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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第9章〜Stagnant Saga〜
131/269

130. STAR

「ルナティック衛星テラスねえ……」


 転送装置から降りて、マヨカが転送装置に記載された情報を眺めながら呟く。


「まるでどっかの庭園みたいですね」

「リーグ地球人だし、地球の庭園なのかしら」


 グレイスがマヨカとそんな話をする。

 確かに、地球のヨーロッパら辺のどこかで見たことのあるような庭園だ。

 迷路のように入り組んでいるが、その造形はなかなかに美しく、およそここが最終決戦の場所であると思えないようなそんな場所。


「今の揺れは?」


 ふとピンキーが口を開く。

 彼の言葉に意識を集中すると、時折地響きの様なものが確かに伝わってきていた。


「急ぎましょう!」


 グレイスの言葉に僕達は頷き、僕たちは壁の間にある道の中を一斉に走り出した。

 茨のような物が絡まっている壁を頼りに走り、やがて僕達は分岐点へと到達する。十字路だ。


「分岐点か」

「マヨカ、熊と左へ行け。亀、貴様は蠍と右だ。新入り、お前は俺とだ!」


 ザントさんの指示に従い、マヨカとピンキーが走っていく。蠍とピーカブーもまた彼らとは反対方向へと走り去り、一斉に僕たちは散る。


「ザントさん、今の揺れは」

「恐らくは伊集院等がやり合っているんだろうな」

「伊集院君、が?」

「ああ、間違いない――出口だぞ」

「……!」



 ザントさんと共に走ると、やがて目の前が開けていく。そして僕らの目前に広がったのは、一際大きな広場と、謎の小さな機械を持つリーグだった。


「これは……」


 そんな疑問から静かに足を踏み出した瞬間、転送音がバシュバシュと鳴り、目の前に人が4人、立ちはだかった。



「待て!」

「ここは貴様等のようなゴミが足を踏み入れられる場所ではない」

「命に代えてでもお前等は切り捨てる!」

「この最終防衛ラインは突破させぬぞ……」

「覚悟なさい!」


「チッ……」


 スターズ……勢揃いかよ……!



 武器の剣を取り出して構えると、また地面が大きく揺れてみせる。


「うおっ!?」


 広場に突然舞い上がる砂埃。

 スマートらルナティック・スターズたちも思わず振り返ると、そこには巨大な鋼鉄の腕に押しつぶされた伊集院君が姿を表した。



「待っていたよ、ザント……そして、星野君」

「リーグ様……!」

「やめるんだ、下がれ」


 そう言いながら彼は鋼鉄のアームを引き剥がす。伊集院君は血を吐き捨てると起き上がり、僕達の傍に瞬間移動をしてやってきた。


「し、しかし!」

「彼らがここに居るって時点でお前たちが負けてきたのは分かっている。お前たちが適う様な相手じゃない」

「……」

「下がれ!」


 リーグのその言葉に、スマートの顔が少し歪む。それだけでは無い。全員がバツの悪そうな顔をして見せたのだ。


「……ちっ」

「了解しました」


 そしてそのスマートの一言でスターズは皆蒸発していく。



「――久しぶりだね、ザント」

「ああ」


 辛うじて返事をするザントもまた、苦瓜を噛み潰したかのような顔をしている。


「そして……意外だった。君が来るとは。えーと?」


 どこからともなく現れた紙をめくり始める彼の仕草はとても今の空気とは釣り合わない。


「ああそうだ、下の名前は彗だね」

「リーグ、これで勝ち目はほぼ無くなったぞ。何故最近になって急に事を荒げる」

「……」


 伊集院君はそう問いかけると、彼は僕たちに背中を見せて僅かに歩く。


「完成したんだよ、僕の理想が……君たちの理想が……」

「はい?」


「X-CATHEDRAの存在意義は、この世界を守ること。かつて君はそう言ったな。では何故、守る必要性がそもそもあるんだ? それは宇宙全域に害悪を振りまく悪が蔓延(はびこ)っているからだ」


 彼が静かにこちらに振り返り、話を続けて見せた。


「ではその悪はどうすれば減らせるか? 何故そんなにも、何かに怯えるかのように監視の目を拡げ、宇宙を護るという大義名分の元に悪逆の限りを尽くした? そこで思い至った。そもそも悪の心がいけないのだと。悪があるからいけないのだと。悪を働く理由を取り除くことが出来れば、このギルドも大義名分を失うのだろうと。では悪を行う理由とはなんだ?」


