109. 日系宇宙人
「娯楽で殺し合いをするって冷静に考えてみたらやべーな」
「命の取り合いをする訳じゃないよ。日本で言う武術とかボクシングみたいなものをする人が宇宙では圧倒的に多いってだけだよ」
武器屋にて。
巧が武器を物色しながら娯楽戦闘についてそう言うと、天野さんがそう訂正した。
「まあ、国が違えば文化も違うし、ましてや地球を離れたらそういう物なのかな」
「そうそう、流石は星野先輩、先輩なだけある」
「いや先輩って、誤差の範囲だから……」
鳩峰さんがショーケースに入っている杖を熱心に眺めていると、天野さんが彼女に話しかける。
「鳩峰さん、この杖気になる感じ?」
「えっ!? あ、うんまあ。やっぱりこんな物が置いてあるとここは魔法の世界なんだなあって……」
「魔法の世界の割にはなんかライフルとかも陳列してるのな。ちょっと思ってたものと違うっていうか」
天野さんはショーケースから鳩峰さんが眺めていたステッキを取り出すと、彼女に武器の説明を始めた。
その武器は見た目は持ち手から上の先端が大きく曲がった、古典的な魔女の杖だ。
「武器にも色々な種類があるんだけど、これは可変武器と言うタイプの複合武器。見ての通りキャンディとかにある様な曲杖でメインは魔法攻撃のサポートをするロッド。でもこれをこうすると……」
杖を持ち上げ、床に面していた先端を的に向けると発砲音と共に魔力の弾が放たれ、的ーーに当たらず、その更に後ろにあった壁に弾丸が命中した。
「……銃にもなる」
「お前、そこはちゃんと的に当てるところだろ」
「う、うるさい!」
巧が思わずツッコむと天野さんは恥ずかしそうにそう言った。
「凄いね」
「材質もかなり頑丈な合金を使ってるから、使い方としては魔法サポートの他にライフル、打撃があるよ。これの上位機種にはここの持ち手が分離して杖アンド仕込み剣になる部位と、打杖プラスライフルになる鞘になる物もあるけど、それは流石に取り扱ってない」
「それ、最早杖の概念崩壊してない?」
「それな」
色々な機能を持っている武器は、それだけ扱いが難しい。
「これはなんだ?」
「それはバレットリムズだね。同じく可変武器」
「まあ、見るからに普通の武器ではなさそうだな」
巧の目に留まったのは金属製の手甲とブーツがワンセット揃っていた物だった。
手甲の先端には穴が開いていて、ブーツの裏にも穴が開いている。
「これは装着すると四肢から弾丸を放てる武器。敵を殴った時に魔力の弾丸を至近距離で放ってパンチの威力を上げたり、魔力の弾丸を蹴り出す様に放ってみたりで近接と遠距離をカバーするタイプの武器」
「マジか!」
「ただ、見ての通り超近接と遠距離を兼ね備えているから中距離レンジが弱いかなー。後は、弾の出し方が通常の銃と全く違うから慣れるまでは扱いがかなりムズい」
確かに、手甲では反動を吸収したりエイムを付けたりするのは難しいだろう。
手だけならまだ良いが、ましてやこれがブーツの裏から弾丸を放つともなれば、ちゃんと安定して的に当てられるようになるまでにそれはもう大変な労力が必要となるだろう。
「ちなみにソラちゃんは普段何を使っているの?」
「ウチ?」
「うん」
「ウチは普通の短杖だよ」
そう言うと、彼女の袖の下から定規程の長さの杖が現れた。クリーム色で先端が非常に鋭く、まるで針のように先端は尖っていた。
「これ人を刺せそうだけど本当に普通?」
「あー、まあナイフというか短槍みたいな使い方はたまにする」
巧が徐に手甲を手に取ると、それを嵌めて的に向かった。
「なあ、これ試し打ちって金とる?」
「取っていいなら」
巧が一瞬構えると、徒手空拳でも披露するかのように正拳を真正面に放った。
