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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第9章〜Stagnant Saga〜
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119. コピーのプライス

「【降下葉風(ディセリーフィア)】!」

鉄のか(リペイア)―――っ!」


 木の葉の嵐がレメディに襲い掛かり、レメディが防御魔法を唱え終わる前に彼女を切り刻む。


「レメディ!」


 一筋の朱が彼女の右腕に走る。

 それを目にした途端、彼女の切り傷から勢い良く紅い鎖が飛び出しプライスを攻撃した。


「なっ……」

「【血槍鎖(トルケサンギ)】」


 彼女についた別の切り傷からも血で出来たフレイルが噴き出し、黒いプライスの幻影を貫いて攻撃する。


「ぐっ、がっ!」

「【鉄臭い足(ペスフェロドール)】」


 レメディが呪文を続けざまに唱えると、プライスは鎖を引きちぎり着地し、そのまま蹴りを放つ。


「ふむ。効果が無いわね。このプライス血が通ってない」

「えっ?」

「体内の血液を脚に集中させる魔法が全く効いてないわ」


 突然その爆弾発言に動揺していると、プライスが唐突にターゲットを此方に定めて姿勢を落とす。


「【重力加速蹴(グランジェット)】」


 急加速から放たれる飛び蹴りに対して身も守る時間すらなく、僕の身体は宙を舞った。

 空中でその衝撃を利用してくるりと回転し着地すると、レメディから回復魔法が飛んできて痛みとダメージが癒えて行く。


「体術は本物とほぼ同じね」


 レメディは飛来する種の様な爆弾をリボンで弾き飛ばすと、そのままプライスに接近し鋼鉄化させた腕で殴り掛かる。

 対応するように拳を肘で受け止めると彼女の鋭い上段蹴りをレメディは引いて躱して見せた。


「【ボルダーリフト(モノコープス)】」


 レメディが引いたことにより宙を蹴ったプライスの脚がそのまま反転し床へと垂直に落ち、地面を抉る。

 その衝撃で小さなクレーターが現れ床のタイルが舞い上がった所にプライスの呪文によってその瓦礫が一斉にレメディへと突撃した。


「【水の壁(ディモイス)】!」


 僕が水の障壁を展開しその瓦礫をブロックすると、プライスの飛び蹴りが再び僕を襲う。

 今度はそれを剣の側面を使って僕は受け止め、そのまま流れるようにプライスに切り込みを入れると彼女は慌てて身を引いた。


「【ゴルゴンの目(アゴルゴン)】!」


 距離を取ったプライスが目から木属性のビームを放つ。これに対してレメディは腕をクロスしてそれを受け止め、僕は剣から衝撃波を放ち攻撃を仕掛ける。


「ちっ」


 茨の壁が現れ僕の放った衝撃波を吸収する。

 その茨の壁を飛び越えるようにプライスが飛び蹴りを再度放つと僕は剣先でそれを受け止めて見せた。


 剣先が彼女の脚を裂く。

 しかし血液は一滴も流れない。


「があっ!」


 一瞬で脚が元通りに収まったプライスの腕に木の棍棒が出現する。

 そこで僕が炎の壁を展開した瞬間、プライスの首元に深々と何かが刺さった。



 ――注射器だ。


「これまともな生き物なら即座に昏倒するはずなんだけど……」


 プライスは乱暴に注射器を引き抜くと、それを床に叩きつけて見せた。


「プライス……」

「これ、一応ゾンビでも効くんだけどね。効かないと言うことは、少なくともこれは生物ではなさそう」


 レメディが呆れた様に呟くと、刃のようなリボンがプライスを切り裂く。


「どうやら手術の時間がやって来たみたいね」


 そう言うと、レメディの腕に巻きついていたリボンが解けていく。

 まるで千手観音のようにリボンが無数に出現すると無数の注射器がそのリボンから投擲される。


「ぐっ!がっ!」



 プライスの傷が加速し、あちこちにシリンジが突き刺さる。

 彼女の左腕はジュクジュクと泡を立て始めるが、プライスは気にする様子もなくその腕を翳し呪文を唱える。


