プロローグ
とある高校の何気無い放課後。社会科準備室を占拠している部活動。伝統研究部。通称“伝研”。元は10人程いたものの、今では仲が良いとも悪いとも言えない男女だけが所属している部活動。
一人は、美波杏。伝統研究部部長。かなりの天然で、いつものほほんとしている。誰が見ても危なっかしい存在。
そしてもう一人が、花咲和泉。副部長兼会計。美波に比べてしっかりしているものの時々のほほんとしているところが目撃されている。
そんな似ているようで似ていない二人が伝統研究部のたった二人の部員。
そして、今日も切磋琢磨と(?)部活動に勤しんでいる。
「なぁー、俺たちいつまでこうしてるんだ?俺だって暇じゃないんだからさ」
「さぁ。知らなーい」
「いつまでもこうしてるのもどうかと思うんだよな」
「何言ってるの。いっつもこんな感じでしょ。今更今更ぁ〜」
「あーあ。何でこんな部活入ったんだろ」
「ろくに活動内容も知らないのによく言うねぇー」
「え?この部活に内容とかあるの?僕初耳ぃ〜」
「イラっとするな。その言い方。まぁ、良いさ。私が教えてあげようじゃないか」
「カッコつけなくても良いんだぞ?別にさ」
「さっきからいちいち何なのさ。ちょっとは人の話を聞きたまえよ」
「よく言うな。美波だって、俺の話聞かないくせに」
「にゃはははは。今は今。前は前ですぅー」
「うわぁ……。開き直りやがったよ。此奴」
「つべこべ言わないの。さて、話を戻すけど、此処がどんな部活か知りたいんだよね?何で活動もよく知らない部活に君が入ったのかは聞かないでおいてあげるけど」
「どさくさに紛れて俺のこと貶してないか?」
「勘違いじゃないかな?まぁ、そんな和泉くんに私が判りやすく説明してあげよう。我が伝統研究部は簡単に言うと、日本ならではの文化とかそういうのを一応調べたり実際に見に行ったりする部活動さ。どう?わかった?」
「多分わかった……?」
「多分かぁ。和泉君にはちょーっと難しかったかなぁー。ごめんねぇ」
「えー?そんなこと言って良いのかな?今度勉強教える約束してたけどなしにしても良いんだぞ?」
「そんな! 和泉くんの鬼! 悪魔! タコ! おたんこナス!」
「ずっと思ってたけど、美波の悪口のバリエーション少なすぎ。しかも、最後の何なんなんだよ。タコとナスって。俺は食いモンか」
「か、関係ないでしょ。私がナスって言ったらナスなの」
「の割には随分と困惑してるな。今まで誰にも言われなかったのか?タコとナスって何?って」
「適当なこと言うなー。そんなこと言われたことないもん。ちょっとしか」
「カモフラージュしようとすんな。というか、言われたことあんのに変えないのか?」
「かっかっかっか。これを含めて私だからね。変える気はないよ。和泉くんだって私が急にお嬢様言葉使い出したらどう思う?おかしいでしょ?それと一緒だよ」
「よく考えてみろ。全然違うぞ?まぁでも、美波は今のままでいいか。今更キャラ変えられても困るし」
「しょうがないなぁ。和泉くんがそこまで言うなら私は今まで通りに過ごすさ。だから、和泉くんもそのままでいてね。約束だから」
「らしくないこと言ってんじゃねぇよ。それと、俺はそろそろ帰るからな」
「何言ってるの! まだ終わってないでしょ!
部活」
「っても、良い加減飽きてきたしなこれ。逆に美波は飽きてないのか? そこそこ疲れるし」
「仕方ないじゃない。これくらいしかすることなかったんだもん。最後まで付き合ってよ。これじゃあ、今度どっちが餡蜜奢るか決まらないじゃない」
「良いよ。餡蜜ぐらい奢ってやるから良い加減終わろうぜ」
「絶対ヤダ。勝負は正々堂々とするものですぞ」
「そういうとこだけやたらと真面目だな。なら、帰り道でも続けてやるから良い加減下校しないと暗くなるぞ?」
「それなら良いか。よし、帰ろう。あ、でも今日中に決着つけられなかったら明日も続行だからね。途中で投げ出すとかありえないんだから。白黒はっきりつけたいし」
「仕方ないから、明日も付き合ってやるよ。ただし、明日も続けばな」
「何言ってるのさ。今だって現に続いてるじゃない」
「良いから、聞けって。美波が一番好きなおでんの具は何だ?」
「大根」
「はい、負け」
「あぁぁぁぁぁぁ。嵌めたな‼︎私がおでんの大根好きなの知ってるくせに‼︎」
「にしししし。頭使ったもん勝ちってことだよ。な? 今日で終わったろ?」
「ロクでもないことに頭使うなー。折角この私が華麗に勝利を収めようと思ったのに。悔しいぃぃ」
「良いだろ? たかだかしりとりだ」
「だって、しりとりだって日本ならではの文化だよ? ちゃんと部活だよ? この部長様の私が勝たないで如何するのさ」
「さっきから、訳わかんないんだけど」
「兎に角。此処では部長である私がルールです」
「直ぐに部長辞めたいって言うのはどこの誰だっけかな」
「何を言うか。いつ私がそんなこと言ったのよ」
「4日程前だったかな? 如何だ? 思い出したかい?」
「…………和泉くんの。和泉くんの馬鹿ぁぁぁ。もう知らないもん。一人で帰るもん。別に和泉くんといっしょに帰る必要は無いわけだしね」
「猫と戯れてて迷子になったことのあるやつほって帰れるかよ。ほら、行くぞ」
「そんなこと言われたって、私は一人で帰れるもん。もう高校生だし」
「仕方ないな。うちの部長様は。ほら、帰るぞ。杏」
「なっ。何? 急に名前呼びして…………。と、というか。和泉くんの負けだぞ」
「ははっ。これでおあいこだろ?だから気にするなって。名前のことも、しりとりのことも」
「もう知らないんだから!」
「とか言って、一緒に帰る辺り本当杏らしいな」
「なっ。また名前で‼︎」
「別に良いだろ?これからも宜しくな。杏」
「こちらこそだよ。和泉…………」
「え?なんて?」
「うっさい。ほら、早く帰ろ」
「はいはい」
そして、今日もまた何事もなく部活動が終わる。それでも、恋の物語はまだ始まったばかりなのだ。