 リーグが此方を向く。

 赤と緑の瞳がこちらを捉える。同じ男だけれども、綺麗な瞳だ。


「……そんなの、人によって違うだろ。悪に走りたくなくても走らなきゃいけない人だって居る!」

「そう!そこだよ彗君!悪は時として望まぬ形で現れる!そして悪とは人の心から発生する!それは他の人間に害を与え、やがて悪の『被害者』は『加害者』となる!悪は連鎖する!!」


「貴様……何が言いたい」

「君のようなヤクザには――心からの悪人には分からないよ、ザント。そう、悪の根源は心にある。ならばその悪しき心を絶てばいい。其処で登場するのがこれだ……」


 リーグが掌をかざすと、その手に星型の小さな機械が出現する。

 その機械はまるで金平糖の様な見た目をしていて、なおかつ金色に輝いていて異様な存在感を放っていた。


「心とは空間だ。故に心と言う空間の中に干渉し、その悪意を切り取れば良いのさ。これを実現する僕の発明こそが……このSTARだ」


「スター?」


 思わず聞き返す。



「フフフ……Shadow(シャドー) Tearing(ティアリング) Analyze(アナライズ) Robot(ロボット)、略してSTARだ」

「影を裂く分析ロボット……? お前のネーミングセンスはマジでどうにかならないのか。この訳の分からない機械が到底この宇宙を根底から変えるとは思えないが……」


 この時僕は伊集院君の英語力に感心した。

 そしてこっそりとネーミングセンスの微妙さに同意する。


「これはその名の通り、人の心に干渉して解析し……その中に悪しき心を検知したらそれを引き裂き分離させてしまう優れものだ。これさえあればこの世から悪は消え去る」

「そんな物、まともに実現出来るとは思えないな。空間魔法学をちゃんと修めて無い者の戯言(たわごと)だな」

「ああ、同感だ。これでも俺たちは空間魔法学には詳しくてな」


 伊集院君とザントさんが揃って懐疑的な表情でリーグの演説を聞いていた。

 しかしその流れが一変したのはこの直後だった。


「あぁ!そうそう、この機械はとても面白くてね、

この抜き出した悪の心を所謂『キャッシュ』データとして溜め込む事が出来るんだ。そしてそのキャッシュを基に抽出した悪の固まりを……『人の影』を魔力生成できる」


「……は?」


 そうか。

 つまり、先程戦ったあのコピー部隊は、そういう事なのか。


「じゃあルナティック本部を徘徊していた禍々しいコピー体は――」

「そう、悪の塊だ。アレは軍事利用も出来る。グレイスやプライスでは何故か失敗して悪をコピーするだけだったけれども、成果は十分だ」

「……あれが、人から抜き取った悪意の塊と言うのか」

「そういう事だ。世界は変わった!このSTARさえ有れば、この世から悪は完全に消え去る!量産されれば、平和な世界が、訪れるんだ」


 リーグが声高に宣言すると共に、伊集院君は一歩前に出て改めてその機械を見た。

 伊集院君の目が嫌な光り方をした。



「リーグ……百歩譲って、お前のそれは確かに素晴らしい発明なのかも知れない。だがしかし致命的な欠陥がある。このキャッシュデータはどうするつもりだ? それに量産? 馬鹿げた事を言うんじゃない。心は思考の、魔力の源だぞ」

「それはーー」

「心を切り取るなんて事をしたら、元の人の心はどうなる。廃人を量産するつもりなのか? 大体何を持ってして悪と定義するつもりなんだ? それに人の精神データを保存して再生成するとか、クローンでも作りたいのか? しかもその生成している魔力体がその悪の心をベースにしたらそのコピー体は純粋な悪意を持っているということにならないか。もしもその装置が、『悪人』の手に渡ったら、その瞬間に銀河団規模の大戦争が勃発するぞ。我々の仕事を一体何だと思っている」


 その時僕は初めて伊集院君のキレた姿を見た。

 静かにだが、確実に怒っているその姿は身震いをするものだった。


「ククク……残念ながらコイツの言うとおりだな。例えば宇宙最大のマフィアが……例えばこの俺がこれを手にすれば、面白いように世界を征服出来るな」


 ザントのぶっちゃけすごく笑えない冗談にリーグの目つきが静かに変わる。


「……なら答えは簡単。大悪人は僕が処分する」

「こんなふざけた機械は、今ここで処分する」


「……」

「……じゃあ、仕事を始めますか。ファントム!」



 彼の一言で、不気味な死神が紫色の炎と共に現れる。


「1対3じゃ些か勝ち目が薄い。援護してくれ」


 僕達は全員武器を構える。

 そして誰からともなく僕達は走り出した。


 決戦が、今始まる。

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