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深い森の彼方に 改訂版  作者: とも
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-7-

ほんの一部分の削除

目が覚めた。リーダーに陰茎を切断されたあの小さな部屋だった。股間が痛むのもそのときと同じだった。今度はどうされてしまったのか。痛みの種類が多少違うようだった。前回は皮膚の表面を傷つけたヒリヒりとした痛みだった。今回はヒリヒリもあったが、それより下腹部の内部にズシーンとくるような鈍痛がともなっていた。

下半身に手を伸ばすと、スカートではなく病院で検査のときに貸してくれる薄い綿のガウンのようなものを着ていた。股間は下着でなく分厚いガーゼで覆われていた。そしてガーゼの中からチューブが出ていてベッドの下に伸びていた。左腕には点滴の針が刺さっていた。しかし頭はまだ朦朧としていた。

半覚醒の状態が延々と続いた。窓がすっかり明るくなった。ということはさっきは夜だったのか。部屋の外にコツコツと軽やかな足音が聞こえてきた。私のいる部屋の前で足音が止まると、私の頭のほうでドアの開く音が聞こえた。再びヒールの乾いた靴音が私に近づいてきた。

「目が覚めたか。よく寝ていたもんだ。」

リーダーの声が聞こえた。私の右側に立っていた。視点を天井からやや右にずらすと、スーツの下に美しく隆起したリーダーのバストが目に入った。

「これだけ寝ていれば、もう下半身のガーゼをとっても大丈夫なはずだ。」

リーダーは毛布を足元からめくり、私のガウンの前を大きく広げた。

「足を広げろ。」

リーダーは股間のガーゼを掴むといきなり剥ぎ取った。

「う・・・」

「痛むか?」

「いきなりはがされたので。」

「その程度のことは我慢しろ。あれをよこせ。」

後に控えていた兵士に声をかけると、兵士は、ステンレスの盆に載せられた数本の太さの違う20cm程度の棒状のものをリーダーに差し出した。彼女は一番細いものを手に取り、私の股間にいきなり差し込んだ。

「い、痛い・・・」

猛烈な痛さだった。股間にこじ開けられた傷口に突っ込まれたようだった。

「お前の望みどおりの体にしてやったぞ。嬉しいだろう。」

「うっ・・・」

「********」

************************いた。

「女にしてやったぞ。*******************もう興奮することもなかろう。」

「・・・」、どういうわけかお前は私を見て欲情している。先週も私の下半身を舐めるように見ていた。それで股間を濡らしていただろう。今日もだ。お前の視線は私の目ではなく胸に行っていた。お前の考えていることは全てお見通しだ。だが、まだ早いぞ。まあ、いずれ可愛がってもらえるようになるから楽しみにしておけ。」

私は赤面した。美しいリーダーに男のような言い方で叱責されると心が疼いた。それが全てリーダーに知られていると思うと動悸が激しくなった。

「あと3日寝ていろ。また迎えにくる。」

リーダーはヒールの音を響かせ部屋を出て行った。


三日後リーダーは約束どおり私が横たわっている小部屋にやってきた。

「起きろ。早くこれに着替えろ。」

日にちの感覚がなくなるほど横になり続けていたおかげで、ベッドから降りると眩暈がして倒れそうになった。

「しっかりしろ。」

久しぶりにリーダーの拳が飛んできた。目が覚めた。ベッドを見ると服が投げ出されていた。下着は綿の変哲のないものではなく、薄いピンクのブラとショーツのペア下着、それにパンストもあった。白いブラウスは着古したものではなく新品だった。そしてサージのプリーツスカートではなく、濃いグレーのベストとタイトスカートだった。そして床に置かれた黒のミドルヒールのパンプスを履くとすっかりOLの姿になった。

「化粧を忘れるな。」

いつもの化粧ポーチから道具を取り出しあわてて化粧をし、ヘアブラシでまださほど伸びていない髪を整えた。

「いくぞ。」

再び、町の中心部に向かって足を進めるリーダーについていった。***********************異物のせいもあって早足であるくと痛んだ。それに、さほど整備されているわけでもない路面は、慣れないヒールではリーダーについて歩くのもやっとであった。例の地下街の近くにあるオフィス街についたころにはかかとは血だらけになっていた。