「あ、この薬液は効くのね」

「【腐臭療養(ラフレアロム)】」


 酷い悪臭の乗った風が吹き始める。

 反射的に腕で顔を覆うと、その隙を逃さずプライスは大木の棍棒を振り下ろした。



「ぎっ……!?」


 レメディの腕から直接伸びたリボンがプライスを貫く。

 そのとどめの一撃が振るわれた瞬間――プライスは黒く染まりそのまま弾けた。



「プライス……!」




 鋭いリボンが胸を貫くその瞬間、否が応でも記憶がフラッシュバックする。


 プライスがリーグに胸を刺され、倒れた瞬間の記憶が重なり、思わず尻もちをつく。


「ちょっと!? 彗?」

「……」


 頭が真っ白になり、思考が停滞する。


「おーい」


 忘れるはずもない。

 彼女の腹部を貫いた切っ先を。

 続け様に彼女の胸に立てられた刃を。


 その光景が、正に今自分の目の前で再現された。その瞬間が僕の網膜に焼き付いて、僕を拘束しているのだ。

 


「仕方ないわね」


 ――パシンッ!


「うっ!?」


 自分の視界が意図しない方向に向き、乾いた音と共に頬が痛むのを感じて我に返る。

 レメディは呆れた様子で光の玉を出現させると僕の目を覗き込んだ。


「瞳孔反射はちゃんとしてるわね。全く、一瞬呪いでも仕込まれていたかと勘ぐったじゃない」

「ご、ごめん!」


 んー、と小さく彼女は唸りながらも僕の眼や腕を確認していた。


「ち、ちょっと動揺していただけ……」

「ああ、そう言えば貴方はプライスの死の現場にいたのよね。悪い事をしたわね」

「いや、もう大丈夫。本当に」



 短く頷くと、レメディはスカウターに手を当てて報告を始める。


「こちらレメディ、偽プライスを討滅」

『こちら諜報部、了解』

「偽プライスからは生体としての反応を感じる事は無かったわ。恐らく魔力によって形成されたコピー体と推測」

「魔力?」

「偽プライスに一部薬物が効かなかったのよ。切っても血液は流れ出なかったし麻痺効果のある薬液にも反応しなかったけど魔力を遮断するタイプの薬液には過剰なまでに反応していた」

「なるほど」


 彼女の諜報部とのやり取りを横から傍受していて、プライスが魔力によって作られたコピーである可能性を知る。


 ルナティックは死してなお、プライスを尖兵として使い続けているのだ。

 個人的な感情だが、それは許せなかった。


「なるほど、実は此方の方にも類似の……あ、ピーカブー様」

「うん?」


 通信中に突然ガサゴソと音が聞こえると、通信相手がそのまま変わった。


『こちらピーカブー。レメディ、情報提供感謝する。此方の解析で各種コピー体はコピー元である本人の魔力を有している事が判明している』

「本人の?」

「え、じゃあ偽グレイスとかにはグレイスの魔力が使われているってこと?」

『恐らく残留魔力とかを使っているのだと思う。警戒していてくれ』

「了解」


 レメディはちらりと僕に視線を合わせると、スカウターを再びカチャカチャと弄り始める。


「そろそろルナティック本部の中枢ね」

「……うん」



 プライスの魔力を利用してプライスのコピー体を作り、それを僕達に差し向ける様な真似をするルナティックが許せない。

 自分たちで殺しておきながら、死してなお利用し続けているのだ。形は違えど、ゾンビとして蘇らせて使役しているのと同じ。



「むかつく」



 短くそう言うと、レメディが一瞬驚いた様な顔つきをして、その後ふっと笑った。



「じゃあむかつく奴はぶっ飛ばさないとね」



 その言葉に返事をする代わりに、僕は頷いて見せた。


 リーグはぶっ飛ばす。取り敢えずこれは確定事項だ。



「……それにしても、貴方そうやって感情を表に出す事もあるのね。地球人って感情が出ないのかしら? 伊集院とかもそうだけど貴方も中々感情が顔に出ない」

「えっ、そうなの!?」


 伊集院くんと同じような扱いされるのは嫌だなあ。

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