150. 嫌な思い出
「ま、属性が炎ならしんどい水属性や重属性に役割持てる光属性魔法とかもサブで覚えた方がいいかもねー」
「サンキュー!」
「じゃ、頑張ってねー」
バシュッ!と転移する音が聞こえる。
瞬きをすれば、伊集院ナナは既に空間転移をして消えてしまっていた。
「よーし、これで今度こそ準備万端だぜ!」
「付け焼き刃で大丈夫かなあ」
「よゆーよゆー!」
魔法をいくつか覚えて明らかに調子に乗っている巧に頭を傾げていると、彼は僕の肩に手を置く。
「いざとなったら星野パイセンに全てを委ねる」
「言っておくけど僕は回復魔法とか使えないからね?」
「は? 回復魔法ぐらいお前魔導書読んで覚えろよ」
「巧に言われたくないな」
「ゆーてお前も魔導書読まないで凸ったらしいな?」
巧の痛い指摘にぐぬぬと内心唸っていると、ニヤリと彼は笑い歩み出す。
「ほらほら、早く行かないと大樹1周するまで日が暮れるぞ」
「全く……」
僕達は大樹のふもとの何処かにいると思われる依頼主を探し、更に大樹へと近づき時計回りに大樹を周回し始めた。
「しっかしでっけーなー」
「依頼主さん本当に何処にいるんだ……」
ゲンナリして見上げると、キラキラしたクリスタルの大樹が泰山の如く聳え立っている。
眩く幻想的な光景が広がっているのは間違いないのだが、如何せん首が痛くなってくる。
「ところで巧、どうもこの葉っぱはなかなか貴重なアイテムらしいよ」
「と言うと?」
ヒラヒラと枝から分かれたクリスタル状の葉が目の前に落ちてきたところでキャッチして、気付く。
巧に声をかけながらスカウターでその葉をスキャンすると、何やら魔力を宿した葉である事が判明する。
「なんか回復効果があるみたい」
「世界樹の葉的な?」
「そこまでは分かんない。このスカウターの鑑定機能は必要最低限だし」
最近、探索系の依頼を受けることもあるだろうと言うことでスカウターに簡易鑑定ソフトをダウンロードしている。
使えば視界に映るものがどんなものであるかオートで鑑定してくれるが、どうにも探索採取の依頼自体を受けることが少なくてあまり活躍していない。
今回どうもこれが回復系のアイテムであることは分かったが、細かい内容は分からなかった。
「スカウターにそんな機能あるのか」
「鑑定ソフトダウンロードしたんだけど、あんまり性能良くないんだよね」
「なるほどなー、俺も後でなんか落としてみるか」
ウエストポーチにその葉をしまい込み、再び歩き出す。
程なくして、挙動不審な梟人間が視界に入る。
「多分あの人だね」
「言ってる側から来たぞ」
「やあやあ!君がX-CATHEDRAの者ですね?」
その姿が重なり、フラッシュバックする。
「う……はい」
我ながらテンションが急落したせいで、思わず巧が片眉を上げながらこちらを伺う。
「私はオルディナ・コモン。このクリスタルの大樹の管理者です」
僕の印象ではオルディナさんは何というか普通のαハブルーム星人だ。
αハブルーム星人は梟によく似ている。地球人サイズの梟と言えばしっくり来るか。
普通と言うか、他の梟人間と見分けがつかないだけとも言う。
「X-CATHEDRAの星野彗です、宜しく御願いします」
「柳井巧、宜しく!」
僕たちは握手を交わす。握手と言っても、向こうが出してくるのは羽だ。
向こうは羽を器用に丸めていて、そういう所で地球の梟とは違う、別の生命体である事を再認識する。
「で、早速依頼の内容なんですが……最近魔物が沢山発生していて中のお掃除が出来ないんですよ」
「中?」
巧がハテナを挙げる。
「ああ、この大樹は中が一部空洞化していて登れるんですよ。それでまあ、普段から魔物自体はチラホラと居るんですが……最近その魔物たちが大量に増殖して更に凶暴化してて」
「あ、なるほど」
緑の草が風に揺られて膝の裏をくすぐる。なんで僕今日に限って半ズボンなんだろう。
「――それで、魔物自体はハブルームの平均的な強さなんですが、如何せん数が多くて対処しきれないんです。それに平均レベル、と言っても凶暴化してますからね、我々一般人にはどうしようも……」
「分かりました。つまり魔物を討伐すれば良いんですね?」
「んで、あわよくば凶暴化した原因を見つけると」
「はい」
うーん……
僕と巧だけではちょっと心配かも知れない。特に、魔法を覚えたばかりの巧が下手に先走って魔力が枯渇したら大変だ。まあ、受けたからには遂行するけど。
「分かりました!じゃあ早速入り口は……」
「あちらです」
そう言ってオルディナさんが羽で指した先を見ると、大樹の根と根の間にポッカリと穴が開いている箇所があった。
「よっしゃ、彗行こうぜ」
「うん」
軽くお辞儀をし、巧を追いかけて大樹の入口へと向かう。
「で、彗」
「うん?」
大樹の内部への入口は、まるで巨大な琥珀でできた扉が佇んでいる。
思わず心の中で唸っていると、巧がふと声をかけてきた。
「お前さ、さっきオルディナさんが声掛けてきたらめっちゃ顔色悪くなったけど、なんかあった?」
「ああ、いや……実はね……」
僕が初めて依頼を受けた時、依頼主が初めて僕に声をかけた時の言葉と一句一字違わない言葉が飛んできたからデジャヴを感じた。
そういうと彼は頭を傾げる。
「うん? それの何がそんな顔色悪くさせるんだ?」
「言ったじゃん。僕の初めての依頼はルナティックの罠で……」
「ーーああ!!あの例の依頼か!!」
よりにもよってスマートと全く同じ言葉を投げかけて来るので、思わず嫌な記憶がフラッシュバックしたのだ。
そこまで言わずとも、巧はその先の言葉を察し苦笑いをしてみせた。
「まあ、そんな事もあるって。気を取り直していこうぜ」
「ああ、それはもちろん」
今回の依頼主は、きっと普通の人だ。
しかも今回は僕の傍には巧もいる。きっと大丈夫。
半ば自己催眠みたいな形で自分にそう言い聞かせ、僕は巧と共に天然のダンジョンへと足を踏み出したのだった