「いいか、お前は次のステップに進んだ。今度の職場はここだ。」

20階建てくらいのビルの7階にあるオフィスだった。

リーダーより一回りほど年長と思われるオフィスの責任者の女性が、私の頭から足の先まで舐めるように見回した。

「ずいぶんセンスのない娘ね。頭の回転はどうなのかしら。」

「新入りなんで、ビシビシ鍛えてやってくれ。」

リーダーが私を残して立ち去ると、責任者は私に怒鳴りつけた。

「お茶の時間よ、早く入れてきて。」

いきなりのお茶くみの指示に面食らった。自分でお茶を入れて飲んだことはあるけど、大勢の人にお茶を入れたことはなかった。

「何突っ立てるの。早く給湯室にいって準備しなさい。」

廊下に出て給湯室らしきところに入った。私と同年齢ぐらいで私と同じベストとスカートを纏った女性が立っていた。

「あんた、新入り? 頑張ってね。ようやくお茶くみから解放だわ。」

「何杯用意すれば・・・」

「そのくらい聞いてこなかったの。馬鹿じゃないの?そこの湯のみ全部使ってみたら?」

湯のみはかなりの数があった。足りないよりは余ったほうがましだろうと思って、全部にいれることにした。しかし、どの程度、お茶の葉をいれたらいいのか、お湯はどれを使ったらいいのか、どの急須でどうやって運んで、全然わからなかった。壁に寄りかかっている私と同年齢の女性はニヤニヤ笑いながら眺めているだけだった。

とにかく適当に10杯ほどの湯のみに何とかお茶を入れお盆に載せて事務室に向かおうとした。

「たかがお茶くらいいつまでかかってるの。」

「早くしなさいよ。」

叱責がとび、あわてて事務室に入り手前のデスクから配り始めた。

「いったいどこから配ってんの? 上の人からでしょ。」

「社会人だったんでしょ。そんなこともわからないの。」

慌てて配り始めたお茶を回収し、奥の責任者のデスクに向かった。多分管理職と思われる座席から

配り始めた。

「熱い! 何これ。」

「お茶の味がしないじゃないの、何してんの。」

「茶托はどうしたの。」

「お茶菓子もないの、気が利かない娘ねえ。」

給湯室に戻り追加の茶を用意した。水を加えお茶の葉を増やした。同年齢の女性は相変らず私の悪戦苦闘をながめニヤニヤしていた。

「ぬるっ! これじゃ水のほうがましだわ。」

「あら、若い娘には濃いお茶入れてあげてるわけ、ちょっと何考えてるんだか。」

配っている途中でとどめをさされた。通路に書類の山が置かれていたのだ。さっきはなかったのに。私は躓いて転んでしまった。お茶は床にもデスクにもそこじゅうにブチマケ、茶碗は割れ、中にはスカートをすっかり濡らしてしまった人もいた。

「ごめんなさい、ほんとにごめんなさい。」

ふきんと雑巾を持ってきて拭いた。ほうきとちりとりを持って掃除をした。誰もがあきれたような顔して私を眺めていた。手伝ってくれる人は誰もいなかった。

「会社に来てそうそうここまでやってくれる人は今までいなかったわ。」

「ひどい娘をよこしてくれたものね。」

「書類もびしょびしょよ、どうしてくれるの?」

苦心惨憺して事務室内を片付け給湯室に戻った。

あの同年齢の女性は、まだ壁に寄りかかっていた。

「あんた、茶筒も開けっ放し、戸棚の戸もみんな開けっぱなし、みんなパナシね。それに、このお茶、すごく高いのよ。わかってるの?  こんなに無駄に使って。」

責任者の声が事務室から聞こえた。

「もう一杯いれて。」

「あたしも。」

あわててお茶を入れて持っていった。

「急須を持ってくればいいじゃない。あんた頭の回転鈍いの?」

「呼んだら、返事くらいしなさいよ。」

返事をしようにも、声が出てこなかった。若い人たちからも声があがった。

「あたしたちには、お茶入れてくれないの。」

「いったいいつまでかかってるの?  もう会議が始まっちゃうでしょ。てきぱきやってよ。」

「ねえ、あんたいつまで空の湯飲み置いておくつもり? 早く片付けてよ。」

洗剤の使いかたが無駄だといわれながら、何とか湯のみや急須を洗った。片付け終わるころには終業時間寸前だった。目に涙が溢れていた。ここまで言わなくたっていいじゃない、私は今日始めてここにきたのよ。

