105. 準備万端
Stagnant
[形]流れない;
停滞[沈滞]した、鈍い、ぼんやりした
Saga
1.サガ、サーガ;長編冒険談;(一家一門の数代にわたる)大河小説
2.≪略式≫(退屈な)苦労話、経験談
にわかに周囲がざわつき始める。
ルナティックの防衛システムは破壊された。
つまり、もうまもなくルナティック本部は叩かれるのだ。
「グレイス、レメディ」
会議室に入ると、2人の幹部が出迎えてくれた。
「伊集院さん、お疲れ様です」
「ああお疲れ。レメディ、この血液を分析に回してくれ」
「これは?」
「潜入中に覆面のDEATH幹部の姿を見かけて交戦した、これはその時に切りつけて採取できた血液だ」
「ああ、そういう事ね」
光と対極に位置する闇は熱を奪う。
闇のセイバーで切りつけた敵から飛び散った飛沫は一瞬で凍る。
「グレイス、プライスの遺体は?」
「49階の霊安室に」
「そうか」
「スパイは全員引き上げさせました」
「分かった」
プライスがスパイであると割れた以上、他のスパイがそこからなし崩しにバレてしまう可能性がある。
加えて、もう直にルナティック本部を叩く予定だ。
スパイたちには他にも重要な仕事がある。
「私も念入りに薬多めに調合しておくわ」
「ああ、頼んだ」
スパイ全員を交えた会議は今頃こなの指揮で行われているだろう。
隠密部隊の諜報部、そして暗部の仕事を外部委託しているZが全て丸く収めてくれるだろう。
レメディ率いる後方部隊も準備は万端だ。
回復魔法のエキスパートを後方に何人も控えさせて置けば、より効率的に城攻めを行うことができるだろう。それに、彼女は調合の才能も中々のものだ。
回復薬や魔力を補充する薬のストックを惜しまずに出してくれるのは非常に有難い。
基本的な構成としてグレイスは元ルナティックと言うこともあり、対ルナティックの指揮をある程度取ってもらうことになっている。
ルナティックに関わる広報については全て彼女が抑えており、記者会見なども彼女が担当だ。
可能な限り暗部で敵を始末するという路線は考えていないが、始末する必要のない敵についてはピンキー率いる宇宙警察に取り締まりをお願いしてある。それと同時に野盗の様な行為を働く味方も取り締まる。
ナナは依頼を受けてやってくる遊撃隊の指揮を取る手筈だ。
そしてマヨカにはX-CATHEDRAの正規兵を指揮してもらう。
「では、私は会議に参加してきます」
「ああ」
「私も病院に戻るわ」
イエローと彗が仕事をこなしてくれたおかげで、ここからは分刻みのスケジュールだ。
1秒足りとも無駄に出来ない。
2人が去るのを見て、自分の身体を闇に変化させて空気に溶け込む。
その状態で空間転移をすれば、音もなく別の場所へと移動することが可能だ。
「ふむ」
49階霊安室。
プライスの亡骸は死化粧を終え、まるで生きているかのような風貌となっていた。
もったいないことをした。
彼女はそこそこ優秀なスパイで、ここで無くすのは惜しいロスであった。
だが、プライスの遺体を回収出来たのは幸いだった。もし彼女の遺体が回収出来なければ、遺族への引き渡しも出来なければ最悪彼女の遺体を使役されて悪さされる可能性があった。
それにーー
「ーーモデルSa、固有能力発動」
腰にぶら下げたドライブを手に取り、その能力を起動させる。
右腕に青白いノイズが走り、ジジジと異音を放ち電流の様なものがまとわりつく。
「お前の死は無駄にはしない」
そしてその手でプライスに触れる。
その瞬間、霊安室は光に包まれた。




