127. 炎と水と
「くっ……!」
僕は今、炎を取り込んだ竜巻に閉じこめられている。
業火が僕の全身を満遍なく舐めまわして、辺り一面火炎しかない。
炎が僕の全身を舐め回し、熱波が僕の気道と肺を焼いている。
激痛なんて言葉では生温い表現になるような刺激が僕を襲う。しかしシールドのお陰で僕は死なない。
正確には、シールドが破壊されるまで死ねないのだ。
シールドのお陰で、火傷を負う度にその火傷が治り、皮膚が焼ければ新たに皮膚が再生する。
気管支が燃え尽きる前に再生し、目が焼ける前に潤い僕の傷という傷がシールドの耐久を引き換えに治っていく。
しかし攻撃によって刻まれる痛覚だけは永遠と続く。
「【水の壁】!【バブルボム】!【噴水】!」
水のバリアも泡も噴水も、思い付く限りの水魔法を撃てども全てが火災旋風の前に蒸発してしまう。
喉が文字通り焼けているので、喉からすぐに音が出なくなる。それも瞬時に回復し、詠唱文が最早反射的に口をついて出る。
「うわああぁあぁぁ!」
◇
「【アクアマグナム】!」
「火災旋風に並の水は効かぬ!【天骸倒】!」
空を飛んでいる大蛇がその尾を地面目掛けて叩き付け、瓦礫が宙を舞う。
「なら魔力はケチってられないね。【アクアインパルス】!」
「なっ、『アクアインパルス』だと!?」
唱えた呪文は水の弾幕を発生させる魔法。
呪文のコストが重く、魔力がごっそりと自分の中で減るが、威力はその分折り紙付きだ。
水の弾幕がセルティネスと炎の渦を襲う。
セルティネスはその弾幕で撃ち落とされ、地面に叩き付けられるが、炎の渦は収まる気配がない。
でももう少しだ。
火の勢いは確実に今ので弱まった。
あと一息。
◇
「くっ」
水の魔法を思いつく限りに放ってみるが、火の勢いは収まらない。
シールドももうそろそろ危険水域まで損傷している。自分の周りにあった草は焼け切って炭となったから、自分の周りはもう火すら上がらないが、もうそろそろ此方の体力の限界だ。
魔力の限りに水の壁を展開すると、不意に自分の背中に、冷感を覚える。
――ピチャッ!
「!?」
水だ。
水の壁とは全く関係の無い水が飛んできた。
「……、今……る……!」
「ピーカブーが、外から消火してる……!」
ピーカブーはセルティネスと継続して戦いながらも、隙を見て僕を助けようとしていたのだ。
僕一人では無理でも二人でなら、火を消せるかも知れない!
「――【水の波動】!」
「――【アクアマグナム】!」
自分を起点に全方位に波紋の様に広がる水属性の衝撃波を放つと共に、水の大砲を放つ音が聞こえた。
2つの水魔法が僕を包む炎の渦と接触した瞬間、水が叩き付けられる音と共に辺りが水に包まれる。
「はぁっ!」
水の水が激突した衝撃で水しぶきが舞い上がり、雨のように辺りに注いだ。
水の波動と大砲で、燃える竜巻を鎮火する事ができたのだ。
「大丈夫かい!?」
「まさか波動系の魔術をも使いこなすとはの……」
セルティネスがゆるりととぐろを巻き、舌をチロチロと出しながら呟く。
「もちろん!【降雪玉】!」
煙が立ち込め雨が降り注ぐ中、僕の詠唱によって雪玉が幾つもセルティネス目掛け落下する。するとセルティネスは空中に向かって炎のブレスを吐き雪玉を相殺する。
吐いたブレスが雨に混じり僕達の頭上に落ち始める。
「【光の螺旋】!」
「【ゴルゴンの目】!」
それに対抗してピーカブーが螺旋状に飛ぶ光の光線を放つと、セルティネスが眼から緑色の交戦を放ちそれを相殺。
その隙を突いて僕は竜殺しで素早く切り上げ攻撃をすると、僕と敵対しているその大蛇の肉体から血飛沫が舞う。
「ぐおお!」
すかさず湧いてくる子蛇を何匹か切りながら後退すると、自分のいた場所にセルティネスの尾が叩きつけられた。
「たかが亀なぞに負けて溜まるか!」
「僕は絶対負けない――今だ!」
ピーカブーの合図と共に僕は飛び上がり、先程叩きつけられたセルティネスの尾に剣を突き立てる。
セルティネスが悲鳴を上げようとしたその瞬間にピーカブーが至近距離から水の大砲をセルティネスの口に向けて放ち、彼女を大きく吹き飛ばす。
その衝撃で剣を突き立てて居た場所は大きく裂かれ、彼女のシールドが砕け散った。
僕達の勝ちだ。
「くっ、妾もここまでか……しかし妾の仇は、他の者がきっと……!」
その言葉を最後に、血みどろとなっていたセルティネスの姿が消える。空間転移だ。
「……ふう、まさか火属性相手にここまで手こずるとは…」
「セルティネスは前にナナが戦ってた時より遥かに強くなってるね」
そしてそれは、ピアースにも言える話だった。
僕だけでなく、敵も強くなっている。
「他のみんなは大丈夫かな」
「……」