「今日は飲みに行く約束だからね、あんた、ちゃんと戸締りもしとくのよ。」

私をずっとニヤニヤしながら眺めていた女は終業のチャイムが鳴るとすぐオフィスから飛び出していった。

一人給湯室に取り残された私は泣き崩れてしまった。


「おい、何泣いているんだ。」

見あげるとリーダーが立っていた。

「新しい住処に連れて行ってやろうと来て見ればこのざまか。さあ、来い。」

「今日は私が連れて帰るからな、お先に。」

リーダーは事務室に向かって声をかけると、ビルの外に出た。私は涙を拭きながらついていった。

「お前、この程度のことでメソメソしていたら、女の世界じゃやっていけないぞ。もっと図太くなれ。」

「はい・・・」

今度連れて行かれたのは繁華街から少しはずれた場所に立つ、多少古びた鉄筋コンクリートの「マンション」だった。10階ぐらいはありそうな高さだ。

リーダーは管理人室にいる不機嫌そうな初老の女性に声をかけた。

「新入りをつれてきたよ。空き部屋に入れてやってくれ。」

「5階が開いてるよ、ほら鍵だよ。」

鍵を投げてよこすと、階段を指差した。

「前の住人が、家具や日用品もみんなおいてったから自由に使っていいよ。」

リーダーは部屋まで同行してくれた。テーブル、ベッド、タンス、冷蔵庫、洗濯機みんな置きっぱなしだった。食器から服まで残っていた。

「こりゃ都合がいい。お前、服を持ってないんだろ。」

「ええ、これしか。前の服は宿舎に置いてきてしまって・・・」

「この服は制服だ。通勤にまで制服を着ていったら馬鹿にされる。私服着てってもな、毎日同じ服じゃだめだ。毎日工夫してもすぐ色々いわれるぞ。当面部屋に置き去りにされた服を着ればいいが、報酬をもらったら自分にあう通勤着を何着も買うんだな。女は大変なんだ。じゃあ、明日から一人で通勤だ。お前は自分で仕事や生活の選り好みはできないんだ。わかってるな。」

ひとりワンルームの小さな部屋に取り残された。自分の城を持てたのは嬉しかったが、あの職場に毎日通うとなるとうんざりした。でも行かなくてはならなかった。

タンスを開けてみた。ブラウスやカットソー、スカートにワンピース、ニットやコートなど一通り入っていたが、着まわしてもせいぜい3日分だった。下着も少し置いてあった。次の休日は服を買い漁らなくてはならないようだった。


翌日は朝から出社した。白のブラウスに黒の膝丈のフレアスカート、バッグに制服を詰め込み出勤した。「女子更衣室」というものは、トイレですら仕切りのないこの世界には存在しなかった。事務室の片隅のロッカーの前が着替えの場所のようで、既に何人かの女性が着替えをしていた。

「おはようございます。」

「ちょっとこのブラウスださいんじゃないの?」

「白いブラウスの下にピンクの下着つけてるわけ? センスないのねえ。」

いきなりキツイ言葉が飛んできた。無言で制服を取り出し着替えを始めた。

「制服をそんなバッグに詰め込んだら皺だらけじゃない、あんた馬鹿じゃないの?」

始業前からぼろくそだった。

朝のお茶出しは昨日と同じように罵声の連続だったが、何とか半分の時間で終わらせた。

事務室の一番入口に近い末席が私の席だった。机の上には案の定飲み終えたコーヒーの空き缶やゴミが散らかり、吐き出したガムまでがこびり付いていた。無言で机の片づけをしていると声がかかった。

「ちょっとあんた、これ清書しておいてちょうだい。」

鉛筆の殴り書きで埋め尽くされた十枚ほどのレポート用紙だ。こういったことは、向こうの世界でもやらされていていた。とびっきりの悪筆の先輩の字を解読できたのは私だけだった。しかし、メモは悪筆というレベルではなかった。本文と関係のない余計な落書があったり、コーヒーの染みで滲んでいるところもあった。