するとそれに合わせて赤い魔弾が手甲より放たれ、一直線に的へと吸い込まれて行きその中心へと命中した。
「……は?」
「おおっ、これいいじゃん!」
天野さんがなんとも間抜けな顔をしながら瞬きをすると、巧が腕を突き出したまま更に魔弾を放つ。
次々と的が被弾し炎上して行く。
「つーか待って、なんで的が燃えてるの」
天野さんが慌てて的へ向かって水魔法を放ち鎮火させると、疑問を投げかけてみせた。
「ん、これ元々そういうもんじゃねーの?」
「いや、放たれる魔弾は別売りの弾薬入れない限り無属性のはず」
「んあ、じゃあ俺のドライブのせいかな?」
そういうと彼は腰にぶら下げていたドライブを手に取って見せた。
赤いドライブでモデル名は『Bw』の刻印がされていた。
「これは……」
「俺のファーストドライブ、モデルBwだよ」
「固有能力は?」
「あーなんだっけ、確か武器による攻撃時に一時的に炎属性を上書き付与可能とかそんなだったと思う。伊集院から貰ったけどまだ説明とかよく聞いてねーんだ」
キラリと輝くドライブは巧のイメージとよく合っている気がした。
炎属性付与。
今しがた巧が『任意で』『上書き』と言ったところが少し気になった。
例えば氷の剣を突然炎属性に変えたりすることが出来るという意味なのだろうか。
もしそうだとすれば非常に高い奇襲性を持つドライブだ。
「私もドライブ貰ったんだ〜」
巧に呼応するかのように鳩峰さんもまたドライブをチラリと見せてくれた。
ドライブに刻まれたアルファベットは『Fl』だ。色は濃い青で、水属性になったことが示唆された。
「そういえば、ソラちゃんは?」
「ウチ? ウチは光属性だよ」
そう言って彼女がちらりと見せたのは白いドライブだった。文字の刻印は彼女の服に隠れていてよく見えなかったけれども。なるほど光属性か。
「彗は無属性だっけか」
「うん」
僕自身には属性が基本的にない。
ふたつめのドライブで属性は確かについてはいるが、そのドライブを外せばまた無属性に戻る。
そう言えば、僕は自分のドライブの固有能力を聞いたことがない。伊集院くんに前に聞いた事があるが、彼も知らない様子だった。
曰く、同じドライブを持つこながその固有能力を使っている場面を単純に見たことがないから分からないとのこと。
その事から考えると恐らくはパーマネントな性質を持っているのでは? と言うのが彼の見解だった。
まあ、もしかしたらただ単に使ってないだけかも知れないが、とも彼はその後付け足していたが。
「しっかしこんな物で宇宙空間を泳げるようになるとはな〜」
「ほんとだよね〜、宇宙の科学力ってすごいね」
「僕もまさか最初は魔法と科学が融合して宇宙に出ることになるとは思いもしなかったよね」
「だなー。って言うか、考えて見れば天野って宇宙人なんだよな」
手甲を眺めながら巧がそう言うと、天野さんはふふふと笑いながらお店のカウンターへと戻っていく。
「ウチの血は緑色じゃないからね?」
「マジか」
「ほら、ウチってポジション的には日系アメリカ人とかそんなノリだから。ところでお客様、その武器は如何でした? 今なら安くしておきますよ」
「日系宇宙人ってか? いやなんでいきなりそんな敬語になるんだよ」
突然接客モードになった天野さんは電卓を取り出すと武器の金額をそれに叩き、値段を巧に提示した。
「安い……のか?」
「今なら友情価格で2割引にしておきますよ」
電卓の数字を見て、巧が声を落として僕の方へと向き直る。
「なあ彗、この武器でこの値段って安いのか? 全然分かんねえんだが」
「いや、僕もこないだ初めて武器屋に来たから相場とか分からない」
「はーお前つっかえ」




