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ほのぼの放課後記   作者: なす子
2/3

文化祭準備編


「美波杏と〜」

「花咲和泉」

「による〜。ほのぼの放課後記ぃ〜。文化祭準備編〜。どんどんぱふぱふ〜。さてさて、まずは簡単に前回あらすじを紹介するよ。私、杏とここに居る仏頂面がとれーどまーくの花咲和泉くんとでしりとりしてたら和泉くんの卑怯な手によって負けてしまった私は、どうにかして負かそうとしました。そしたらこの人、人の名前呼んで負けたんですよ! 何なんだよ! って思ったけどあんみつ奢ってくれたので許しました。以上です」

「素晴らしく雑だな」

「何てこと言うの! 和泉くんはお口チャックしてて!」

「てか、良い加減本編入れよな」

「何さ、それくらい今言おうと思ってたし! それでは、文化祭準備編。開幕!」

「開幕……」





今日もまた美波杏と花咲和泉は相も変わらず言い争いをしていた。ただ、今回はこの伝統研究部でも文化祭の出し物のテーマ決めをしていた。「何もこんなところまで“それ”で決めなくても……」そう思うのが至って普通だろうが残念ながら古都宮の中で“それ”がマイブームになってしまった為、花開院も強制的に“それ”に付き合わされることになった。

「ぜったいぜったいぜーったいに! 伝統料理が良いよ!」

「よく言うな。美波が食いたいだけだろ?」

「ろくに私のこと知らないくせして何てこと言うのよ!」

「よく知ってるよ。お前のことなら。何なら事細かく言ってやろうか?」

「か、勝手にすれば? わ、私は別に聞かなくても平気だけど」

「鈍臭い。アホ。天然で……」

「でやぁぁぁ。」

「あでっ。何すんだよ」

「よくないよ! 人のことアホとか言っちゃ! 傷ついた! 私傷ついちゃった! 責任とって文化祭のテーマ譲ってよ!」

「ようかんあるけど食べるか?」

「勝手に話を逸らすな! でもようかんは食べるから!」

「らじゃー。……もしかしてあんみつ奢るって言ったら文化祭のテーマ譲るんじゃ。」

「優しいように見える? 私が。和泉くんの思うような。でもそうだなぁ…。最近出たお店の特大あんみつパフェ盛り奢ってくれるなら考えるかな」

「中々にヤバそうだな。名前からして。……それで? 値段は?」

「はぁ? お値段気にしちゃうあたり器が小さいぞ☆」

「その口二度と開けないように縫い付けてやろうか?」

「かわいいかわいい部長様に向かってなんてこと言うのさ!」

「さりげなく自分可愛いとか言うなよ」

「よく言うよ! 和泉くんだって今日の俺かっこいいーとか言ってるでしょ!」

「よくもまぁ、いけしゃあしゃあとそんなこと言えるな。そんな恥ずかしいセリフいつ誰が言ったって?」

「て、適当な時に!」

「逃げ口実くらい考えてから発言しろよな。それでしょっちゅう痛い目見てるのは何処の誰だったっけかな」

「泣いちゃうぞ……。いっつもいっつも酷いことばっかり言う……」

「迂闊な発言は控えたほうがいいというアドバイスをしただけでそうなるか……」

「悲しいよ……。和泉くんがこんな『きちく』に育っちゃって……」

「適当なことをぬかすな。それで? そのヤバそうなあんみつ奢ればテーマは譲るんだよな?」

「何言ってるの。今更。私に二言はない!」

「いつも二言も三言も言ってる気が……」

「勝手なこと言わないで! でもこれは本当だから。それで? 和泉くんは何が良いの?」

「のごみ人形(佐賀県名物)とか誰でもわかりそうなやつなら西陣織とかの伝統工芸品。と言っても幅がめちゃくちゃ広いから絞らないといけないけどな。確か、漬物とか清酒も含むんだっけか」

