138. 新たな幕開け
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
場所は変わり、X-CATHEDRA本部1階受付。
今日は給与支給日だ。ここの所のルナティック騒動の報酬は支給されていないが、蠍事案までの物については本日支給だ。
受付の妖精みたいな女性に報酬の入った小包を受け取り、それを開けるとそこにはキャッシュがジャラリと並べられていた。
うーん、最高だ。重たい。受付もリアル妖精だし夢みたいだ。
これが日本円なら大金持ちだ。
一体何に使おうか。このまま宇宙で散財してもいいし、円に変えて豪遊してもいい。素晴らしいな。
「あら、彗ー!」
小包の中身を魔法で拡張した財布にしまい込むと、丁度見知った声が彼方から聴こえた。
「こな!テレビは終わーー」
「キャー!こな様!!こな様が居るわ!!!」
「えっ!?」
「こな様ですって!?」
「こな様ー!!!」
SPに囲まれながら現れるこなに返事をしている傍から周囲から悲鳴が聴こえ、人が殺到する。
SPがそれらを阻止しようと動くと、こなは露骨にため息を吐き、有無を言わさず僕の腕を掴んで空間転移した。
「はあ。有名税もしんどいわね……」
「あのモンスター共は、何」
「私も迂闊だったわ」
こなは言わばスーパースターだ。
総帥室に転移して一息ついた彼女はそのまま彼女の椅子にドカッと座り込んだ。
今回の一件で、彼女はますます支持率を高めている。
マスコミの論調は揃ってこなたちを称えており、人は皆ギルドの功績、そして参加者の功績を称えていた。
流石にルナティックメンバー再雇用の話が出た時は世論はザワついたが、そこは伊集院くんやグレイスが説き伏せてしまった。何なんだこいつらは。
「……で、さっきはなんて言おうとしたの?」
「あ、うん。テレビ終わったのかなって」
「ああねー、今日の分の収録は終わったわよ。そっちはどうしてるの?」
「今日は報酬支給日だからさ」
「あーねー。そう言えばそうだったわ。今回の捕物、ぶっちゃけ大盤振る舞いしているから予算に対して真っ赤っかなのよね……」
そう言うと彼女は腕を組み、眉間に皺を寄せた。
「そ、そうなんだ」
「しかも今回の件で私も残党とかに狙われてるから、実家から要らないSPも付けられるしね。いや、確かに私の立場ってギルドマスター以前に皇位継承権第一位ではあるし立場だけ見たら確かに妥当ではあるんだけれどね? ほら、私って仮にもここ5年ほどは世界最強の生物って事になってるし? この世には私よりも遥かにか弱い哀れな生物しか存在していないのに、わざわざ足枷になるようなSPなんて要らなくない? 制度というのも時には考えものよね」
やれやれと言う感じで彼女は腕で天を仰ぎ、また腕を組んだ。
言わんとすることは分かるが、何とも返答に困る内容だ。
「……まあ、敵が必ずしも1人で来るとも限らないし」
「まとめて消し炭にすりゃ良いだけだから何人来ても一緒よ。伊集院が10人とかいたら流石に考えるけどそうじゃなきゃ誤差。それとも私を疑ってる?」
「いやそういう訳じゃ……」
「――お前また彗を虐めてるのか」
「チッ、厄介な奴が……」
こなが振り返った先に居た10人いたら考えさせられる彼は、空中で足を組みながら優雅にお茶を飲んでいた。
「厄介な奴で悪かったな」
「私今日はめんどくさいコメンテーター捩じ伏せるのに追われて疲れてて機嫌悪いの。ついでに言えば、予算オーバーな今回の報酬もあるしとても機嫌悪い。それはもうとても」
「分かってるよ」
極めて珍しいことにこなを煽らない彼は一杯のアイスティーをこなに差し出した。
珍しい。このアイスティーに毒が混じっていたりしないだろうか不安になるくらいには。
「あら、気が利くじゃない。彗は?」
「僕はいい」
ふーん、とまた言うとこなはそのアイスティーを受け取り、伊集院くんと共に優雅なティータイムを開始する。
「あれ、最近一緒にいるむさ苦しい金魚のフンは?」
「下で撒いてきた」
「賢明な判断だ」
そう言いながら、伊集院くんはお茶にどこからともなく出現した黒砂糖を投入し始める。山のように。それ砂糖の味しかしないんじゃ……
一瞬静かな時間が訪れ、僕を蚊帳の外に彼女たちを癒した。
「所で、この後のリーグの追悼式には出るのか」
「あー、一応出るわ。天使の反応はどうだった?」
「無かったな。新しい契約者が現れるのはいつになることやら……」
伊集院くんはそう言うと肩を竦め、更に黒砂糖を投入する。まだ入れるのか。甘すぎないかそれ。砂糖水ならぬ砂糖お湯になってないか。
「あのさ、天使って、何?」
「天使? ああ、説明したことないっけ。その名の通りだよ」
この宇宙には、天使という物が存在する。彼はそう切り出した。
「天使はね、大元は地球人とαハブルーム星人のキメラ人でね」
「元は?」
「かつてのキメラ戦争から更に2000年ぐらい前に、人体実験をして生まれたキメラに更に人体実験を行い、生まれたとされるのが天使だ」
