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ここの削除はわずかです。
結局、長身の娘にも、ピンクハウスにも会う機会は閉ざされたといっていいだろう。そもそも会うこと自体が偶然の産物なのだ。最大の疑問はリーダーだ。どうしてしまったのか。司令官のいう「元の」が気にかかる。
司令官が武器を用意しておくと言っていた。最後に会ったピンクハウスはかなり切羽詰まった様子だった。もし奇跡的に遭遇したら話をしたい。でも、彼女の精神状態からして思わぬ行動に出るかもしれない。しばらく基地にも行っていなかったこともあるので、基地に行って武器を預かったほうがよさそうだった。
どこにでかけるにも、タイミングも最近うまくいくようになってきた。着替えて、化粧をして、アクセサリーを身に着けたところでエレベータで階下に降りる。するとほぼ同時に若い運転手の運転する車はマンション前に停車する。もっとも本部付の中年運転手はそうはいかない。待たせられることもあれば、かなり前からきているらしく、運転席で居眠りをしていることもある。
今日は軍用ジープで出迎えを受けた。
「おはようございます。今日は基地ということでよろしいですか。」
「お願いします。ゆっくり揺れないように走ってくださいね。」
「わかりました。」
ジープは30km/hほどの低速でゆっくりと走った。このぐらいでないと振動と騒音で運転手と話もできない。
「最近不審者の様子はどうですか?」
「ひところより件数は減ってきたようです。」
「それはよかったですね。」
「でも、あのフリヒラ女はちょっと・・・」
「まだ、この世界に残っていたのですか?」
「いや残っていると言っていいのか、よくわかりません。突然現れるのですが、行動がかなり不穏なのです。」
「何かとんでもないことを・・・」
「そもそも2か月ほど前までは、繁華街の清掃をしていたのですが、トイレ掃除の時に奇声を発して小用中の女性に飛び掛かったのです。女性は咄嗟に逃げ出したのですが*********************足を取られ、転んでしまいまいた。骨折ということです。」
「彼女はどうしようとしたのでしょうか。」
「興奮させやがって、というような捨て台詞を残して逃げ出しました。」
「戻ってきたのですか?」
「いえ、管理室には戻りませんでした。その後しばらく全く姿を見せなくなりました。ところが先週あたりから、突然郊外を特に繁華街を外れた付近をめくらめっぽう走り回っている姿が目撃されています。ときおり、地下街や公園などのトイレにも現れて、小用中の女性に罵声を浴びせたりしています。しかし、いつも突然消えてしまうのです。」
司令官は既に会うこともできないのではないかと言っていたが、相変わらずこの世界に出現しているようだ。しかし、かなり精神に変調をきたしているように見受けられる。恐らく、羞恥心のない女たちがさらけ出す股間に対する性的興奮と、向こうの世界への郷愁がない交ぜになって混乱しているのだろうと想像できた。私も、あの学校では興奮を抑えられずに首になったのだから。この世界から完全に離れていかないのも、精神的不安定な状況に原因があるのかもしれない。
「レオタードの女とか和服の女とかも出てきたと聞きましたが。」
「その後目撃されていません。気を付けなくてはならないのはフリヒラ女だけです。」
「突然、ボーっと現れる人は?」
「結構出現しますが、ほとんど影響がないということで静観しています。」
「それは安心ですね。」
「でも、私もたまたま出会ったのですが、泣き叫ぶ7~8歳の********************には驚きました。子供の悲鳴とともにすぐに消えていきましたが。」
「それはもう妄想ではなく、もう犯罪・・・」
基地の司令部は前回ほどの緊張感もなく落ち着いた状況だった。
「わざわざ基地までお越しいただいて、恐縮です。」
「だいぶ落ち着いているようですが、ピンクハウスの女性がまた出てきているようですね。」
「そうなんです。ちょっと困っています。郊外を走り回っている分にはそれほどではないのですが、町に出てくると困りものです。」
「働かせていたのですか。」
「いえ、働かせる場合はリーダーの指示によることが多いのですが、フリヒラ女はいつの間にか勝手にトイレ掃除をしていました。」
「司令官も知らないうちにですか。」
「そうなんです・・・ それはそうと、武器の件ですね、軍服ですとベルトにピストルや短剣を装着できるのですが、平時に軍服でというのはいかがなものかと思いますので。」
「長官はセーラー服の時はどうしているのですか。」
「平服のときはスカートの中というのが一般的ですね。」
「スカートの中というと・・・」