「かなり良いねそれ。うん、それでいこう」

「うわっ、絶対漬物とか食いモン系が食べたいだけだろ。本当分かりやすいよな」

「何よ。別に良いじゃない。それで和泉くんの迷惑になるわけじゃないんだしさー」

「左様ですか。それじゃあ、伝統工芸品で決まったわけだしどう絞り込むかだな」

「なら食べも……」

「もう少し考えろ。高校の文化祭だぞ? 漬物とかで人が呼べると思うか? ましてや最近の若い人間が大半なんだぞ?」

「そんなの漬物の本当の美味しさに気づかせれば大丈夫だよ!」

「よし、じゃあその漬物を誰が用意する? どうせ俺だろ? それなら却下だ。漬物をなめるなよ。美味い漬物を作るのにあと数週間で出来るか!」

「確実に美味しい漬物を更に大量に手に入れるのは難しいか……。じゃあ、楽しいのが良い〜」

「幾つかある候補の中から選べ。面倒だから。一つ、何処かの地域に絞る。二つ、最近の流行りに便乗する。三つ、どれか一つのものを徹底的に極める。さぁ、どれが良い?」

「良い悪いは置いておいて、二つ目の最近の流行りに便乗するってどういうこと?」

「刀剣だよ。最近若い世代で刀剣ブームが来てるらしい。そして、日本刀も言ってしまえば伝統工芸品。これを利用するんだ。」

「例えば?」

「蜂須賀虎徹って知ってるか? 徳島に由来する刀だ。有名すぎて贋作が大量に作られていたにも拘らず、徳島にあった虎徹は本物だったんだぞ」

「そっか〜。まぁ、知ってたけど! でも刀剣って一括りに言っても本数自体沢山あるし、色んな刀派とか誰が使ってたとか何かの共通点があるもの数本に絞らないといけないんじゃない?」

「痛いところ突くな……」

「ならさ、四国に絞れば良いんじゃない? 生まれ育った土地なのにマイナーとか私辛い。電車無いし野良犬に追いかけられるし急に雉出てくるし名産少ないし取り上げにくいのは分かるけど……。うぅ、言ってたら余計悲しくなってきたな……」

「なら、たくさん来てもらえるようにしないとな」

「うん! ……って、あぁぁぁぁぁぁぁ」

「はい、しりとりも美波の負け。というか、刀剣で良いのか?」

「うん。それは良いよ。刀剣は調べてた時期があるし。だけど! しりとりの方は良くない! うぅぅぅぅ、悔しぃぃぃ。でも高くて食べられなかったあんみつ食べれるぅぅぅ」

「はいはい。それじゃ、早速作業に移るぞ。古都宮は図書室に行って関係ありそうな本を片っ端から借りてきてくれ。どうせ何処にどんな本があるのかは把握してるんだろ? 俺は部室のパソコンで良さそうな情報がないか調べてみる」

「りょーかい。じゃあ、早速行ってくるね!」

そう言うと、美波はすぐに図書室に駆けて行った。花咲もそれを見届けるとすぐにPCを立ち上げ始めた。

花咲がPCを立ち上げ、黙々と調べていると扉が勢い良く開いた。そして、入って来たのは山積みの本……。ではなく、本を大量に抱えた美波だった。

「和泉くん……。お待たせ」

「持ちすぎだ。少しは考えろよ」

花咲は、ため息をつきながらも美波の抱えた本を受け取って机の上に並べていった。しかし、花咲は本を大量に抱えた美波に気をとられ過ぎていて、もう一人入って来ていたことに気づかなかった。

「おいおい、女の子にこんなに本持たせちゃダメだぞ♡」

「ゲッ……」

「ゲッっとは何だ。ゲッっとは。折角顧問様が来たってのに」

そう、我らが伝統研究部の顧問だ。ついでに言えば、自分の好きな時代だけ教科書に載っていないことまで語りだす事でお馴染みの日本史教諭でもある。そんな彼女の名前は「花咲阿国」何となく察した人もいるかもしれないが、花開院和泉の実の姉である。

「何で来たんだよ。姉貴」

「おいおい、学校では先生って呼べって言ってるでしょーが」

「はいはい、センセー。ドウシテコンナトコニイルンデスカー。ドウゾオカエリクダサーイ」

花開院は、完全に棒読みで先生と嫌そうに呼んだ。さらには、「さっさとどっか行け」と言わんばかりの顔をしていた。と言っても、直接口でも言うあたりがなんとも花咲和泉らしい。

