131. 空中庭園の戦い
無機質な金属音と共に、リーグの掲げた銃が伊集院君の心臓を捉える。
「さっき少しやりあったから大方分析は終わってる」
「そっくりそのまま言葉をお返しするよ」
その言葉で僕は二人の体に少し、傷が目立っている事に気がつく。
「――【機関掃射】!」
「【ブラックバリア】!」
マシンガンの様な乱射が伊集院くんが纏った黒いオーラに注がれる。
「はぁっ!」
「ハッ!」
槍で切りかかるザントをファントムが尻尾で防ぐ。自分もまた銃を手にリーグに対して銃撃を行うと彼は素早く武器を剣に持ち替え僕の攻撃を弾き飛ばして見せた。
「――【隕石】!」
「――【隕石】!」
伊集院君とリーグが共に剣を相手の方に向けて呪文を唱えると、同じ呪文で一気に隕石が無数に降り注ぎ始める。
「【砂嵐】!」
そしてその後を追うようにザントさんが呪文を唱えるとファントムを閉じ込めるように砂嵐が巻き起こり攻撃を始めた。
「【落石】!」
僕もその砂嵐の中に落石を叩き込み、援護をした瞬間リーグが詠唱を破棄し僕へ向かって鋼鉄のゴーレムのアームを放ち、僕はそのまま壁に叩きつけられる。
伊集院君がダークセイバーを振るうと共にリーグは剣を彼に向け、2人が斬り合いを始めるとファントムが砂嵐から抜け出し空中で縦に高速回転を始める。
「円月断――」
「【箒斬り】!」
ファントムが現れ、斬り掛かろうとした瞬間に彗星の様なカッターが死神を刻む!
「ぐああっ!」
「【エナジーフィッション】!」
「【マグナム砲】!」
「【鉄の壁】!」
地面に叩きつけられるファントムにザントさんが下突きで追撃しようとするファントムがそれを紙一重で避ける。
突き刺さった槍の力で床が抉れ、瓦礫が噴き上がるとそれが更に落下しリーグとファントムへと襲い掛かる。
しかしその隙を突きリーグが強力なマグナム魔法を放ち、それを僕が鉄の壁で防いだ。
その間に伊集院君が腕を組むと彼を包むように黒い魔法陣が現れ、彼は分身し僕達の周りをグルグルと周回するように回り始め、真空のリングを放ちファントムとリーグに対して攻撃を仕掛けた。
「貴様、味方まで巻き添えにする気か!」
「どうせ2人とも巻き添えにならないくせに」
伊集院君はそう言うと、一斉に分身たちが真空のリングを乱射し始め、辺りが切り刻まれる。
自分もまたザントやファントム、リーグに混じりその攻撃を回避し、一瞬の隙にチャージショットをファントムへと叩き込む。
「【邪月斬】!」
「【機関掃射】」
分身した伊集院君のもとにファントムから三日月のカッターが迫り、リーグが銃を片手に機関銃の様な弾幕を浴びせ分身を攻撃していく。
「お前の戦い方は何時見てもトリッキーだな……【塩基の花火】!」
リーグの詠唱によって、爆発する塩基性の爆弾が空中に放たれ炸裂する。これを僕は詠唱を破棄して炎の壁を展開しやり過ごすと再び銃撃が始まり、僕は剣を手に取りその弾丸を弾いて行く。
「【棍棒根】!」
「【フレイムリフト】!」
リーグの詠唱によって床から緑色の蔦が伸び、叩き付けるように振り回される。ザントさんがこれを切り払うと同時に僕は其処に火の玉を撃ち込んでいくと、リーグが再び呪文を唱えて見せた。
「【鉄爪拳】」
「ぐあっ!」
さきほど伊集院くんを攻撃していた鋼鉄製の腕が伸びて、僕は宙を舞った。
平衡感覚を失いながらも僕は宙で照準を合わせてファントムを狙い撃つと彼女はその巨大な刃の尻尾でこれを受け止め、お返しに真空の衝撃波を放つ。
僕はそれに対して、天に向けて発砲してその反動を使い急降下し衝撃波を回避し、続いて真下に銃撃をする事で落下の勢いを殺して強引に着地。
伊集院君の分身がリーグの掃射で全て掻き消されると同時にリーグの銃口に黒い魔法陣が展開されリーグは苦しそうに呻いて見せた。これは呪いだ。