「太ももにベルトを着けて短剣や短銃を装着します。スカートをめくればすぐ対応できますし、外からはわからない。でも大型の軍刀とかライフルはもちろんむりですけどね。」
「私はいつもタイトスカートなので・・・」
「太ももの外側だとスカートに出っ張りが見えてしまうので、内側に装着するようにすればいいのです。薄型の短剣が言い方と思います。」
太ももに皮のベルトを着けてもらって短剣を装着した。思い出した。私がこの世界に初めて来たとき*****************たのだ。私のスカートの中の武器はリーダーの装着しているものと同じだった。
「すばやく出せるように練習しないとだめですね。」
「無暗に切り付けないようにお願いします。」
その後、基地内の兵士の訓練状況を視察した。
荒地が広がる演習場では数人がグループになって、敵に向かってライフルを持ったまま匍匐前進し射程距離内に入ったら的に向かって撃つという訓練をしていた。つい姿勢が高くなり、指導員の「殺されるぞ」の大声で慌てて姿勢を低くする兵士が多かった。
「匍匐前進はかなり体力を使います。特にライフルを持ったままですから。」
訓練が終わった兵士は疲労のあまり地面に大の字に横たわっている者も多かった。
隣の射撃場では射撃訓練を行ってた。立ち撃ち、膝撃ち。伏せ撃ち、様々な体制で数百m先の的に撃っている。ライフルはかなり大型だ。機関銃を担いでいる者もいる。
演習場での訓練は、ヘルメットに戦闘服に身を包んでいたが、射撃場は普通の軍服だった。ヘルメットではなく帽子だ。驚いたことに全員がスカートだった。
「射撃訓練をスカートでするのは大丈夫なのですか?」
「射撃はどんな場でもせざるを得ないときがある。通常の軍服はスカートなのだから、それでも対応できるようにこの服装でさせている。」
立ち撃ちはまだいい。伏せ撃ちはスカート中が丸見えの兵士が多かった。*****************。
「生理でも訓練は休めないのですか?」
「非常時は生理であろうがなかろうが突然おきる。生理の最中でも対応できるようにするのが訓練だ。休みを認めていないわけではないがほぼ全員訓練に参加している。もちろん私も生理の時でも休むことはない。だいたい訓練中はタンポンと夜用のナプキンを一緒に使っている女が多い。」
私は、生理痛がひどくていつも2~3日は何もせずに寝ているのに、あのつらい中で訓練とは感心せざるを得なかった。
事実上、私はこの世界の指導者的立場になっていたようだ。
この世界自体が私の妄想の産物だということなのだから、当然といえば当然なのだが、実質的には本部の美少女の総裁と地下街管理人の司令官にこの世界の運営は任せているようなものだった。
気になるのは生活費だ。この世界から、生活費を支給されているわけではない。あの「お仕事」もできなくなってしまった。あとは、元の世界と共通と思われる預金口座頼みだ。しかし、元の世界の自分はごく平凡なサラリーマンだ。双方の世界に存在する自分を両方賄うだけの給料など貰っていないはずだ。
「私の生活費は大丈夫なのですか?」
本部に行ったとき総裁に確認した。
「気にしないでください。」
「とは言っても、私には何の収入もないのですから。」
「通帳に残高があるはずですが。」
「でも二人分も賄えるのでしょうか。」
「私には向こうの世界の仕組みはよくわかりません。でも、常に残高はほぼ一定額入っているようです。」
「いくらこちらでおろしても?」
「そうです。」
「無尽蔵に収入があるとは思えないのですが。」
「収入が無限にはないですね。収入でカバーしているのではなく、どうも下ろす前の状態に戻っているようなのです。」
「・・・」
「ここのところが不思議なのですが、預金を10万円引き出すと残高は10万円減りますが、暫くすると引出前の日付に戻っていて、要するに引き出す前の残高に復活しています。」
「下ろした後に、前の日付になって金額が復活する? でも、下ろしたお金はなくならない・・・」
「そこが不思議です。その原因を探るため向こうとこちらの世界の関係を色々と考えてみたのですが、どうも時間の動きが一致していないようなのです。」
「時間が一致しない?」
「時折逆転しているようなのです。」
「逆転?」
「私たちは永遠に時が進んでいく世界で暮らしています。向こうの世界でもそうでしょう。しかし、こちらの世界の今日と向こうの世界の今日が同時とは限らない。いえ、進行のスピードが同じなら、向こうとこちらが違っても特に困らない。時差のようなものですから。しかし、どうもスピードが違う、時に逆進していると思われることもあるのです。」
「どうしてそんなことがわかるのですか?」
