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勝利と帰還


 状況は完全にエディオンへ傾いていた。

 一方的にプラントオロチを殴り、蹴り、叩く。

 迫る木の根を手に纏った魔力が片付くった爪が引き裂き、足の爪で切り裂き、尻尾が弾き飛ばす。


「しゃらあっ!」


 気合いの籠った声と拳で表面の一部が割れて胴体の中が露出する。

 普通の木の幹なのだが、そこから樹液のような粘度の高い液体が血のように垂れた。


「すげぇな、あいつ……」

「何者なんだ、あの子は」


 感想を口にしている探検者達の傍らでカイエンは必死にエディオンを目で追う。

 いくらルーディアンに鍛えられたといっても、今のエディオンの動きはそれだけでは説明できない。

 明らかに異質な何かが影響しているとしか思えない。


(一体、彼に何が起きているんだ)


 そう思いつつ、同時に自分にもあんな事が起きないかと頭の片隅で思う。

 もしも同じ事ができるのならば、ひょっとするとルーディアンさえも上回れるのではないかと。

 思わず出た欲だが、すぐにその考えは消え去る。

 あんな力を制御する自信が無い。

 力が強くなればなるほど、心の力も問われてくる。

 同じ事を考えた時点で、自分にはそれが足りていない。仮に同じ事ができても、その力に溺れるだろうと思った。


「ふっ……うんっ!」


 突進してきた頭部の一つを片手で受け止め、指を食いこませて引っこ抜くように首辺りで引き千切る。

 引き千切られた首から先端の尖った木の根が飛び出してくるが、掴んでいる頭部を放り棄て、全て拳で粉砕する。

 尖っているはずの先端が拳に潰され、次々と粉砕されていく。

 目にも止まらぬ連打に、まるで拳の一撃で全てを粉砕したかのように見える。


「駄目だなこりゃ。もう俺達が割って入ることも、助太刀する事もできねぇ領域だ」


 諦めたような表情と口調でアーガンは浮かせていた腰を下ろす。

 同じように腰を浮かせていたエリーナも座り、強敵のはずのプラントオロチを一人で圧倒するエディオンの姿を黙って見ている。


「だっ、らぁっ!」


 遂に床を貫通させて下層の魔物に向かわせていた木の根まで総動員して攻勢に出たが、状況は変わらない。

 気合いの入った声と共に繰り出す拳と蹴りと尻尾が全ての木の根を粉砕し、頭部の口から放たれる竜巻は腕を振って放った魔力の刃で切り裂く。

 その刃は竜巻どころか頭部まで縦に切断し、壁にも大きな傷跡を残す。

 何もできず木の根も他の頭部も破壊されていくプラントオロチは、混乱の極地にいた。


(ナンダ、アレハ)


 どれだけ攻撃しても逆に破壊され、どれだけ再生しても割に合わないほどあっさり破壊され、どれだけ防御しようとしても防御ごと破壊される。

 何度刃で斬りつけられても多くの魔法を当てられても、さほど傷つかなかった体にヒビが走り破壊されていく。

 しかもさっきまで戦っていた餌よりも小さな存在の、素手による攻撃で。

 最も強固なはずの胴体に叩き込まれればその個所がへこみ、拳が食い込み、体内にも亀裂を走らせる。

 それはプラントオロチに肉体だけでなく、精神的にも亀裂を走らせていく。

 創造主たるあの女性が喜んでいたこの強さが、全く通用しない。

 このままで、命までが破壊される。そう思えるほど状況は劣勢で、既に頭部は残り四つ。木の根もほとんど残っていない。

 下層の魔物から奪い、頭部に蓄えてある魔力を使えば木の根は全て再生可能。

 しかしそれは無駄だと、これまで何度も再生させては破壊されを繰り返し、学習している。

 だからといって再生させなくとも、このまま破壊されるという未来は変わらない。


(イヤダ、ハカイサレルノハ、イヤダ)


 手を加えられて生み出された魔物とはいえ、命がある以上は生きたいと願う。

 その願いがプラントオロチに新たな力を引き出させた。


(イヤダァァァァァッ!)


