた穴が修復されていく。
なるほどと一瞬感心し、彼の隙をカバーするために水柱を噴き出させテンペスの気を逸らす。
その間に巧が呪文を耳コピしたのか、手甲の銃口から光線を繰り出す。
これに対しテンペスは怒号を発すると共に突風が巻き起こり、僕達は全員床に叩きつけられた。
「雑魚共が!」
間髪入れずに風の大砲が襲い掛かる。
起き上がる間もなく転がるようにして回避し、立ち上がり銃撃を放つが強風で弾道が逸れる。
横倒しの竜巻が巧へと伸びていくのを確認し、その軌道上に茨の壁を展開すると、真空波が此方へと飛ばされてくる。
「【反転竜巻】!」
僕が金属の障壁を詠唱破棄して身を守る間に、Qが負けじと竜巻を放つ。
「何っ!?」
その竜巻が敵の衝撃波を巻取るように吸い寄せ、テンペスへと送り返していく。
しかしテンペスはそれに対しても務めて冷静に衝撃波を更に放ち、相殺してやり過ごしてみせる。
「そんな反転魔法如きで俺の風に打ち勝てると思ったか。俺様は風の亜人、風の現身、風そのものだ。風魔法で俺様に勝てると思うなよ」
更に強くなり始める嵐。
僕は堪らず持っていた剣を床に突き刺し強風に耐える。
と言っても所詮は木の上に並べられた木の板。足場が悪い。
「巧っ!飛ばされちゃ駄目だよ!」
「分かってるっ!」
「【氷毬】、【怨毒】!」
幾つもの氷の塊と毒々しい紫色のガスが風の障壁へと注がれていく。
「生温いな」
「【火環】!」
Qが放つ魔法を突風で薙ぎ払う隙に、巧が炎のリングを放ち更に手甲からの弾丸で追撃を行う。
「それがお前らの本気か?」
嘲笑うような言葉と共に、再びクリスタルのアームが拳を作り飛来する。
「【斥力の壁】!」
斥力の壁で強引に攻撃を避け、次の一手を考える。
今までの戦闘を、出来事を、脳をフル回転させて思い出す。
テンペスが回避行動を取る攻撃はなんだ。
テンペスが風で吹き飛ばせないものは。
風……風に影響されない物……
そうだ。
「【衝虹】!」
剣先が7色の光を纏い、それを振るう。
虹色の剣波が剣から放たれ、吹き飛ぶことなく一直線にテンペスへと向かっていく。
「なっ――」
完全に慢心し油断していたテンペスを、その真空波は容易く切り裂いた。
光だ。光の魔法なら風の影響は、受けない。
横を見ると巧とQさんが頷く。
「……なるほどね。光なら確かに風の影響は受けないね」
「よし、そうと決まれば【光の玉】!」
巧も追って光の塊を放ち、Qも魔法陣を組立始めた!
「ふふふ、【ライトピラー】!」
魔法陣が収縮していくと同時に、突如光の柱が天から伸びていきテンペスを貫く。
「ぐおおおおっ!」
空高く浮かぶそれの変色が解けていくと同時に、風が弱まっていく。
「今だ!」
「【竜舌】!」
「【ウインドブーマー】!」
掛け声と共に、巧が篭手から火炎を放ち、僕もそれに合わせて風の大砲を放つ。
空中でそれらが混ざり、炎の渦が一直線に延びて行き爆音が周囲に轟く。
「がはっ……!」
暫し遅れて、シールドが砕ける音が聞こえる。その音を聞き届け、僕達はハイタッチをするとその傍でQが杖をテンペスに向け、威嚇する。
「やったぜ!!」
「やったね!!」
「さてどうしようかな。クズに相応しい呆気ない弱さだったようだが」
「くっ……」
強力な風の前に一時期はどうなるかと思ったけど、よくよく考えてみれば彼(?)自身は……それほど動いて居ない。
「テンペスって、自分の風に自信持ちすぎだよね」
ポロリとそんな分析結果が口から漏洩した。
「……良いだろう小僧、今日は一先ず退こう……充分なキャッシュが溜まったからな……だがQ、覚えておけ。この銀河団はいずれ我々の色に染まると言う事をな……」
その裂け目の様な眼が消滅すると本体だった風の渦も背景に溶けて消え失せた。
「……なあ、彗」
「うん?」
嵐がすっかりそよ風に落ち着いた頃、巧が声を発した。
「キャッシュって、何だ? 金か?」
「いや……あれは多分、違うものを意味してると思うよ。多分データって意味だよ」
「そうか、そう言えば情報の授業でそんな事言ってたっけ」
Qを眺めると、彼は腕を組んで何かを考えていた様だったけれども、僕と目線があうと彼はにこやかに笑いながらこっちに歩み始めた。
「ここの入り口まで送るよ【離脱魔法陣】」
修復魔法が追い付かずボロボロになった足場にに魔法陣がうっすらと形成される。それは仄かな緑の光を発していた。
「大樹の入り口に繋げた。さ、早く」
「ありがとう」
足を踏み入れた途端、空間転移と違って辺りが真っ白に染まっていった。