「アンチャーン。イズミガツメタイヨー」

「棒読みで何言ってんだよ」

花咲は、さっきの自分のことは見事に棚に上げ、死んだ魚のような目でツッコんだ。

「きゃー。和泉くんのきちくー」

「美波も何悪ノリしてんだよ」

「いえーい」

「いえーい」

まるで事前に練習していたのかと言いたくなるくらい自然に古都宮までもが悪ノリをしてきた。しかも、その後に先生とハイタッチまでしている。それだけ古都宮と先生は気が合う。それこそ、花開院の胃を悩ます程に。

「本当、面倒クセェ。それで? 本当何しに来たんだよ」

「あぁ、そうそう。文化祭のことなんだけど、今年は伝研催し物しなくて良いってさ」

「は?」

顧問の口から発さられた素っ頓狂な言葉。花咲は怪訝そうな顔をするしかなかった。

「なんか、教室の数が足りないやらなんやら言っててさ。私も頑張ったんだよ。あの子たちだって頑張って準備してるんです。って。そしたらなんて言ったと思う? どうせ二人だし誰も見に行かないでしょ。だって。あぁぁ、思い出しただけで腹たってきた。ちょっと待っときな。もう一回行ってあのハゲ堅物頭に文句言ってくるから」

「はぁ」

顧問は、通称“ハゲ頭”と呼ばれる教頭に言われたことを思い出し、苛立ちに任せてドアを勢いよく開け、職員室に走って行った。その怒涛の勢いに押されてしまった二人はただ呆然としていた。ただ、花咲はすぐに扉を閉め姉をシャットアウトすることは忘れなかった。

「なんなんだ。あいつは」

「今日も元気だったね〜」

「お前もな」

「へ?」

古都宮が首を傾げた瞬間、またもやドアが勢いよく開いた。

言うまでもなく花開院阿国だ。

「言ってきた!」

「早っ。んで? どうなったんだよ」

「そこに間抜け面で立ってたからね。でもやっぱり文化祭はダメだった。でも、代わりに部費少し多めに出せって脅……頼んできた。これ追加分ね」

先生は大袈裟に咳払いし、話をはぐらかした。そして、追加分の部費の入った封筒をぴらぴらとチラつかせた。その時の顔は実に悪ガキのような表情だった。

「今、脅すって言わなかったか?まぁ、貰うけど」

「気のせい気のせい。細かいこと気にしてたらハゲるぞ☆」

「うっせぇ」

「でもまぁ、来年もあるし。二年になったらもっと忙しいだろうしね。一年の内に楽しんどきな。高校の文化祭ってやつをさ」

「でも、やっぱりやりたいよ……」

「美波……」

いつもとは様子の違う美波に花咲は狼狽してしまった。

「私も言ったんだけどさ、あの頑固親父がどうしても首を縦に振らんのよ。……そうだ。来年はこの部室より広くて目立つ場所で出来るように交渉したげる。多分、来年のことは今考えてる暇ない筈だからごり押しすればなんとかなる。だから、今年はこの高校の文化祭がどんな感じか身をもって体験しておいで。そしたら、来年どうすればもっと人が来るかわかるんじゃない?」

「今から来年の準備するの?」

確認のためか理解しきれていないのか、美波が首を傾げつつ顧問に質問を投げかけた。花咲も美波同様顧問の方を向いた。

「そう。そしたら、数ヶ月もない期間で作るのよりもっと良いものが出来るでしょ? 日本刀についてするんだっけ? それなら模造刀っぽいの作ってみるとか。一年あれば出来ることっていっぱいあるでしょ」

「うん。分かった。模造刀作る! ……和泉くんが!」

「俺かよ! まぁ、それっぽいのは作れなくも無いけど」

いつになくやる気を出したかと思えば、自身に全て押し付けてきた古都宮に花開院はいつもの呆れ顔になった。ただ、いつもより少し目元が笑っていた。

「それじゃ、決まりね。あぁ、そうそう。安心しておいてね。ハゲがあんたたちに頭上がらないようにしてきてあげるから♡じゃあね〜」

「和泉くん」

「何だよ」

「文化祭、楽しもうね。あと、来年は宜しくです」

「はいはい」

花咲は、いつもの調子に戻った美波に呆れつつも、安堵した。果たして、目前に迫った文化祭ではいつもとは違う日常になるか。それともいつものほのぼのスローライフが繰り広げられるのか。


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