101. 破壊のプライス
目の前には、この星の電磁閉鎖、そして空間閉鎖を行っている巨大なサーバーの群れ。
僕は持っていた銃に魔力を送り込んで、数発発砲した。
「えっ?」
銃から放たれた魔法の弾丸は、確かに機械にねじ込まれて行った。しかしそのサーバーは相も変わらず低い轟音を立てながら、変わらず動き続けた。
「シールドが掛かってるわね。ちょっと待ってて」
傍で見ていたプライスはそう言うと懐から小さな何かを取り出した。
「よっと、下がってて」
彼女の指示に従い、僕が壁まで後退すると、彼女は僕の目の前で対戦車砲を取り出す。
些か重いのか、彼女はそれを肩に背負うと声を轟かせた。
「ぶっ飛べ!」
巻き起こった映画さながらの大爆発は地を揺るがす。しかしそれでも対象は消し炭に変わるどころか、ただ煙が充満するだけ。
ろくな傷が付かない。どうなっているんだ。
「分かってはいたけど、硬いわね」
対戦車砲すら効かないとは、宇宙の技術は凄い。
「今ので敵を惹き付けないかな」
「分かっていてもやるしかないでしょ」
僕も銃を構え、更に発砲すると再び戦車砲が放たれる。
「【ウインドブーマー】!」
濛々と辺りを包み込む煙を払う意も込めて風の大砲を撃ち込み、更にサーバーを攻撃する。戦車砲が放たれる度に地響きがする。伊集院くんたちが稼げる時間は長くない。
いっそもう一度だけ、あの魔法を使ってしまおうか。
暗黒魔法の力を使えばこんなサーバーも破壊できるのだろうか。
そう思い始めていた頃に、変化は起きた。
「ちっ」
プライスは舌打ちをすると、彼女の前方に魔法陣が出現する。
「星野くん、土壁出して自分の身を守って」
「え?」
「【オメガミサイル】!」
思わず聞き返した瞬間、魔法陣から巨大なミサイルが放たれ大爆発を起こす。
最早反射的に土の壁を貼るが、その破壊力で壁が木っ端微塵に破壊され、僕は壁に叩き付けられた。
「うぐっ!」
「.......些かやりすぎたかしら」
彼女が風を吹かせて煙を払うと、天井と床に大穴が開いており、サーバーが跡形もなく吹っ飛ばされていた。
「何、今の魔法」
「破壊兵器魔法でも使わないとあのシールド破壊できそうになくて」
いやまあ戦車砲がダメならってのも分からなくもないが、これは些かやりすぎなのでは。
僕だってシールドが無ければ今の爆風だけで死んでいたはずだ。
「此方プライス、応答して下さい」
プライスはため息を付くと、直ぐ様電磁閉鎖が解除されたかを確認し始めた。何度目かの連絡で、通信が此方に帰ってきた。
「此方伊集院。良くやった、即座に引き揚げてくれ」
「了解。さあ、もうここに用は無ーー」
「――【暗月斬】」
どこからともなく刃が伸び、僕の背中を袈裟懸けに攻撃する。
身体はシールドで守られているから実際に僕が死ぬことは無い。だがその衝撃で僕は壊れたサーバーまで吹き飛ばされ、後頭部を打ち付けた。
「ぐっ!」
気配も一切感じられずにいて戸惑っていると、その男は僕達の目の前に現れた。
「内通者が居ることは分かっては居たが、まさかお前だったとはな.......」
黒いスラックス、紺のシャツ、革手袋。地球人だ。
よく見ると左右の目の色が違う。片方は赤で片方は緑だ。オッドアイなんて本当にこの世の中に居たのかと思っていると、プライスが僅かににじり下がる。
「.......リーグ様」
「次期ルナティックスターズ最有力候補、プライス・E・キルハー。ブレインのお気に入りで第2ルナティック防衛部隊隊長」
ルナティック内のプライスの肩書きと思わしき物が彼の口から語られる。
プライスの口ぶりから、偉い人であるのは間違いなさそうだが、この人は一体誰だろう。
「まさかスパイだったとはな。全くあの男は相変わらず目的のためなら手段を選ばないクズだ」
「バレてしまったなら仕方がないわねーー」
プライスの足元に魔法陣が出現すると、彼女は棍棒を出現させると一瞬でその男との距離を詰めた。
「【ダークスターブラスト】」
黒い光と共にリーグと呼ばれた男から逆五芒星のビームが放たれ、プライスのシールドが粉々に砕け彼女が吹き飛ぶ。
「重力操作による驚異的な速度とそこから攻撃の重たさはルナティック全体でも群を抜く物だった」
たった一撃で彼女のシールドを破壊して見せると、彼は吹き飛ばされたプライスの後方に瞬間移動して見せた。
そして。
「がはっ.......!」
彼女の目が大きく開く。
彼の手からは一枚の刃が延びていた。
砕けたシールドの破片が床に降り注ぎ、気化して消滅していく。
その刃は、吹き飛んできた彼女を容易く貫き、刃先を紅に染めた。
その剣は振られることすらせず、ただ彼女が飛んでくるのを待つだけだった。
そして今、彼女の腹部からその刃先が大きく露出していたのだった。




