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目が覚めると城門脇の小部屋に寝かされていた。兵士が二人立っていた。
「お前は放逐刑にあったやつじゃないか、なぜ戻ってきた?」
「なぜといわれても・・・」
「どこに行ってたんだ?」
「前の世界に戻ろうとして・・・」
「前の世界? 何だそれは?」
「門の向こうの森のずっと向こうの・・・」
「もういい。リーダーを呼んでくるしばらくそのままにしていろ。」
ようやく「私の知っている所」に落ち着くことができた。ほっとして睡魔が襲ってきた。再び深い眠りについた。
夢を見ていた。夢の中では、私は普通の生まれながらの女性だった。夢の中での記憶では、やさしい母親に女の子として育てられ、小学校からずっと女子校に通い、女子大を出て女性だけの職場で働いていたのだった。父親や兄弟の記憶はなかった。学校にも男性教師はいなかった。近所の家庭も母と娘で暮していた。女性だけの世界で幸せに暮していた。どういうわけか、性行為の記憶も全くないのに私は妊娠していた。母親になる喜びをかみ締めていた。大勢の女友達に祝福されながら・・・
「やっぱり戻ってきたな。」
リーダーの大きな声で目が覚めた。
「向こうの世界はどうだった。」
「私の居場所がなかったんです。どこに住んでいたのか、どこで働いていたのかも全然分らなくなって・・・」
「お前は、この女の世界でしか生きられないということだ。」
「でも、私は女じゃない。あそこは切り取られ女の服を着ているといっても、まだタマは残っているし、女性を見れば欲情するし・・・」
「お前はそもそも潜在的に望んでいた世界に来たということだ。その結果、男と女の世界では存在そのものを否定されてしまったのだ。お前の選択肢には、ここで女として生きていくということしかない。」
「性転換をしろということですか?」
「いや、身体の外科的改変はどうでもいいことだ。女だけの世界なんだから誰も男の定義を知らない。したがって、女と違う体であっても誰もが男だとは思わない。男だと思わなければ、女だと思われるだけのことだ。」
「この姿でも女ということですか。」
「そうだ。男がいないんだから、欲情の対象が女だったとしても否定することはできない。ただ、見苦しく迷惑なだけだ。兵士が今食べ物を持ってくる。食べたら一人で宿舎に戻るんだ。お前の重罪は取り消す。もう、二度と前の世界に戻りたいなんていうんじゃないぞ。」
リーダーはどういうわけか優しくなっていた。一度も殴らなかった。
兵士が持ってきた食事は異臭のする冷たい干からびた麦飯と得体のしれない肉とくず野菜が入った汁だけだったが、久しぶりに食べ物を食べたような気がした。
初めて訪れたときと同じ道筋を一人で歩いた。軍事施設では女だけの軍隊が訓練をしていた。住宅地や繁華街は女があふれていた。絶対の自信はなかったが、たった一度しか通らなかった道筋を全く迷わず宿舎に戻った。既に夕方になっていた。
玄関の脇の事務室にいた管理人は、私を上目遣いにじろっと見たが何も言わなかった。
食堂の入口に奇声の老婆が杖にもたれてパイプ椅子に座っていた。
「今日はあたしを大切にしてくれるんだろうねえ、お嬢さん。」
「いえ、もう食べてきましたから。」
老婆は何か不服そうに私に向かってしゃべり続けていたが、無視して部屋に飛び込んだ。独り言の中年女と浅黒い娘は自分のベッドに座り込んだまま、私には何の関心もないようだった。
下のベッドにいた厚化粧だけが私に話しかけた。
「おや、お帰り。今日は早かったね。」
「私がいない間、何か変ったことありませんでしたか?」
「あんたがいない間って、昼いないのはいつものことじゃないかい?」
「あの、ちょっと遠出をしていたんで。」
「おかしなことをいう娘だね。今朝いつもと同じように仕事にでかけてったじゃないか。それにいつもより帰りは早い。」
おどろいたのは私だった。あんなに何日もかけて元の世界に行き、帰りも何日もかけて歩いてきたのに、ほんの半日ぐらいの出来事だったのだろうか。そんなことはない。今でも歩きつかれてせいで、ふくらはぎは筋肉痛になっているくらいだ。
「そういや、あんたの服、やけに埃だらけで皺だらけ。いったいどこをほっつき歩いていたんだい?」
「城郭の外に出されて、鬱蒼とした森の中を・・・」
「城郭? この町に城なんかあったかね? ねえ姉さん。」
自分のベッドに座り込み私たちのほうを眺めてぶつぶつつぶやいていた独り言の中年女に話しかけた。
「城なんて知らんよ。もっともあたしゃあ遠くに出かけたことはないけどね。」
「この町を囲むようにすごく長い城壁があって・・・」
「町の外なんていったことないからね。囲んでる建物があるのかい?」
「その外側が、ずっと続く鬱蒼とした深い森があったんだけど、それも知らない?」
「森なら宿舎の裏が森じゃないか。」
