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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第10章〜Restart〜
143/269

142. 皇女は虫除け

「ふーん、遊びに来てたんだ」

「うん、母さんがたまたまチケット当てちゃってさ」


 人が増えた結果足りなくなった飲み物を、伊集院君が新たに買いに行っている間に理恵(こな)がそんな事を言う。


「いやーびっくりした、ここの経営者魔法使いだったのかよ」

「マリシムシティ株式会社。株主も大半はこっち側(・・・・)よ。あと、聴かれやすい場所で迂闊に魔法使いって言っちゃダメ」

「あっ、やべっ」


 曰く、ゲートを潜った瞬間に何故かマリシムシティの社長が偶然通り掛かり、魔法界で知らない人のいない伊集院くんはそのまま僕と巧の知らぬ間に拉致られていたとの事。

 いや、そりゃあ伊集院くんも普段から妙に気配の薄い人だけれども、そこはせめて一言言って欲しかったというか、なんというか。


「はい、お待たせ」

「わーい」



 伊集院君が欠伸を噛み殺しながら戻ってくる。すると真っ先に2人の子供たちが飛びかかり伊集院くんから飲み物を強奪していく。


「ところで伊集院くん、この子達は?」

「ん? ああ、こいつらはエレボスとアイテル。俺の再従兄弟(はとこ)

「はとこ……えっはとこ!?」



 フライドポテトを手に取ったソラが伊集院くんの言葉に何故か過剰なまでに驚き、ポテトをシートの上に落とす。


「えっ、でもこの子達金髪じゃん」


 峰さんがそう指摘すると、彼は笑った。

 確かに、はとこと彼は言ったが髪の毛は金髪だし、目が伊集院君と違って水色だ。ハーフなのだろうか。



「まあね。こいつらはキ……いや、実際に見せた方がいいか。2人とも帽子取って」


 伊集院君がそう言うと、二人が露骨にいやな顔を見せる。


「え~」

「やだぁ」

「いいから取れって。【時空隔絶(マジステ)、2メートル】」



 一瞬何が起きたか分からず頭を傾げると、突然世界に異変が起きたことに気付く。


 世界が停止していた。


 流れるプールも、波打つプールも、プール沿いに歩いていた人も、友達にプールに突き落とされようとしている人も、皆ビタリと静止したのだった。


「ちょ、伊集院くん!?」

「えっと、俺の半径2mより外の時間の流れを1万分の1に変えた。これなら一般人に見られる事もないだろう」


 サラリと彼はとんでもない事を言う。


「いやそんな事より、今の魔法って暗黒……!」

「ああ、大丈夫よ。コイツ今Vl(バイルライセンス)携行中だから」


 ソラが目を見開きながらとんでもない事を指摘すると、横にいた理恵がそう返す。


「時空魔法は基本的にその全てが暗黒魔法と言う、負の力を利用した極めて危険な魔法なんだ。このドライブはそれを無害化する特殊なドライブなんだよ」


 まるで理解の及ばない僕と峰さんに対してそう伊集院くんは返した。

 ソラはそのドライブの名を聞いた瞬間にああ、と何やら納得し肩の力を抜いた。


「いきなり暗黒魔法使うからびっくりした……」

「で、時間をほぼ止めるような重要な事なの?」


 峰さんが思わずと言った様子で指摘する。

 時空魔術を使用して世界を止めなければならないような秘密が、あの帽子の下にあるとは思えないのだ。


「まあ帽子取れって。取らないと剥ぐぞ」

「でもあのお兄さんは?」


 そう言うとエレボスくんが指を指す。


「あ……まあ、いいや」



 伊集院くんが片眉を上げながら指の指す方向に首を捻ると、その先にあった光景に思わず瞬きをし、何事も無かったかのように再び僕達に向き直る。



「た、巧……」



 まあ、巧が円の外に居て時間が止まっているが害はないだろう。


「いいんじゃないの、別に〜。知らなくても死にはしないでしょ」

「うむ。それに多分天野さんはそんなに驚かないだろうしね」

「え、ウチが?」



 徐々に巧の扱い方を心得はじめている伊集院くんたちに静かに感心していると、おもむろに二人が帽子を外して見せた。


「……えっ!」

「マジ!?」

「すごっ!!」



「こいつらは地球人とシャット星人の間に生まれた、地球/シャットのキメラ人だ」


 頭には猫耳……と言うには少々疑問の残る、白い耳が一対。


 猫耳……いや、キティ耳。


 うん。


 とにかく、本来耳のあるべき所には耳がなく、代わりに頭の上部に白い突起物がふたつ。

 彼らの帽子の下はそうなっていた。


「――キメラ!?」

「――キメラ人!?」


 峰さんと僕の声が被る。


「地球人とメタリック星人のハーフなんだよ」

「ああ、そういう事……うん。まあ、確かにこれは時間止めないと外せないわ……」


 うんうんと納得する様子のソラを見ていると、伊集院くんは二人に告げる。


「もう帽子被って良いよ」



 2人が帽子を被ると伊集院君が何かを唱え、世界が再び動き出す。

 なるほど、猫の耳みたいなのが付いているなら、帽子をつける必要はある。



「最近増えてるんだよ、キメラ人って。こいつら一応しっぽもあるよ? こなより更に情けない程度だけど」

「うるさいわねー、使わない器官は退化して行くのは生物の常識よ」


 しっぽ……しっぽなんてあったのか。

 男の尻に興味はないが、キメラ人のしっぽには興味をそそられる。



「ん? 何? 何??」


 そんな事を密かに考えていると、時間魔法の影響で何も知らない巧が瞬きを繰り返しながら声を上げる。

 

 かわいそうに……後で教えてあげよう。



「じゃあ、私はそろそろ帰るわ」

「ん、もう帰るの?」

「この後メタリックで会議があるのよ。私はコイツ(伊集院)に突然呼ばれただけよ。いい迷惑だわほんと……」

「殿下の御力で休暇中に降り掛かった災いを討滅出来て大変幸いで御座います」

「死んでくれないかしらほんと」



 人工要塞惑星メタリック。

 あまりそんなオーラが出ていないのでたまに忘れるが、彼女は皇女様。

 そんな皇女様がここにいるのは、どうやら伊集院君があの社長から逃げるための物だったらしい。

 確かにいい迷惑だ。


「どこから帰るの?」

「女子トイレ。全室個室だしワープしてもバレない」

「なるほど……」

「じゃ、そういうわけだから」


 そう言うとこなは立ち上がり、適当に手をヒラヒラとさせながら去っていく。


「で、お前らはなんでここに居るんだ」


 伊集院君が腕を組みながらそう双子に話しかけると、彼らの片割れがポケットから1枚の手紙を取り出す。


「エリアから」

「ああ、エリアね……今地球に居るのか」

「帰ってきてるよ」

「はあ……そうか……」


 手紙をサッと伊集院君が読むと、用が済んだのかキメラの双子が僕達のシートから立ち上がる。


「じゃあ、僕達はこれで」

「お邪魔しました」

「はーいまたねー」


 そう言って、彼らもまたトイレへと向かう。

 トイレへと向かうということは、そこからワープして何処かへと消えるということだ。



「所で、伊集院君はいつ着替えるの?」

「あっ……言われて見ればそうだな。失礼」

メタリック星人とシャット星人は同一種族です。

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