106. ルナティック対策会議
「しっかり生きる、か........」
メタリック中央病院から見える景色は、とても金属質で見渡す限り金色だ。
黄金色で槍状の無機質な建物が幾つも並んでいて、上を見上げれば果てしなくそれは伸びており、下を見下ろすと底が見えないほど深い。
空は色んな乗り物が飛んでいて、人の行き来がとても活発だ。
こんな風景、SF映画でも滅多に見れない。
「........はぁ」
頭の中を色々な感情がグルグルと渦巻く。
プライスを救えなかった罪悪感、それが自身にも降りかかるかも知れない事に対する恐怖、使命感、レメディの言葉。
どうしたらいいのだろうか。
もうすぐルナティック本部へと行かなければならないのにいけないのに、心の整理がまだついていない。
時計を見てみると、そろそろX-CATHEDRAの会議時間だ。
僕もルナティック襲撃作戦のメンバーに当然のように選ばれている。
学校については、今日は休みをとる事にした。
どうせテスト終わってやることも無いし、皆勤賞は諦めた。
重い脚を無理矢理動かし、ゆっくりと歩き始める。
時間は待ってはくれないのだ。
時計の針は僕の気持ちなんて微塵も汲み取る様子はなく冷徹に回り続ける。
「では、これより対ルナティック作戦会議を始めます。皆さん御着席を」
グレイスの一声でガヤガヤとしていた会議室が静まり返る。
ルナティック制圧作戦直前会議が始まる。
「ピーカブーさん、例のデータを」
こなが睨む中、ピーカブーが手元にあったデバイスのボタンを押すと空中に半透明なスクリーンが出現し始める。
「諜報部ピーカブーです。スクリーンの右側にあるこのパーセントゲージはルナティックの防衛システム稼働状況を示しています。現在は防衛基地のメインシステムが機能停止しているため稼働率は約13%です」
「また、ルナティック構成員のメンバーはおおよそ1万人となっています。内訳としてはダブルドライブが2千人程、トリプルドライブが50人程です」
「トリプルドライバーの氏名、そして保有ドライブは御手元の資料をご確認下さい。ルナティックスターズについては、使用武器と現時点までに確認されている使用魔法についての統計データを記載していますので合わせてご確認ください」
彼の支持に従い、資料を確認してみるとそこにはルナティック隊員のデータがぎっしりと記載されていた。
首領リーグ、ルナティックブレインのファントム
ピアース、セルティネス、デュセルヴォ、スマート。
他にも、伊集院くんが先日の潜入でなんか凍結させていたヘイスとか言う人とかもリストにはあった。
その情報量に唖然とする。
いくら元は同じ組織とはいえ、ここまで精密なプロフィールを完成させるとは、ここの諜報部はどのような事をしているのだろうか。
こうした情報も、プライスたちが収集したのだろうか。
「ここまでで何か質問はありますか」
「はい」
ピーカブーとこなが目配せをすると、マヨカに発言機会が巡った。
「リーグの固有魔法読んでて気付いたんだけど、このダークスターブラストの『強化無効』って?」
マヨカの指摘を見ると、リーグの資料に幾つか『固有魔法』と言う項目があることに気付く。
固有魔法とは、その名の通り特定の人物しか使えない魔法だ。
正確には『本人にしか発動方法が分からず、かつその人が発動方法の情報を独占している魔法』と言う定義付けがされているらしく、その魔法の独占を破る事を生業とする『スペルブレイカー(呪文破り)』と言う職があるとのこと。
リーグはどうやら固有魔法を幾つか保有しているらしく、上から3番目の項目に『ダークスターブラスト(詠唱文:ノクステラーム)』と記載されていた。
この詠唱、あの時に聞いた記憶がある。
「その質問には私が答えるわ」
こなが口を開く。
「強化無効と書かれているのは、身体能力やシールドの耐久を上げる類の魔法を無効化してくるのよ。逆五芒星のビームがそれだから呪文が聞こえたら回避した方がいいわ」
「詠唱破棄の可能性は?」
「そこそこ負荷がかかるみたいで私の知る限りでは無詠唱で放つのを見た事はないわ」
「諜報部でも詠唱破棄して該当魔法を行使する様子は報告されていないね」