 残りの四つのうち三つを引っ込め、さらに全ての木の根をまで引っ込め、貯めこんだ魔力を胴体だけに行き渡らせる。

 すると胴体についた傷が修復していき、鋭い爪のある四本の足と二本の手、太い尻尾が生えてきて頭部には三本の角も伸びてきた。

 突然の変化にエディオンは攻撃の手を止め、その様子をじっと眺める。

 やがて変化が終わると、太い尻尾を揺らしながら四本足で立ち、手を握りしめて天井を向いて咆哮を上げた。

 その姿は四本足で翼こそ無く、体は樹木のままだがまさしく竜。


「なんなのよぉ……これぇ……」

「さっきからなんでこんな変な事ばかり……」


 次々と目の前で起こる事態を飲み込み切れず、現実逃避しかける。

 逆に現実を受け入れている面々は、今度は変化ではなく完全に進化したような姿を見て苦い表情を浮かべた。

 しかし相対しているエディオンだけは、ニヤリと笑っていた。


「ハハッ。ハハハハハハハッ!」


 急に笑いだした姿を見て、恐怖で狂ったかと数人が思った。

 その考えが間違っていると分かったのは、この直後。


「いいね。そうこなくっちゃ!」


 愉悦に浸る表情で魔力の爪を纏った両手を広げ、構えを取る。

 そこへ振り下ろされるプラントオロチの腕。

 当たれば間違いなく叩き潰されそうなその一撃を、掌底によるアッパーで弾き返す。

 腕が跳ね上がった勢いで体が後ろによろけ、そこへ跳び上がったエディオンが「空駆け」をして、その勢いを利用しての回し蹴りを首元に叩き込んだ。

 蹴りを浴びた個所には亀裂が走り、巨体が床に倒れ壁や天井から木片がパラパラと降ってくる。

 さらに、倒れたプラントオロチの尻尾を掴み、魔力の爪どころか指が喰い込むほど強く握って力任せに投げ飛ばした。


「嘘っ!?」」


 その光景に誰かが思わず叫ぶ。

 何十倍という大きさの差をものともせず投げ飛ばされ、壁に叩きつけられるとその衝撃で壁にまで亀裂が走っていく。

 床に落ちて片膝を着くプラントオロチへ、さらに追撃の拳が腹部に、続けて下顎にアッパーカットが叩きこまれる。


(ナ……ゼ……)


 さっきまでより強い力を感じるのに、それすら全く通用していない。

 攻撃は全て掻い潜られ、攻撃を一方的に受けて、踏みつけようとしても受け止められ、逆に押し返されてよろけて転ぶ。

 転んだら尻尾を掴まれて投げられ叩きつけられ、追撃とばかりに上空から落下しながら蹴りを脇腹に叩き込まれる。


(ムリ……ダ……)