「【激光】!」
たまらずリーグは眩い光を放ち全方位に攻撃を仕掛ける。僕は再度炎の壁を作り出し身を焼く光から身を守ると、再び銃撃が僕達を襲う。
「いっけぇー!」
しかし目が焼けるギリギリまで狙いを定めて、僕もチャージショットを放つとリーグがそれに被弾し空中で一回転しながら着地をして見せた。
「【黒輪】!」
ファントムの呪文で黒い闇の車輪が出現しザントさんを轢きに掛かる。
これをザントさんが槍でいなすと、ファントムが剣の様なしっぽで斬りかかっていた伊集院君の剣を受け止め、リーグが詠唱を破棄して風の大砲を此方へと放つ。
「【ウインドブーマー】!」
「【ワームホール】」
僕が反応出来ずにいて攻撃を受ける姿勢を固めようとした瞬間、伊集院君が横から僕の目の前に空間の穴を2つ作り出し、風の大砲を飲み込む。
飲み込まれた風の大砲がもうひとつの穴からそのまま吐き出され、リーグへと向かって飛んで行くとたまらずリーグが防御姿勢を取り、僕はそこに向かって自分もまた詠唱を破棄した風の大砲を重ね掛けして追撃する。
これをファントムが身代わりとなって受けると、ファントムの身体から血が噴き出す。しかしそれを意に介さずと言った様子でファントムは尻尾から衝撃波を再び生み出し、僕達に反撃する。
「【ダークスターブラスト】!」
リーグの詠唱にハッとなり、詠唱破棄で炎の壁を展開する。
作戦会議で言われた逆五芒星の光線がその炎の壁を突き破り、僕へと迫る中自分で防御姿勢を取った瞬間、ザントさんが飛び込み僕への攻撃を受け止め大きく宙を舞った。
「ぐはっ……!」
「ザント!」
「ぐっ、クズが……次は、こうは行かないぞ……!」
「シールドが割れた、か。【奪え サリエル】!!」
ザントさんの輪郭からシールドを形成していた魔力の膜が崩れ落ち、ザントさんが槍を支えに立ち上がる。
すると、リーグの聞きなれない呪文と共に巨大な魔法陣が彼の後方に出現し、魔法陣が黒く染まると灰色の光と共に得体の知れない何かが顕在した。
白い翼を蓄えつつも黒いローブのような物を羽織り、顔の分からない何か。武器として大鎌を持ったそれは、そのまま目にも止まらぬ速さでザントさんの元へと滑るように移動し、その鎌を振るう。
それをすんでのところで剣を使い受け止めたのは伊集院君だった。
彼は鎌をダークセイバーで辛うじて受け止めると、その隙にザントさんが移動し距離をとって見せた。
「死の天使サリエルか」
「死神ファントムに魅入られ死の天使を使役する死にたがりなんだよ」
「はっ、なるほどな……」
「彗、お前は回避姿勢を取れ。リーグ……お前は……」
ザントさんと伊集院くんが短く会話を交わすと、彼は見覚えのある魔法陣を展開しながら僕にそう告げた。その声は微かに震えていた気がした。
「【スターダスト】」
隕石の嵐が吹き荒れ、庭園中に爆発が巻き起こる。
僕は咄嗟に鋼鉄の壁を作り出し、ザントさんを鉄の壁の傘に引きずり込み伊集院くんの無差別爆撃を回避した。
煙が立ち込める中、誰かが風の魔法を使い煙を吹き飛ばすと、目の前にはリーグとファントム、そして穴だらけになった天使が佇んでいた。
「ダークスーー」
「【光の螺旋】!!」
リーグが呪文を唱え切る前に、詠唱しバネのように歪んだ光の光線を銃から放つ。
躱しきれずに僕の攻撃に被弾したリーグの輪郭から、鏡が割れるような音と共に魔力の雫が散乱し蒸発していく。
彼のシールドが破壊されたのだ。
「リーグ」
「俺が……負けただと……」
「そうだ」
「そんなバカな。俺はお前には二度と負けない。そう誓ったんだ」
「だがこれが現実だ」
伊集院くんの冷たい声に対して、リーグは瞬きをすると深く溜息をつき、目を閉じた。
「そうか……天使の力を持ってしても、お前らと俺の間には壁があるのか……」




