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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第11章〜Ruined Roots〜
154/269

153. 上へ

「行ける?」

「う、ああ」


 巨大な木の枝を伝って、上へと昇っていく。

 幾らゴン太いとは言え、木の枝は木の枝だ。所々、足場となる枝が無いことがある。


 足場がない時は、無詠唱魔法で手頃な足場になりそうな枝に飛び移り、そこから巧を魔法で引き上げる。



「行くよ。【捕縛の蔦(バイン・ロレスト)】!」


 呪文と共に、地面と言うか木の枝から細い蔦が伸び始め、巧を拘束する。

 そのままその樹木のツルで巧の身体を引き上げ、安全な足場で拘束を解除すると巧がニカッと笑う。


「お前ほんと便利な魔法覚えてるよなー」

「普段魔導書読んでるからね」

「でもやっぱ無属性っていいな。俺さー、炎属性じゃん? 水魔法とか使うの苦手だしなんかやっぱ向き不向きとかあるくさいんだよな」

「なるほど」


 僕は基本的に無属性だしなんでも使えてしまうから考えたこともなかったが、属性持ちってどんな感じなのだろう。

 そりゃあ、2つ目のドライブで属性の変更はしているけれど、やはり属性があると使う魔法にも得手不得手とか有るのだろうか。



「ちなみに木属性は?」

「あー、言われてみれば試したこと無かったかもな。さっきの詠唱、なんだっけ?」

「詠唱文はバイン・ロレストだね」

「なるほど。【捕縛の蔦(バイン・ロレスト)】」


 巧が試しに魔力を集中させながら呪文を唱えると、細い蔦が足元に生えて蠢く。



「やるじゃん」

「ああ、でもまだま――【ファイアリフト(レヴィファイア)】!」


 突然巧が詠唱し、火の玉が自分の頬をかすめる。


「!?」

「彗後ろっ!【光の玉(レヴィブラン)】!」

「【茨の壁(ディブルーム)】!」



 巧が火と光の玉を投げつけた方向には茨のバリアを張った黒装束の男。


 風を纏い、長い杖を構えている。敵だ。


「何だお前ら!?」

「【ダークスパイク(モルクスピク)】!」

「【連鎖爆炎(ヒバース)】!」

「ぐああっ!あっーー!」


 地面から闇の棘を作り出し、敵にわざと回避させた所に巧が爆発する火の玉を投げつけると、男は枝を踏み外し真っ逆様に落ちていく。


「マジか」

「僕がやったんじゃないからね」

「……ま、まあシールド壊してないし生きてるだろ」


 脂汗を流しながらそう巧が自らを諭すと、大樹の上部から怒号が聞こえる。


「なんだ今の音は?」

「あっちからみたいだぞ」


 恐らくさっきので侵入者がいることがバレたのだろう。

 さっきは誤魔化せたが、これ以上は無理だ。


「巧!構えて!」

「おう!」


 これ以上は誤魔化しきれない。

 ならば、あとは正面突破だ。



「おっ、なんだお前等か、さっき変な音が聞こえ――」

「【メルトサーペント(セルパシッド)】!」


 降りて来た敵に対して、蛇の形を象る酸の塊を撃ち付ける。蛇が敵の首に絡まると酸が滲み、敵の皮膚がどろりと溶ける。


「ぐぎゃあああっ!!? 貴様ぁぁ!」

「【ブラストフィスト(ブラストイズ)】!」


 巧がブーツから発砲し、爆発音と共にその反動を利用して一気に詰め寄ると、彼はそのまま殴り掛かる。

 その拳が触れた瞬間、爆発の様な物が拳から発生し敵が大きく吹き飛び、空中へと投げ出される。


「うおああああっ!? 【ウインドブーマー(ウインドブーマー)】!!」


 敵が慌てて自らの真下に風の大砲を放つ事で空中ジャンプを行い、近くの枝に着地する。

 そこに僕が銃でチャージショットを浴びせ、敵が土の障壁を展開したところで巧がすかさず爆発と共に飛び出しその障壁を超えていく。


「【ゴーレムの腕(ボクスゴーレム)】!!」


 巧の腕が土で覆われ、巨大な拳が枝ごと敵を叩き潰す。

 足場を再度失った敵が、クリスタルの葉っぱを纏い大樹から落ちていく。



「【連鎖爆炎(ヒバース)】」


 落ちていく敵に巧は締めとばかりに爆炎を浴びせ、完全に敵が雲海に飲まれ見えなくなると、ため息をついて見せた。


「てっぺんまで後少しだな」

「え!あ、うん」

「どうした」

「いや、巧思ってたよりも容赦ないなーって」


 いくらシールドがあるから死なないと言っても、一筋の罪悪感が心の中を駆け巡っていたのだが、どうもこの男にはそれがないらしい。


「と言われてもなー。応援も来ないし明らかにヤバそうだったじゃん?」

「まあ、そうだけど……」

「どうせ死なないんだろ? ならへーきへーき」


 意外と僕よりも巧は魔法界に適応してしまっているのかも知れない。

 そんな風に巧への評価をこっそり改めつつ、敵が降りてこなくなったのを機に再び僕達はクリスタルの大樹を登り始めた。


 禍々しい魔力を上から感じるのだ。

 どこかで感じたことがある、どこか親近感が湧いてくるような、そんな嫌な魔力を。


「もう少しで頂点だね」

「今更だが雲が自分よりも下にあるってヤベーな」



 そんな時に、ふと、突然魔力の反応が消えたのを感じた。



「……えっ」

「どうした?」


 あの嫌な肌にねっとりと来るような魔力の波動が突然姿を消したのだ。まるで最初からそんなものなど無かったかのように。


「……巧、魔力の反応が消えたの分からない?」

「いや?」

「……気のせいかな」


 巧が頭を傾げる。


「いやでも、彗の方が魔法使い歴長いんだし細かい魔力の波動とか分かるのかも知んねーぞ?」

「うーん」


 ひとまず、枝をさらに昇って行くと、突然木の()が足場として出現する。

 その板は広く広く平らに敷き詰められていて、広大な広場を形成していた。


「怪しいな」

「どうして広場ってこんなに怪しさ満載なんだろうね」


 そしてその広場には、魔力の残滓とも言えるような空気が残っていた。

 澱んでいて、まるでさっきまで何かがここにあったのだと言うような雰囲気だ。


 ここに、一体何が……

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