 もはや何をどうしても無駄。

 あの敵を止める事はできない。

 そう判断して諦めたプラントオロチの頬を拳が打ち抜き、首がミシミシと軋む。

 抵抗すらしなくなっても、エディオンの攻勢は止まらない。

 容赦なく殴って蹴って尻尾で叩いて爪で切り裂く。

 立っているのも困難なほどヨロヨロになったプラントオロチへ、トドメの一撃が下される。


「おぉぉぉぉっ!」


 天井近くまで「空駆け」で上昇し、天井を蹴って落下しながら右拳に魔力を集中していく。


「らあぁぁぁっ!」


 落下している最中も「空駆け」で加速しながら、右拳を振り下ろす。

 その瞬間、プラントオロチにはエディオンの背後に自身より巨大な赤い竜が見えた。

 それが幻覚なのかなんなのか、もうプラントオロチにはどうでもよかった。

 頭部に右拳が直撃すると、すさまじい音と共に全身に亀裂が走ってあっという間にプラントオロチの体は砕け散る。

 外側へ放出された衝撃波が破片を吹き飛ばし、戦いを見守っていたカイエン達は飛んできた破片から顔を守りながら、衝撃波が治まるのを待つ。

 やがてそれが治まって目を開けると、残っていたのは砕け散った木片の中心に立つエディオンだけだった。


「た、倒しやがった、たった一人で……」


 呆然としながら呟くアーガンの言葉は誰もが抱いている感想。

 ランク二の成人なりたての少年が、武器も無く己が身一つで勝って見せた。

 それを目の当たりにした一同が見ている前で、エディオンの体を覆っていた魔力が消えていく。

 両手足の爪を形成していた魔力も消え、全身を覆っていた魔力も消えて鮮紅色に輝いていた鱗も赤黒い色へと戻る。

 すると体勢を崩し、膝から崩れ落ちた。

 床に手をついて四つん這いの姿勢になり、荒い呼吸を繰り返す。


「ハァー、ハァー」


 汗が噴き出て床に付けている手足が小刻みに震え、思考が働かない。

 やがてゆっくりと倒れ、地面にうつ伏せになった。

 同時に、エディオンの中で僅かに開いていた何かの扉が、中から覗き込む鋭い視線を遮るようにゆっくりと閉じる。


「エディオン君!」


 倒れたのを見てカイエンが駆けつけ、容体を確認していく。

 どうやら疲労に加え力を使い果たして気絶しただけで、どこにも異常は無い。

 歩み寄ってきた仲間達にもそれを告げ、安心した雰囲気に包まれる。

 その一方で、水晶越しに一部始終を見届けた羊人族の女は映像を切り、満足そうに微笑む。


「はふう。いいものを見させてもらったわ。この子達とするのより、何十倍も気持ちよかったわ」


 傍で横たわっている少年の一人の頭を撫で、体に纏っているシーツを外して服を身に付けていく。

 最後に白衣を羽織ると、満面の笑みで部屋を出て行った。


「是非あの子も、隅から隅まで調べてみたいわね。それに、かなり美味しそうだし」


 舌なめずりをした羊人族の女は、そのまま廊下を歩き宿を出て行った。



 色々とあったが迷宮主の討伐に成功し、迷宮攻略は成った。

 攻略班は約半数が命を失うも、生き残った面々は迷宮から脱出するために歩を進める。

 気を失っているエディオンはカイエンが背負い、エリーナとアーガンが先頭に立って階段を下りていく。


「ったく、無茶苦茶やったくせに、寝顔は年相応だなおい」


 安らか寝顔にアーガンが呆れる。

 それほどに彼らにとっても、つい先ほどまでのエディオンの戦いは衝撃的だった。


「まさに竜って感じだったものね。特にあの手足に纏った魔力の爪とか、彼の雰囲気とか」


 エリーナの言う通り、誰もが戦う姿から竜を想像した。

 最後の一撃など、まるで背後に竜の影が見えたような気にもなっている。

 実感した面々がうんうんと頷く。


「しかし、あれはなんだったんでしょうか?」

「分からない。あんな現象は初めて見た。感情が高ぶっての魔力の暴走、というわけでもあるまい」

「そうなったら暴走した魔力で、自身を中心に魔力の暴発が起こるだけで、あのようにはなりません」


 冷静になってきた頭でエディオンの変貌の事を話し合うが、結論は出ない。

 推測すら曖昧で、一つも的の淵にすら掠めていない。


「んで、出た結論が本人に聞くとは、情けねえ話だ」


 頭を掻くアーガンの言う通り、最終的には本人に聞くという結論に至った。

 情けないと思いつつも、それしかなかったとも言える。

 そんな一行が一階層に到着すると、魔物が外に出ないよう一階層に残っていた面々が、床に倒れたり壁に寄りかかって座ったりしながら休憩していた。