「あなたのお仕事の手配など、向こうの世界と連絡の際、時折不可解なことがあるのです。昨日連絡したことを向こうでは全く知らなかったり、あるいはこちらでは全く分からないことをお互いに合意したことのように言ったりすることがあります。どうも勘違いだけではすまないような気がします。」
「そのようなことは誰でもわかるのですか?」
「そもそも、向こうの世界と連絡できるのは私だけです。司令官も連絡できません。だからこれに気付いたのは私だけです。」
「誰と連絡を取っているのですか?」
「わかりません。」
「どのように連絡を・・・」
「具体的な器具を使っているわけではないのです。何と説明したらいいのか・・・」
「察する ということですか?」
「そうかもしれません。」
「運転手が私の行動を察して迎えに来てくれるような・・・」
「たぶん、そうだと思います。」
「でも、私は向こうの世界に何度も通った。」
「城門を通りぬけた記憶がありますか?」
「・・・」
「最初に来られたときは城郭内に連れ込まれたのでしょうけど、城郭前にどうやって来たのか。」
「記憶がないのです。」
「おそらく、時間の進行がずれている狭間を意識のある状態で超えるのが不可能なのではないかと。」
「運転手も見ていないのですね。」
「運転手は、城門までお送りするとすぐ城門にある軍用車で直ちに引き返します。引き返さない限り何もおこりません。車が到着したことを察して軍用車で城門に向かいます。」
「そこでどうなるか、誰も見たことはありません。誰もしらないことだと思います。ただ、時間の進行スピードが違っていたり、逆転していたりしているのではないかと、私が想像するだけなのです。」
「それで貯金は・・・」
「それで、時間は相対的にはプラスマイナスしているのですが、トータルすると逆進しているのではないかと思います。だから、預金残高が復活しているのです。」
「・・・」
「要するに、お金のことは気にすることはないということでいいのではないでしょうか。」
総裁との会話はほとんど理解を超えていた。
それがいったいどのような具体的な事象に結びつくのか、全く分からなかった。数学の難問を突き付けられ、全く理解できないのに回答を求められているような何とも言えないもどかしさだけが残った。
この世界の不可解さは、単に頭脳の中だけではなく具体的な視野や行動にまで影響した。頭の中がもやもやするごとに、廻りの背景は後退し、直接係りにある人たちやその周りのものだけが更に際だっていった。街を歩く女性たちは、ほぼ全員ファッション誌のグラビアのように、美しく颯爽と闊歩していたが、何の奥行きもなく現実感もなく自分の気持ちに訴えかけるようなものも持ち合わせていなかった。公園のトイレに入っても、丸見えの個室に次々にしゃがみこむ女性たちを見ても、まるで売れないアダルトビデオの予告篇のように、ただ丸見えになっているだけで、それで欲情をかきたてるようなところも何もなかった。街ははずれの学校でも、女子高生はただ騒がしいだけで、編集し損ねた素人の写した8mmビデオのようだった。
時折訪れる基地と前線の城郭の様子が唯一の現実味を帯びたマンネリ化した光景となった。であり、その中で、週1回の総裁すなわち本部の美少女との女どうしの交わりが唯一の刺激になった。
不審者もピンクハウスも暫く出現しない気だるい日常が数か月続いた。
早朝の自宅に運転手が迎えにきた。
突如、ピンクハウス出現の情報が入ったからだ。
「朝早くから申し訳ありません。あのフリヒラ女が突然現れまして。」
「わかりました。すぐ基地に行きましょう。」
私は、スーツを着込み、武器を携帯すると軍用車に乗り込んだ。化粧をする暇もなかった。すっぴんのままだ。
「どういう状態なのですか?」
「城郭や城壁の近辺を走り回っているのです。」
「いつから?」
「昨日からですが、時折行方不明になり静かになったと思うと、また別の場所に突然現れて・・・」
「彼女の世界との共鳴が乱れているのですね。」
「・・・?」
「何か、被害はあったのですか?」
「被害というわけではないのですが、意味不明の大声をあげながら走り回っていて、誰かを探しているようなのです。」
「そうですか。」
精神的に大きなダメージを受けているはずだった。家族の元へ帰ろうと走り回っているのだろうか。そもそも、崩壊した頭脳による妄想の世界など想像を絶するもののはずだ。私のような単純な妄想の世界のわけがない。それが私の妄想の世界と共鳴するということ自体、一種の恐怖を覚えた。
基地に近づいた。
突然、基地の外にある繁みから奇声が聞こえた。藪の中にピンクハウスがいた。葉の生い茂った背丈ほどの常緑樹に向かって叫んでいた。人に見えるのだろうか。
「どうしましょうか。私も一応武器は携帯していますが。」
「基地の外で、我々の施設に害を加えているわけではないので、放置しましょう。まずは司令官との協議を優先しましょう。」