「どうしたの、まだできないの? やっぱりあんた頭悪いんじゃないの?」

「でも、仕事の内容がまだわかってないのでちょっと・・・」

「口答えするんじゃない。新入りが!」

清書の途中でトイレに立ち戻ってみると渡されたメモがなくなっていた。

青くなって机の周囲探した。ゴミ箱の中あった。

「何でこんな所に・・・」

「あら、それ大事なものだったの?  机の上整理してたんだけど、あなたの机もしてあげたのよ。誰が見てもゴミみたいなものを机に置いとくほうが悪いのよ。」

隣りの女性だった。

仕上がって持っていくと、

「何、このへたくそな字。それも間違いだらけで。」

半日の努力の成果は丸められたうえ投げつけられた。

一日中この調子だった。

次の日もそのまた次の日も毎日上司や先輩にいびられた。

一週間たったところで、もう辞めようと思った。別の職場を探そうと思ったが、どのように探したらいいのか分らなかった。トイレ掃除のほうがまだましだと思って地下街の管理事務所に行ったが、管理人はもう後釜が決まってるからの一言、すげなく追い払われた。

収入なんかなくていい、行ってたまるかとふて寝を決め込んだ。そういった日に限ってリーダーが朝から私の部屋に来た。

「いつまで寝てるんだ。」

ベッドから引きずり出されて殴られた。

「お前は、自分で職場を選べるような自由はないんだ。仕事をサボるなんてもってのほかだ。」

何度も殴られ、いやいや服に着替えて化粧して出勤した。オフィスに入るまでリーダーは私の後をつけてきた。

「サボろうと思っても、分かるんだからな。覚えておけ。」

リーダーは久々に恐ろしい姿に豹変していた。


前の宿舎であった長身の娘のことが気になっていた。一週間後に会おうって約束だった。「性転換手術」で何日寝ていたのかよくわからないが、一週間以上寝ていたのは間違いなかった。この職場に来てからも一週間以上経ってしまっていた。

前の職場の地下街は今の職場から比較的近くすぐわかっていたので、その地下街からいつもの通勤経路を通ってあの宿舎に行こうとした。毎日通っていて忘れるはずのない道だった。しかし、いくら行ってもたどり着かなかった。途中までは間違ってはいなかった。しかし、もうすぐ宿舎というところで、いつも周囲の風景が変わってしまっていた。どこで違う風景に変るのかがどうしてもわからなかった。宿舎の裏にあったはずの、広くて深い森も、長身の娘と話しをした河原も全く見当たらなかった。

毎日、終業後に歩き回った。風景の変化を一歩一歩確認しながら歩いた。でもいつの間にか知らない町に出ていた。


長身の娘と最後に会ってからそろそろ一ヶ月近くが経とうとしていた。出勤前の慌しい朝、地下街の公衆トイレに入った。かつて私が掃除をしていたところだ。相変らず、扉も仕切りもない個室(そういうのを個室というのだろうか)は居心地が悪かったが、贅沢は言っていられなかった。私も穴に跨りスカートをたくし上げショーツをおろしてしゃがんだ。隣りにも放尿している長身の若い女性がいた。ひょっとして彼女では。並んだままお互い放尿中で、顔を確認しようがなかった。

「あの、ひょっとして、あなたは。」

局部を拭き終わりショーツをあげて出ようとしている彼女に声をかけた。彼女は振り返った。

「あっ・・・」

「やっぱり・・・」

私もあわてて身繕いをしてトイレを出た。

「後から入ってきたあなたを見て、似てるなと思ったのよ。でも、あの宿舎にいたころのあなたはいつもちょっと薄汚れた仕事着だったし、こんな素敵な服着てるなんて思いもよらなかったから。」

「ごめんなさい。あれから数日後リーダーに呼ばれて一週間ぐらい身動きできなかったの。その後は職場も住居も違うところにさせられて・・・」

「ちょっと触らせてもらっていい?」

彼女は、私のブラウスのボタンを************************に触れた。

「もう、胸はまだだけど、下は女になる手術を受けたのね。色々話をしたいけど、地下街は一目につきやすいわ。リーダーもよくここには来るようだし。そこの階段を地上に上がったところから一区画東側、コンビニがあるでしょ、わかる?」

「うん、わかる。」

「じゃあ、その前で今日の午後6時、待ってるわ。」


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