「おう。大丈夫かお前ら」

「あっ、アーガン守備隊長。討伐、おめでとうございます」

「んな事はいい。それより被害は?」

「……あそこに倒れている、二人がやられました」


 兵士が指差した先には、探検者二人の亡骸が横たわっていた。


「そうか……。外には?」

「数匹抜かれました」

「分かった。立てるか?」

「はい。もう充分休めたので」


 口ではこう言っているものの、やはり疲れているのか動きは鈍い。

 出入り口から外に出ようとする多くの魔物と戦っていたのだから、仕方ないとも言える。


「おっ、出て来たぞ」


 攻略班が迷宮内から戻ったのを見て、外で待機していた露払い班が寄ってくる。

 その中にいたフィリアは、カイエンに背負われているエディオンを見て顔色が青くなった。

 何かあったのか、大怪我でもしたんじゃないのかと言葉も発せないほど不安な表情でいる姿に、カイエンは歩み寄ってエディオンを下ろして告げる。


「安心しろ。力を使い果たして、気を失っているだけだ」


 その言葉に心の奥底からホッとして、地面に寝かされたエディオンの手を取る。


「どうせ無茶したんでしょ。バカディオ……」

「だが、そのお陰で我らは勝った」


 勝ったという言葉に露払い班の注目が集まり、その中でカイエンは叫ぶ。


「少なくない犠牲は出したが、迷宮主は討伐した!」


 討伐成功に歓声が上がり、手を取り合って喜びあう。

 しかしそれは露払い班だけの話で、戦いの内容を知る攻略班は素直に喜べない。


「すまないが露払い班は、迷宮内に入り魔物の素材の回収を頼む。中にもう魔物はいないから安心しろ。私達は、少し休む」

「はい!」


 元気よく返事をした露払い班のリーダーが先頭に立ち、迷宮内へと雪崩れこむ。

 自分も行かなきゃと立ち上がるフィリアはエリーナに止められ、今回の功労者を労ってあげてとエディオンを任された。

 再度座り、暢気に眠っている姿に微笑み、頬に触れて小声で呟く。


「こっちの気も知らないでぐっすり寝ちゃって。ディオったら……」


 若い男女の様子に攻略班の心が癒されたような気分になったちょうどその時、露払い班の一人が迷宮から駆け出してきた。


「カカカ、カイエンさん! なんですかあのミイラっぽい魔物の数は! しかもそのミイラのほとんどが粉々ですし!」


 真っ青になっているその冒険者に、説明を省いていた事に気づいたカイエンは、どうしようかと思案する。

 結局先に回収をしてもらい、後で全員にまとめて説明することにして、その冒険者を回収に向かわせた。


「ミイラであれなら、プラントオロチを見たらどうなるかしら?」

「さあな……」


 今はとにかく休みたいとカイエンは寝転がる。

 この三十分後、最上階にいるあの迷宮主は何だと、露払い班の一人が混乱しながら飛び出してきたのは誰もが予想していた通りだった。


 露払い班による素材の回収を終え、一行は魔物の領域から引き上げるため移動を開始する。

 一休みしたお陰で攻略班もある程度回復し、足取りはそれほど重くない。

 迷宮内では色々とあったが、無事に迷宮を攻略して生きて帰れる事に安堵し、雰囲気も明るい。

 ただエディオンはまだ気を失ったままで、再度カイエンに背負われていた。


「あの、すみません。ディオを運んでもらって」


 最初は自分が連れて行くと言っていたフィリアだが、女の子には大変だろうとカイエンが言いだして背負っている。


「気にするな。功労者を労うのは当然だ」


 気にした様子も無くエディオンを背負う姿は、まるで親子のよう。

 どちらも同じ竜人族のため、なおさらそのように見える。


「しっかし、よく寝てますねその子」

「どんだけ戦ったんですか?」

「えぇっとな……ミイラのほとんどをぶっ飛ばして、迷宮主もほぼ一人でぶっ飛ばした」

『……はい?』


 約一名を除き、現場を見ていない露払い班は呆気に取られる。

 その反応も当然かと思うアーガンは、苦笑するしかなかった。

 どういう事だと露払い班がざわめく中、唯一人呆気に取られなかったフィリアは、仕方ないなという目でエディオンを見る。


「もう。やっぱり無茶したのね」


 まるでそれが当然の事のように受け止め、背負われているエディオンに視線を向ける。


「えっ? えっ? 君は、驚かないのかい?」

「はい。だってディオですから」