「なるほど」
マヨカはそこまで聞いて、分かったと小さく言って再び席につく。
「他には?」
「はーい」
次に手........と言うか前足を上げたのはナナだ。
「普通に依頼を受けた人たちがこのリストに乗ってるメンバーと遭遇したらどう指示すればいい? 私たち幹部は何とかならないことも無いけど一般遊撃隊が遭遇したら死人が出るわよ〜」
「それについては基本的に2人1組以上で行動するようにするわ。基本的に人数優位に立つようにして、自分よりもドライブの数が多い敵とは戦わないように指導をお願い」
「分かったわー」
普通に依頼を受けた人たちも今回の作戦に押し寄せて来るのだ。
ナナの懸念は最もだ。そして、それに対して人数優位を常に作るという作戦もおそらく最善だろう。
いざと言う時に1人だと、まず伸されて終わりだ。でも2人や3人なら、やれる事の範囲は大きく広がる。
「他にはありますか?」
グレイスが周囲を見回すと、こなとピーカブーに向かって頷く。
「では、次に進軍経路についてお話致します。諜報部は中後衛で進軍経路を指揮し、前衛及び遊撃隊にの経路を確認するようにしてください。正規兵については、時間になりましたらマップデータを各人員のスカウターに送付致します」
「今回メタリック軍第7機兵部隊にも協力を仰ぎました所、マヨカ王女の指示を優先事項とした単純ドロイド兵を5,000機レンタルすることが出来ました」
「また、アクアン大学のゼノ・カップマン教授から個人的な援助という形でEEFUを80機御提供頂きました」
何の話をしているのか分からず、僕の席の隣にいたピンキーにこっそりと何かを聞くと、緊急離脱力場装置、通称EEFUとは、シールドが破壊された人を自動で検知し安全圏へと隔離する装置であるとピンキーが耳打ちしてくれた。
曰く、シールドが破壊されると環境次第では即死しかねないため、シールドが破壊された人間を検知してオートで転送する力場を展開するらしい。
「質問です。EEFUの転送先は何処に設定されてるの?」
「現段階ではハブルーム刑務所を指定しています。ハブルーム刑務所であれば空間は標準化しているのでどの星の人間でも大気に適応出来てかつ拘束設備も充実しているので、敵味方問わずシールドが破壊されたらひとまずハブルーム刑務所に送られます」
「敵と味方ってどうやって判別するの?」
隊員と思わしき白い熊の様な人がグレイスに質問を投げかけると、これにもこなは答えてみせた。
「機器自体は敵味方を判別しません。依頼登録した遊撃隊と正規兵、諜報部などはハブルーム刑務所でスクリーニングして敵であればそのまま拘束します」
つまり、とりあえず負傷者は刑務所に放り込んでから味方は解放して敵はそのまま刑務所という算段だ。
「味方を刑務所にぶち込むのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回メタリック中央病院やその他の医療機関に打診しましたが........いかんせん今回は敵味方双方の物量が物量ですし、病床をこちらの負傷兵で埋めるわけにも行かないので、刑務所長のセキュアさんに話をもちかけました」
「あそこは敷地も広大で牢もまだまだ空きがある状態なので仮の留置所としては最適と言う判断です。また、あそこは普段は人員による警備は少なめですが、特殊な魔符を使う事で警備レベルを引き上げる予定です」
グレイスに続いて、こなが補足に入るとその熊人間が納得したかのように頷き、着席する。
「そう言えば、こなはハブルームとミラビリンスの所長姉妹と仲が良かったわよね」
「ミラビリンスは精神衛生に悪いのと、こないだ破られたばかりだから敬遠したわ」
着席後にそのヤーテブ星人がボソリと呟くと、こなが半笑いでそう言った。
確かにミラビリンスは精神衛生によろしく無さそうだ。
僕も可能であればあそこにはまた行きたくない。
「他に質問等無ければ、これより10分間の休憩に入ります。10分後に会議を再開しますのでそれまでにまた御着席下さい」
グレイスがそう宣言すると、椅子の動く音がそこら中になり始め人々が席を立つ。
僕も大きく伸びをして、一旦席を立ちトイレへと向かった。




