148. ハブルーム再び
懐かしい香りがする。
青臭い、草と土の匂いが鼻を通して肺を満たす。
「ここがハブルームかー!」
惑星ハブルーム。
緑と緑と緑しかない、植物の惑星。
「巧はハブルームは初めて?」
深く深呼吸してマイナスイオンを全身で感じていると、少し離れた所で巧が騒いでいたので声をかけながらゆっくりと歩み寄る。
そよ風が何とも気持ち良く、建物の外に出ると例によって僕の視界は一面緑で支配された。
「ああ。めっちゃいい所だな!」
「日本では見られない光景だよね」
「決めたわ、俺老後はここに移住する」
「気が早くない?」
僕が前にこの星に来た時はそれぞれの方角には森、草原、大樹、村があってめちゃくちゃシンプルな地形だったが、今回はクリスタルの大樹と言うだけあって地形はもっとシンプルだ。
後ろ……と言うか、転移先は村。そして前方に見えるのは……
「あれが大樹か?」
「かな? なんか凄いね」
前方に巨大な何かが見える。多分アレがクリスタルの大樹なのだろうか。
大樹らしいが、その根元付近に居るせいで最早巨大な茶色い壁にしか見えない。上を見上げればそれは、若干ピンク掛かった光りかたをしていた。
……新しく買い直したスカウター曰わく、これが大樹で間違ってはいないみたいだ。
「行ってみるか」
「うん」
……今は亡きルナティック首領・リーグとの戦いで壊れてしまったから買い替えたが、このスカウターはなかなか使いやすい。
特に自分のシールドの損傷値が大まかに分かるってのがいい。
「ところで、この大樹前って具体的にどこら辺が大樹前になるんだ? 目の前大樹しかないんだが」
「それな」
依頼主が見当たらないのだ。
巧の言うことはごもっともで、目の前に大樹しかないのに待ち合わせ場所が大樹前というのがイマイチ不可解だ。
……まさかまた、そう言う事なのか?
「あのさ、彗お前なんでここで武器を取り出してるんだ」
「前にハブルーム星関係の依頼でちょっと苦い思い出が」
手元に拳銃を手に取り、辺りを見回す。
怪しそうなフードの人間とかは居ない。
大丈夫だろうか。
「とりあえず大樹前が何処なのか探してみようか。念の為に僕が先導する」
そう言って巧を無理やり隊列の後ろに引き連れて僕はとりあえず歩き始めた。
「いやお前警戒し過ぎだろ。トラウマか」
「否定しない」
「しないのかよ」
「初めての依頼がハブルーム星での人探しだったんだけど、その依頼人の正体がテロ組織の幹部で、村人のほぼ全員を実験台にして巨大な木の根の塊にして襲いかかって来た事って前に言ったことあったっけ」
「随分と予想の斜め上を行く初仕事だな!? そこはスライムとかゴブリンとか、ドラゴンとかじゃないのかよ!?」
「今だから言うけど、僕もそういうのを期待していた」
そう。
よくあるスライムやゴブリンとの初エンカウントとか、チート能力で無双するタイプならドラゴンとか、心の片隅ではそんな物を僕は期待していた。
ところが蓋を開けてみたらどうだ。
依頼主がルナティック幹部のスマートで、訳の分からない種を村人に植え付けて遊んでいて探していた村人がゾンビみたいなノリで襲ってきたのは控えめに言ってトラウマだった。
最終的にそのトラウマでしばらく依頼を受けるのを控えていたのも記憶に新しい。
……あれ?
「巧、あれ魔物だよね?」
「魔物? うおっデカいな」
村から外れて、少し歩いた先に蠢く影があった。
光の玉を詠唱破棄で作り出し上空に打ち上げて光源とすると、照らし出されたのは巨大なカタツムリが前方に2体。
「よし、早速魔物討伐だ!」
「うおお腕が鳴るぜ!」
「巧はどんな魔法使えるんだっけ?」
「あ? 魔法……」
風の音が嫌に冷たく感じた。
「どうしたの?」
静寂が辺りを包む。
「……知らない」
「へ??」
「いや、だから知らないんだってば」
……ええええええええええ!!?
って、僕も人の事言えないけれども。
「魔法知らなくて、どうするのさ」
「いや……武器だけで何とかなるかなって……」
「なる訳ないじゃん」
思わずそう突っ込む。
歴史は繰り返すのだ。
こうなったらあれをするしか……
「……もしもし?」
◇
「1つ、いや2つ、文句を言わせてもらうわー」
「……はい」
「まず、何で本屋で『初歩からの戦闘魔術』とか、
『初心者の日用魔法集』とか、
『困った時の魔法百選』とか、
『生死を左右する魔術』とか、
『ミミズも出来る魔法』とか、
『魔法ヲタの選ぶ魔法』とか買わないわけー?」
「……悪かった」
「そして、分からないのになんでこなとか、私の飼い主とか、ザントとか、私とか、マヨカとか、受付とか、レメディとか、その他の魔法使いさんとかに教わろうと思わないわけー?」
聞き覚えのある罵倒が巧に浴びせられている。
そう言えばこんな説教もトラウマの1つだったと思い出している間も、彼への罵倒は続く。
「何なの? バカなの? 頭がバーン!なの? ソコにいるアクロマイマイに喰われたいの? 変態なの? ドMなの? 自殺志願なの? 死ぬのー?」
「……ドMはどちらかと言うとそこにいる彗でーー」
「口答えするなんていい度胸してんなー? あーん?」
今、僕の親友は犬から猛烈なバッシングを受けている。
犬の名前は伊集院ナナ。伊集院君のペットだけど、X-CATHEDRAでは四天王と言う超エラい職に就いてる。
「考えらんなーい……2人して何なのかしら、歴史は繰り返すって言うけどー……彗に続いて巧まで……」
「……ごめんなさい」
若干涙目の巧、そして呆れて物も言えないナナ、その両方に僕はそっと同情した。
「じゃあ、今から教えてあげるから……彗、あのアクロマイマイ始末しておいてねー」
「えっ、僕が?」
「アンタに魔法を教授出来るのー?」
……はい。出来ません。
「しょうがないなあ」
ポケットからカプセルを取り出し、魔力を込めればそれは大きな剣へと変貌する。
前にナナから依頼の報酬として貰ったこの剣は、スレイザドラゴンと言う。
「あー、私のあげた剣まだ使ってたんだー。って、ちょっといい?」
「何?」
首を傾げると、ナナが少し下がり、助走を付ける。
「……トゥッ!」
突然、顎に衝撃が走る。
「おふっ!?」
顔面に肉球がクリーンヒットすると、口の中に草が入り込み思わずむせ込む。そこでようやく僕が地面に倒れていた事に気付いた。
……飛び蹴りされた!?
「あのねー、ツッコミ所多すぎなのよー」
「痛いよ!」
「当たり前じゃない、それ竜殺しに特化した剣よ?あんなヌメヌメした虫に効くとでもー?」
……効かないの?
「大丈夫かなーって」
「アンタたち仲良くアクロマイマイにもぐもぐされてくるのをおすすめするわー」
「も、もぐもぐ?」
巧が思わず聞き返す。
「……アクロマイマイは肉食なのよ。どうなるか知りたいー?」
あ、巧ピンチだ。
「え? いやナナちょっと近いってば待って何か怖いうわ何をするやめろぐあああっーー!」