わからなかった。どうしてこの人たちは城郭のことも知らないんだろう。いくらここから私用で出かけることがないとはいいながら、私が徒歩で行き来できるところにあるというのに。
翌朝いつもより早く宿舎を出た。前日、掃除もしないまま城郭の外に出てしまったので、恐らく公衆トイレは悲惨な状態になっていると思ったのだ。
管理事務所にはまだ夜が明けたばかりというのに管理人はいつもの椅子に座っていた。
「今日は早いね。トイレはいいから街をきれいにしといてくれないかね。この街の女たちはよっぽどストレスが溜まってるのか、毎晩遅くまで飲み歩いてるんだ。それも上司の悪口を大声でわめきたてながら。でも、そのくらいならいいんだよ。12時も過ぎると泥酔した女が平然と街中で小便したりゲロを吐きちらしたり、ひどいのは脱糞してるのもいるんだよ。汚いったらありゃしない。頼んだよ。」
どこに行けともいわずに管理人は自分で言うだけ言って居眠りを始めた。
掃除道具を抱えて繁華街に出た。確かに飲食店が立ち並ぶ一画はひどい状況だった。いたるところに大便や吐瀉物が散乱していた。千鳥足で腕を絡ませながら歩いている2人連の女もいた。朝まで飲み続けていたようだった。
飲食店街から一歩奥に通じる狭い袋小路はとりわけ汚物の散乱していた。さすがに女だけの世界とはいいながら人通りの多いばしょでの排泄は二の足を踏むのだろう。人目につかない場所は悲惨な状態だった。飲食店の水道を借りデッキブラシでそうじを始めると、突然酔っぱらった若い女がいきなり路地に入り込んできた。
****************飲食店街の情景 削除
私は溜息をつきながら、まだ幼さの残る彼女が撒き散らした湯気のたっている汚物を片付け始めた。女ばかりの世界だとここまで羞恥心がなくなるのだろうか。確かに私が今まで暮していた世界でも、男たちは付き合いやストレス発散で夜の盛り場に毎晩大勢繰り出していた。泥酔すれば、路上で嘔吐したり立小便をする連中はめずらしくもなかった。この世界の女も同じなのだろう。男は立小便のついでに大便をすることは不可能だ。でも女ならしゃがんで放尿するついでに脱糞しようとすれば確かにできる。このように盛り場が汚物だらけになるのもわからないでもない。
私は、人目につかない路地であっても、こんな道端でしゃがんで小用するなんてできない。あの、オープンな公衆トイレですら恥ずかしくて誰もいないのを見計らってあわててすましているのが実情だった。あんなふうに局部をむき出しにしてなんて・・・
こう思った時に気がついた。私の存在しないモノは存在していないままなのだ。昨日までは、女に局部を見せ付けられると激しく硬直し刺激を求め、刺激を与えられないことで苦しんでいた。私は、スカートをめくり ************* でも下半身の反応は全く無かった。
昼過ぎまで汚物処理は続いた。勿論全部きれいになったわけではないが、午後になり飲食店のスタッフが出勤してくると彼女たちが店の前を掃除するようになったので、私は引き上げることにした。
管理事務所に戻ると、管理人とリーダーが雑談していた。
「今日は早朝から飲み屋街の汚物整理か。まだ酔っ払いのOLが大勢いただろう。」
「いました。」
「道端でいきなり女に股間を見せつけられて、またおかしな欲情をもよおしたんだろう。」
「いえ、そんなことはありませんでした。」
「あの地区は、とりわけひどいな。酔いつぶれるのが多い。そんな女は、酔っ払うと道端でも平然と股広げて小便してしまうんだから。局部を見せ付けられたんじゃないのか?」
「そういう人いましたけど、見ても何にも感じないようになって・・・」
「漸く女に慣れてきたっていうところだな。非常食はまだあるか。あそこの婆さんたちはほんとにケチだからな。若い連中には全くメシを残さないんだ。ほら持っていけ。ちゃんと飯は食っとかないとだめだぞ。身体は大事にしなくちゃな。」
リーダーは立ち上がって、私の肩を軽くたたき、そして立ち去った。
リーダーの後姿は素敵だった。身体の線がはっきり出たスーツは、腰のくびれと豊かなヒップを強調していた。それに足首に向かってぎゅっとしまったふくらはぎ、スカートの裾からのびる白い足は美しかった。さっきの放尿OLよりリーダーのほうが、私にとってははるかに魅力的だった。リーダーの後姿に見とれていると、***************。
夜、宿舎に戻り、外の流しで下着だけになって服を洗っていたら、声をかけられた。
「久しぶりね。」
長身の娘だった。この国にきて若い女性といえば、ほとんどがトイレで私を欲情させたり路地で汚物をまき散らしているOLばかりで、唯一お互いに自分のことを語り合えそうな気がしていたのは、宿舎で暮らしているらしいこの長身の娘だけだった。見かけたら声をかけようと思っていたのに、夕食も食べれずに泣きながら洗濯をしていたあの夜以来見かけることがなかったのだ。
「あ、ひさしぶり。ようやく会えた。いつも、夜どこにいるのかと思って気になって、でもこの宿舎で暮らしているんでしょ?」