天使は人の器に強大な魔力を宿した魔物。
姿形は違うが、早い話が知能を持った魔竜ヴァリエ現象のような物だと彼は言った。
「天使を誰が最初に作ったのは、それはこの宇宙の歴史から抹消されていて誰にも分からないわ。でも、天使は確かに存在し、その魔力と古の魔術による奇跡で人を魅了してきた」
そんな天使たちは、時たま人の前に現れては契約を交わし、その御力を振るわれる。
天使に魅入られた人は往々にして強大な力を持ち、奇跡を巻き起こす力を得る。
天使はその器を磨り潰す代償に受肉させる事も可能で、天使と一体になった尖兵がかつての大戦争でキメラ軍相手に使われたとされているとこなは続けた。
「俺とこなも天使と契約をしているが、俺たちは天使持ちの居場所を特定し監視する事もしている。何せ神の意志に最も近い存在たちだからな」
「ちなみにコイツはガブリエルと言う天使と契約をしているけど、最近よりにもよってマスティマとか言う悪魔みたいな天使とも浮気したわよ」
「こなはミカエルと契約を結んでいる。ちなみにこいつはミカエルを受肉させて日常的に踏み潰して遊んでいる」
そう言うと2人は一瞬お互いに軽蔑の眼差しを向けあった。
「リーグは?」
「サリエルだな。死を司る天使で、直接的に危険な天使だったから本当はリーグを生きたまま捕まえて、せめて天使だけでも引き剥がして管理下に置く予定だったが……」
「出来なかった?」
「ああ。天使の厄介な所は、契約者が死ぬとまた別の契約者が現れるまでどこにいるか分からなくなる」
「天使って、捕まえられるんだ」
「特別な技術を必要とするがな」
お茶を飲み終えた伊集院くんがため息を着くと彼のカップが煙のように空気に解けて消えた。
「まあ、そんな訳で私たちは天使を探しているわけよ」
「端折って説明したが、天使は放置しておくと危険なのでな」
「そうなんだ……」
こながお茶を飲み干すと同時に、総帥室の扉が開く。
「あら、もうそんな時間だったかしら」
「……何故貴様がここにいる」
氷のように冷たいその声を聴き振り返ると、そこにはかつて僕が倒した奴らが並んでいた。
その姿に、反射的に身構える。
「スマート……」
「あー彗、こっからは悪いけど席を外して。重要な会議をしないといけないから」
「あ、うん」
元ルナティックスターズが勢揃いだ。
スマートとピアースはあの後、X-CATHEDRAによる再雇用を断った。よって今日限りでこの組織を去る。
本来ならば極悪人で死刑もあったが、彼らはリーグの死後は概ね協力的であると言うのはピンキーからの報告であり、司法取引もあって大幅に減刑された。
但し、彼らは技術等の流失等を防ぐため、魔力を織り込んだ契約書でルナティック関係の事柄については一切の口外を封じられている。しばらくの間は監視付きかつと言う条件を元に彼らは釈放される。
一方で、デュセルヴォとセルティネスの魔獣組はそのままX-CATHEDRAに取り込まれることとなった。
やはり監視下なのは変わらないが、彼らはこれからは僕達の同僚になる。正直複雑だ。
というか、僕ら正直まだ彼らを仲間に迎える事について、気持ちに折り合いをつけられていない。
だから僕はそのままエレベーターへと向かい、そのまま立ち去った。
帰り際に一瞬振り返ると、こなは難しそうな顔をしていた。
◇
「それにしても、まさかマヨカが開発したオナラ濃縮銃弾が勝敗を決めるとは思ってなかったわねー」
「だな。彗の奴、いつの間にあんな物手に入れたんだ? 謎だ……」
「……あれは、我らからすれば屈辱の極みだ」
「ああ、納得が行かん」
「ところで、今日アンタたちわざわざ集まってもらった件だけど。アンタたち、リーグが持ってたアレ、何処にある?」
「……何?」
「アレが消えて無くなっているんだよ。可能性としてはお前らが回収しているかと思っていたのだが」
「まさか。我々はリーグ様に退場を命じられてからそのまま下がっている」
「そうよねえ。X-CATHEDRA幹部や彗も全員確認したけど持っていなかったし」
「ファントム様が持って行った可能性は?」
「無いわね。リーグの死とともにこの世界を去ったのを確認しているわ」
「となるとやはりあの場に第三者が居たと考えるべきか」
「……第三者、だと?」
「『アレ』が無くなったって事は、もしかしたらアンタが懸念してた事態が起こっているのかも知れないわね……」
「というわけで、セルティネス、そしてデュセルヴォ。貴方達に復帰後最初の依頼を与えるーーちなみに拒否権は無いわよ」
「スマートとピアースは正規社員では無いから義務はないが、一応お前らも関係者ということで特例で依頼受諾制限を解除しておく」
「ーーリーグが作ったSTARを、命に変えてでも探し出しなさい。アレがもし、テロ組織の手に渡ったら大変なことになる」
第一部完です。
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