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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第9章〜Stagnant Saga〜
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107. リアブゾーブ

「えー、では特にご質問もないみたいなので最後の議題に移ります。最後の議題については、こなさんが直接お話になります」


 グレイスの声に、会議室がしんと静まり返る。


 休憩が空けて、経理部と人事部の発表が続き、ようやく最後の議題だ。

 発表内容は今回の作戦についての予想経費と、ルナティック討伐の暁に支給されるらしい参加者に対する臨時賞与の話。


 お金が入るのは嬉しい。

 文字通り現金な話だが、お金が入るならやる気も出てくる。


「では、リアブゾーブの件です。まず現時点でのルナティックの資産状況についてご確認ください」


 こながそう言うと共に、数字のびっしり書かれている表のようなものが出現する。


「このIRデータを確認していただければ分かるかと思いますが、現在ルナティックの経営状況は芳しくありません。分裂当初からあまりいいものではありませんでしたが、ここ最近の攻防で更に悪化しているのが見て取れるかと思います」


 ーーそこで、かねてより提唱していたリアブゾーブを実施します。


 こなはそう力強く言うと、全ての視線が彼女へと集まっていく。


「元はと言えば私たちの土地、私たちの資産。今がルナティックを『リアブソーブ』する絶好の機会です。つきましては――」


「あの........」


 自分が声を絞り出し、手をあげるとこなに向かっていた視線が全てこちらに向く。


「何でしょうか?」


 グレイスさんの声が響く。


「リアブソーブ、って、何ですか........?」

「それについては私から説明するわ」


 こなが立ち上がり、(おもむ)ろにタクトの様な杖を懐から取り出すと、ぶつぶつと何かを言い始めた。


「ルナティックとX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)は元々一つの組織。分裂した際にリーグに同調して出て行った人もそれなりにいるわ。でもリーグの変容していく様子ややり方について快く思っていない人もそれなりにいるわけですよ」


 彼女がタクトを振るうと、目の前にグラフが出現する。そこにはルナティックに対する内外の支持率が数値として出ていた。


「当然中には『嗚呼、X-CATHEDRA(エクス・カテドラ)の美人総帥のプリンセス・こな様の下に居た頃に戻りたい』と願っている人も居るわけですよ――」

「当時のトップは伊集院だぞ――」

「うるさいわね」


 ピンキーが欠伸をしながらツッコミを入れたところで、こながピンキーを睨みつける。


「とにかく、私たちはそう言う可哀想な人たちを救済する為に、ある計画を進めてるの」

「........それは?」


 一瞬の間があった。


「ルナティックの『再吸収』よ」


 再吸収。


 その言葉を聞いて、僕は思わず目を見開いた。

 再吸収なんて、そんなことそもそも可能なのだろうか。


「どのみち元々は我々の物。今回エリアYをまず取り戻す。そしてルナティックへ行った者のうち、我々に従う意思がある者はそのままうちで雇用する。ちなみに敵対的買収(M&A)をするために資金についても用意はしてあるのよ」


 悪の組織を丸ごと買収すると言う発想に至る所が理解の範疇を超えていた。

 そんな事が出来るのだろうか。

 仮にも、この組織が嫌で離れた人達なんじゃなかったか。


「犯罪歴についても、軽微なものであれば司法取引と言う形で処理して不問にする。そのためにここにピンキーがいる訳だし。何より私たちには今は戦力が必要なのよ」


 こながそう言うとピンキー(宇宙警察長)が手を緩慢な動作で振ってみせた。


「戦力?」

「そうよ。はっきり言って、ルナティックに流れて行った戦力も引き入れないと行けない程度には足りてないわ」

「........何に使うの?」

「それはおいおい分かるわ」


 こなの発言は質問の終了を意味していた。

 戦力増強って、何に使うのだろう。伊集院くんやこなが既にいる中で、何をそんなに戦力を補強する必要があるのだろうか。こなって宇宙最強とか言うことになってなかったっけ。


「――では、大体指針も固まりましたし、具体的な突撃方法に議論を移したいと思います。ピーカブーさん、あれを」


 グレイスの合図と共にスクリーンが切り替わる。


「現在スクリーンに映し出されているのは諜報部の情報を集めた結果出来た敵地のマップです。こちらのデータが後ほど皆様のスカウターに送られます」

「結構内装変わってるわね........」


 マップは2Dで、スクリーンにタッチするとスマホのように操作できることが分かった。

 皆がスクリーンをポチポチと弄っている間にもグレイスの話は続く。


「前回の作戦が、死傷者を出したものの成功したので正面入り口から攻めるのが妥当かと思います。で、今回の依頼タイトルは次の通りになります」


 彼女がそう言うと、スクリーンに新しいタブのようなものが出現し、別窓に文字が浮かび上がる。


【ルナティックを撃破せよ】


「........まあ名前はオーソドックスですが、要はルナティックを自主再建不能にすれば良いので。で、肝心の突撃ルートなのですが、マヨカさんお願いします」

「はい。正規兵を指揮するってのもあるから先陣は私が切るわ。とりあえず小回りは諜報部や現場指揮に合わせるとして、現時点ではひたすら正面から行くつもり」


 マヨカの報告に、こながスクリーンを注意深く見ながら声をかける。


「了解。サイバー部隊は言うまでもないわね?」

「うん。システムのハッキングだね」

「諜報部のスパイは引き続き寝返るよう促してちょうだいね。で、我が部隊の主力となる四天王の皆さんなんだけど、どうもルナティック首領室はスターズの認証がないと行けないことになってるみたいなのよ」


 こなが手元でなにやらボタンなどをいくつか操作すると、スクリーンに映っていたマップ画面が最上階の物に変わり、そこに広場がいくつか映し出された。


「ルナティックスターズとブレインを殲滅しないと中枢には行けないシステムね」

「そう、早い話がボスラッシュ。で、アンタたちはどうする?」


 こなの質問は、要するに誰が誰の相手をするか決めろと言う話だ。

その発言に、グレイス、ピンキー、ナナ、そしてレメディが難しい表情を見せた。


「ピアース、セルティネス、デュセルヴォ、スマートにファントム........ルナティックスターズなだけにオールスター戦ね」

「えー私スマートと死神だけは勘弁だわー」

「セルティネスと羽は嫌」

「........ファントムと亀........ごめんだ」

「私デュセルヴォと犬は嫌いですわ」


 全員が全員、どいつが嫌とかこれは嫌とかとブツブツと言い始める。それに対してこなは呆れたように深くため息をついてみせた。



「あのね........あなたたち少しは緊張感を........ああもうめんどいからこっちで決めるわね。異議申し立ては減給及びボーナスの30%カット」


 投げやりにこなはそう宣言すると、彼らは静かに非難の眼差しをこなに向けてみせた。

 それに対して彼女は心の底から心外だと言わんばかりの表情を返してこう続けた。


「さて。星野彗くん」

「は、はい」


 唐突に自分の名が呼ばれる。

 その事で一瞬で顔に血が昇っていき、嫌な汗をかき始める。


「この幹部会に貴方を呼んだのは他ならぬこのためでね。貴方に任せたい仕事なのだけれど........ーー」

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