「ええ、あたしもあなたのこと気になってたんだけど。でも、ひょっとしたら、あなたと会うととんでもないことがあたしたちにおこるんじゃないかというような気がして。」
「とんでもないことって? 私は、この宿舎のあのばあさんたちからは苛められるし、仕事に行けばつらくてストレスが溜まるようなことばっかりだし、あなたに会って話を聞いてもらいたくてしょうがなかった。それだけで十分とんでもないことなんだけど。」
「いえ、それよりもずっと恐ろしいことになるんじゃないかと。でもそれはよくわからない。」
「これより酷いことなんて。あなたは私より前からこの宿舎にいるんでしょ?」
「ええ、もうこの世界に来て1年以上になるのよ。」
「それだったら、いろんなこと教えて。恐ろしいってことも。」
「いいわよ。でも、ここでこんな風に話してたら目に付くから。また明日、声をかける。この時間、いつもここで洗濯でしょ?」
「ええ、じゃここで待ってる。」
「ちょっとその前に、あなたの身体触らせてもらっていい?」
長身の娘はそういうと私のを握った。久しぶりに人のぬくもりを直接感じた。そのあと彼女は手を腕から肩か、そしてパットしか入っていないブラジャーの中にまで手を滑らしていった。
「突然ごめんなさい、急にこんなことして。やっぱりそうだ、あなたは胸がまだない。」
「どいうこと?」
「ううん、ちょっと考えさせて。あたしも頭の中を整理しないと。じゃあ、また明日ね。」
長身の娘は小走りに宿舎に駆け込んだ。
私のブラジャーの中は、大勢の人が目にしていた。着替えるのに人の目は気にしないというこの国の習慣にしたがって、宿舎の同部屋の人たちはもちろん、外で平然と着替える人もいるので、ほとんど全員がお互いに全裸の姿を晒していた。厚化粧の胸はふくよかで美しかった。それとは対照的に浅黒い娘は胸が小さかった。Aカップのブラジャーでも余ってしまいそうなほど貧弱だったが、それでも本来男である私の胸よりは大きかった。年寄も中年も大小様々だが、私のように「乳房がない」という人はいなかった。しかし、誰もが私の胸を見て「まだ子供のような身体だね」という反応しか示さなかった。私の服を剥ぎ取った兵士と同じ反応だった。
長身の娘も同じような反応を示すものと思った。それで触らせていたが反応が違った。「あなたは胸がまだない」が何を意味するのか。私が女の胸がない男ということがわかったのか、あるいは女のように胸がまだ成長していないという意味だろうか。「やっぱりそう」って何がそうなのか。彼女はかなり「この国の秘密」を知っているのではないだろうか。
この国の暮らしも1ヶ月を超えると、最初は四苦八苦していた仕事もかなり余裕を持ってこなせるようになってきた。もっとも、四苦八苦といっても清掃の手順に悩んでいたわけでなく、トイレに入ってきて股間を露出する女たちに対する下半身の反応に四苦八苦してたわけだから、****************と割り切ってしまえば何ということもなかった。
それにこの一週間ほど、徐々に存在しない*******************、ひょっとして長期的には何らかの影響はあるかもしれないが、こんな理由で短期間に女性化するようなことはないはずだ。
それに体毛だ。もともと髭や体毛は薄いほうだったが、半月も髭を剃らなかったら密生はしないものの産毛のような髭がかなり伸びるはずだった。でも生えていない。「髭剃り」という行為をすっかり忘れてしまっていたが、女でいることに何の支障もなかった。体毛や髭はかなり薄くなってほとんどないといってもいいような状態だった。
女性ホルモンを投与されているのだろうか。思い浮かんだのがリーダーから非常食といって渡される異臭のするカンパンや握り飯だ。食事がとれないだろうからと渡されたが、食べられるようになったといってもいつもわずかな残り物なので、結局いつも非常食で補充している。これに女性ホルモンが入っているということだろうか。特にその異臭が気になってならない。はっきりいって小便の臭いのようなのだ。
女性の尿には多量の女性ホルモンが含まれているという。下水に含まれるホルモンの変化で水生生物が異常になったという事実も前の世界で聞いたことがある。ひょっとしたら女の尿が入った食べ物ではないかとも思う。でも臭いだけで味には特に問題はないし、今のところ腹をこわしたこともない。
胸も少し大きくなってきたような気がする。バストがというより、乳輪と乳首が大きくなっているようなのだ。特にブラジャーをせずにブラウスを着ると乳首が服に摺れてどうにもならなかった。感じてしまうのだ。最初はついうっかりブラジャーをせずに仕事に行き、それをリーダーに見られると激しく殴られた。しかし、今ではブラジャーが必需品になり、忘れるということはなくなった。
女に欲情しなくなってきたというのは、女性化してきたということなのだろうか。