 なんでそうなるのか自体、訳が分からなかった。


「いつもそうやって無茶やって、何度もルーディアンさんと戦って、結局は叩きのめされて悔しがってるくらいですから」


 さらりと口にした名前に、エディオンとルーディアンの関係を知る一部を除いて思考が固まった。

 最強の亜人。

 竜を素手で倒した竜撃者。

 歩く最終兵器。

 生きた伝説。

 あらゆる呼ばれ方をしている最強の男の名前が、井戸端会議感覚で飛び出したのだから無理も無い。


「えっと、じゃあカイエンさんが背負っているそいつは……」

「この子曰く、ルーディアン殿の息子で、ついこの間旅立つまで鍛えられた弟子らしい」


 その事を知らなかった全員から驚きの声が上がる。

 道理で強いはずだとざわめきだし、それならあの姿はルーディアンに教わったのかという話まで出た。


「あの、あの姿って何ですか?」

「実は迷宮の中で、彼が」


 カイエンがプラントオロチと戦っている間の事を説明していく。

 特に変貌して現れた事を強調して説明するが、フィリアには全く思い浮かぶ事が無い。

 これまでずっと一緒にいて、修業もルーディアンとの実戦稽古も見ていた中で、そんな姿になった事は一度も無かったのだから。


「知りません。ディオは、そんな姿になった事なんてありません」


 幼馴染としてずっと一緒にいたフィリアも知らない。

 その情報が周囲の視線をエディオンへと向けさせる。


「では、ルーディアン殿は?」

「無いです。そもそもあの人の事だから、できるのならやってみせて私達に自慢するはずです」


 要するにルーディアンが習得していて、それを教わった訳でもない。

 ならば、あれは何なのかという疑問が余計に湧いてくる。

 そんな中、渦中の人物がようやく目を覚ました。


「ん……ん?」


 目を開けたエディオンはボンヤリしていて、頭を揺らしながら体を起こす。


「あれ? なんで俺、カイエンさんに背負われてるんだ? 迷宮は? 迷宮はどうなったんだ?」


 寝ぼけているのか記憶がおぼろげなのか、自分が迷宮主を倒したのを覚えていないような反応を見せる。

 背中から下ろしてその事を、変貌の件も加えてカイエンが説明したのだが。


「……よく覚えていません」


 本人曰く、ミイラを殴っていく最中にとても強い力を感じ出し、それに身を任せてった。

 するとどんどん力が溢れてきたのだが、途中から記憶が曖昧になり、プラントオロチとの戦いは覚えていない。

 はっきりと覚えているのは、鋭い眼光から赤い激流が自分を飲み込むように押し寄せてくる、そんな不思議な感覚だけ。


「なんだそりゃ? 眼光って、誰かに睨まれていたっていうのかよ」

「あくまで俺が感じた感覚であって、本当に睨まれていたのかどうかは……」


 アンデッド系であるミイラを直接殴る事に慣れるため、やたらとテンションを上げて今までにないほど高揚はしていた。

 しかし、それだけでは説明がつかないあの現象。

 気分が高揚し過ぎてそれに至るのなら、これまでにも報告例があるはず。

 それが無いという事は、何かしら別の理由があるとしか考えられない。


「……とにかく、君にそういう事が起きたという事は覚えておいてくれ」

「はい……」


 まだ上手く働かない思考の中、エディオンは返事をした。


 一行はその後、無事に領域守備隊の元へ戻り、迷宮の攻略を伝える。

 先駆けとして馬人族の兵士がギルドへ伝えに走り、守備隊の穴埋めをしていた探検者達は、戻ってきた仲間達を称える。


「さすがカイエンさん。迷宮攻略おめでとうございます!」

「エリーナお姉さま、お疲れ様です!」


 主に称えられているのは、名のある人物達ばかり。

 ここで彼らがエディオンの事を打ち明けてもいいのだが、それは控えておくことにした。

 というのも、守備隊の代行をしている中にいた彼の仲間との再会を、邪魔したくなかったからだ。


「おかえり~。無事で良かったねぇ」

「無事帰還。祝福……なの」


 普段通りの緩い笑顔で二人に抱きつくウリランと、少し距離を置いて無表情ながらも帰還に安堵するリグリット。

 その様子を見ていたら、誰も四人の邪魔をしようとは思えなかった。


「よし、町に戻るぞ。凱旋だ!」


 カイエンの声と共に雄叫びが上がり、それが収まると一行は町へ向けて歩みだした。


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